34話 保護
俺はゆうちゃんが誘拐されたか確認するためにゆうちゃんが住んでいた場所について聞いた。
子供の頃でも自分がどこに住んでいたか。県や市くらいなら分かるだろう。
それを聞いてゆうちゃんが答えたのは今住んでいる場所とは100キロ以上離れた場所だった。
やはり、ゆうちゃんは誘拐されていたようだ。
という事はあの人は誘拐犯だったという事か…………。
何か言ってやろうにも、もう死んでしまったのなら何も言えないな。
そこで俺はあることに気づいた。
それはゆうちゃんが誘拐されたのなら近くにゆうちゃんの家族は居ないという事だ。
ならば、コナーがあと貼り紙を貼ったとしても知り合いは見つからないだろうな。
「ゆうちゃんはお母さんとお父さんに会いたい?」
「うーん。会いたい! けど、お兄ちゃんが居るなら私はそれでいいかな!」
そう言ってゆうちゃんは満面の笑みを浮かべる。
かわっいいっ!
家族が居ないというのはとても悲しい事だが俺にとっては好都合だ。
俺はゆうちゃんと一緒に居たい。だが、ゆうちゃんの家族がゆうちゃんを引き取りに来るかもしれない。
まぁ、その程度で離れるつもりは無いが、それでもゆうちゃんがそれを望むというのなら俺はそれを止められないだろう。
だが、近くに家族が居ない。
それにゆうちゃんは俺が居ればそれでいいと言っていた。
ならばわざわざ遠くに居るゆうちゃんの家族を探しに行く必要も無いだろう。
俺とゆうちゃんはずっと一緒に居られるという訳だ。
俺は嬉しくなってゆうちゃんに抱き着いた。
ゆうちゃんはそれを拒否することも無く俺に抱き着いてきた。
これが幸せか…………!
俺は扉の方を見る特に気配は感じない。
「ゆうちゃん。さっきの…………キスの続きをしよう。」
「…………駄目だよ?」
「え!?」
何で!? さっきは良いって言ってくれたのに!
「キスしたらお兄ちゃんが犯罪者になっちゃうんでしょ? あの時は全然大丈夫だって思ってたけど、けど、お兄ちゃんが犯罪者になっちゃうのはやだ!」
「ゆうちゃん…………。」
そっか。ゆうちゃんはそんなに俺の事を考えて…………。
「分かった。我慢する。」
「うん! 私が大人になればいいんでしょ? もう私はあとちょっとで大人だからすぐできるようになるよ!」
うん。あと何年後だろうか。その時まで俺がゆうちゃんに嫌われなければいいが…………。
ネットで世の中のお父さん世代の人達が昔は大人になったらお父さんと結婚するって言っていた娘が成長するにつれてどんどん冷たくなっていったとよく嘆いていた。
そんな現象がゆうちゃんでも起こってしまうかもしれない。
くっ、そんな事は無いとは分かっているがそれでも不安な物は不安だァ!
俺がそんな風に悶々としているとコナーが入って来た。
「悠ちゃん。ちょっと晴輝君と2人きりで話させてくれない?」
「う、浮気!? 駄目よ! お兄ちゃんは渡さない!」
「あー、大事な話なんだ。浮気は…………しないよ。本当にちょっとだけだから頼むよ!」
「えー。」
ゆうちゃんはずっと渋っていたが、コナーが引かずに粘っていると「しょうが無いわね、ちょとだけよ! けど、浮気は許さないからね!」 と可愛さたっぷりに言った。
「さて、晴輝君。こっちに来てくれ。」
「お、おう。」
俺はコナーに連れられて部屋の外に出た。
「実は僕、さっきの会話全部聞いていたんだ。盗み聞きした事に着いては謝ろう。出来るだけ早く話が聞きたかったからね。因みにまた悠ちゃんにキスしようとした事は後でみっちり話し合おう。」
「げっ、それも聞いてたのか。」
「まぁ、それは一旦いいとして、本題は悠ちゃんの事だ。一応紙は貼ってきたけど、さっきの話を聞いた限り知り合いは現れなさそうだ。だからと言って他の県に訪ねて回る訳にはいかない。今は通信手段も限られているし、子供一人のために人材を割けるほどの余裕も無い。だから、悠ちゃんは君が保護していて欲しい。それが1番いいだろう。」
そんなの当たり前だ。最初からそのつもりでいた。
俺が答えを返そうとすると俺が答えを返すよりも早くコナーは答えた。
「どうせ最初から答えは決まってるでしょ。まぁ、せいぜい健全なお付き合いをね! ほらほら、早く戻ろう!」
そう言って俺とコナーは部屋に戻った。