32話 コナー君は怒りました!
「まずは晴輝君。君からだよ!」
コナーは少し悲しそうな顔をする。
「あのね、僕達みたいな20代後半の人がその子みたいなちっちゃい子に手を出したら犯罪だって分かるよね?」
「それは分かるだが、俺達はそんなちんけなものに阻まれないほどの深い愛で結ばれているんだ!」
「そうよ!」
ゆうちゃんも同調してくれる。
頬を膨らませながらプリプリと怒るゆうちゃんはこの世のものとは思えないほど可愛い。
「はぁぁぁぁぁ。そういう問題じゃ無いんだよなぁ。」
コナーは深いため息をつく。そんなに俺とゆうちゃんの仲を引き裂きたいのだろうか。
「はっ! まさかお前は非リアなのか…………。それはすまなかったよ…………。だけど、だからと言って俺たちの仲を引き裂く理由にはならないぞ! やめるんだ!」
「はぁー! カッチーン! 頭にきちゃいました! そもそも僕は彼女とか作る気は無いの! 女の人達は昔っから僕の事を子供扱いするし…………。」
あぁ、やっぱり悲しい理由だったな。
俺が憐れむような顔を向けているとコナーは更に怒り出した。
「ぼ、僕だって好きで子供みたいな見た目してる訳じゃ無いんだよ!? それなのにみんな僕の事可愛いって…………酷いよ。」
コナーの声は少しずつ沈んでいき、瞳には涙が溜まってきた。
まずい。コナーに邪魔をされるのは嫌だが、別にコナーのことが嫌いな訳でもない。なので、コナーが辛い思いをするのは嫌なんだ。
ポンッ
「…………!?」
俺はコナーの頭の上に手を置いて、そのまま優しく撫でてやる。
「まぁ、何だ。戦ってる時のお前はかっこよかったよ。見た目がどうとかそういうのを通り越したカッコ良さだった。お前の本質はその見た目には無い。だからそんなにきをおとすな。」
「晴輝君…………。」
コナーは潤んだ瞳で俺の事を上目遣いで見つめてくる。
くっ、可愛いっ! やめてくれ! 俺にはゆうちゃんというパートナーがいるんだ!
俺から発せられる不穏な雰囲気を感じ取ったのか、ゆうちゃんは頬を膨らませながら怒った。
「もう! お兄ちゃん! もっと私にも構ってよぉ!」
やばい! その顔でそんな言葉を言われたら構わずには居られないじゃないか!
俺はコナーの頭に置いていた手を離し、ゆうちゃんの方に手をやった。
「あっ…………。」
コナーは名残惜しそうに俺の手を眺めてくる。
しょうが無いだろ? ゆうちゃんがかまって欲しいと言っているんだ。
かまわないという選択肢は無いだろ?
だが、その想いが通じたのか通じなかったのか、コナーの瞳に影がかかっていく。
「うぅ、たらしめ…………引きこもりだったくせに何でこんなに人の扱いが上手いんだよ。」
「ん? 何か言ったか?」
「もう良い!」
コナーは走り去ってしまった。
ううむ。コナーには少し悪いことをしてしまったかもな。
だが、俺はゆうちゃんと別れたりする気は一切ない。
ゆうちゃんはコナーが居なくなった途端に俺に抱きついてきた。俺もゆうちゃんの頭を撫でてやる。
はぁ、幸せだなぁ。
「お兄ちゃん。じゃあ、さっきの続きしよ?」
「…………そうだね。」
そう。コナーが居なくなった今、邪魔する者は居ない。
今ならいくらあんな事やこんな事したとしても咎める人は居ないのだ!
「じゃあ、行くよ。」
ここは年上の俺がリードするべきだろう。
少しずつ俺とゆうちゃんの顔が近づいていく。
ゆうちゃんの顔は真っ赤だ。多分俺もだろう。
俺とゆうちゃんの顔と顔の距離が段々と少なくなってゆく。そして…………。
バァァン!
「まぁったぁぁぁ!!!! はぁ、はぁ、やっぱりね。僕が居なくなった途端そうなるに決まってるよね。晴輝君! いい加減にやめてくれ!」
「またか。コナー。いい加減にするのはそっちだ! 俺たちの仲を引き裂くな!」
「あああぁぁぁ!!!! もう! 一旦避難所の方に行くよ! その子の親族がその近くに居るかもしれないし、それに君の頭を冷やす必要もあるしね!」
「俺たちの愛はその程度では冷えないくらいアツアツだけどな!」
「五月蝿い! 行くよ!」
俺とゆうちゃんはコナーに引っ張られて外に連れ出された。
確かに、ゆうちゃんの親族を探すというのは大切だ。
ゆうちゃんの幸せの為にも必要だし、それに俺達が付き合いだしたことも言わなければならないからな。
それから俺とゆうちゃんはコナーに連れられて、何事も無くホテル街にたどり着いた。
因みに道中出てきたゴブリン達は俺とコナーで安全に倒した。
◇◇◇◇
木で覆われた警察署の前で、凪は呆然と佇んでいた。
「お前達は…………。お前達は何で俺の大切な物をことごとく奪っていくんすかっ!!」
凪は巻きついていた木を叩く。
この木はもう討伐されたトレントの木だ。
トレントは能力で自分のでは無い木を至る所に撒く事が出来る。
今回のモンスターの大襲撃により、警察署は甚大な被害を受けた。
警察署にはその時沢山の人が居たが、その殆どがトレントによって殺されてしまった。
その中には凪の仲間や家族も含まれていた。
「何で…………。」
バンッ!
一際強くその木を叩く。
その時、凪はほんの少しだけその木が動いた様な気がした。
凪は少し離れてその木を観察する。
やはり動いている。
凪は戦慄した。
トレントはまだ生きている。
そう確信したからだ。
「くっ!」
気づいた時にはもう遅かった。
木が鞭のそうにしなりながら凪の体に巻き付く。
「んぐっ!」
凪の口の中に木が入っていく。
あぁ、ここで死ぬのか。
凪は半場諦めかけていた。
その時、その木の根元に落ちているものに気づいた。
あれは…………。髪留め?
凪はその瞬間に気がついてしまった。
あれは…………俺の妹の亜美の物だ。
という事はこいつは亜美を殺したのか?
ガリッ!
俺はその瞬間、木を噛んだ。
歯が痛い。木は金属よりも柔らかいので、耐久性の低いものと思われたりするが、そんなことは全然ない。
人間の力では到底壊れない程の耐久性を持っている。
歯から血が出る。
だが、それも気にせず噛み続けた。
歯に多大なダメージを与えたが、その時口に入ってきていた木を噛み切ることが出来た。
俺はそのまま噛む事もなくそのまま木を噛み切る。
【スキル《過食LV2》を入手しました】
【スキル《過食LV3》を入手しました】
【スキル《過食LV4》を入手しました】
頭の中に声が響くが何が起こっているか分からない。
だが、口の中には木が入り続ける。俺はそれを何度も何度も噛みちぎっては胃に収めていく。
【スキル《過食LV5》を入手しました】
【スキル《過食LV6》を入手しました】
【スキル《過食LV7》を入手しました】
【スキル《過食LV8》を入手しました】
【スキル《過食LV9》を入手しました】
歯から血が出ても、治癒すればいい。
締め付けられて骨が折れようとも、治癒すればいい。
俺にはその能力がある。
【スキル《過食LV10》を入手しました】
【スキル《過食LV10》がスキル《飽食LV1》に昇格しました】
その瞬間。食べる速度が、変わった。
お腹の中に残っていた木の感覚も、食べる時の抵抗も一気に減った。
食べたい。
無性にそう思うのだ。
俺は体に巻きついている木も、全て食べ尽くした。
【スキル《飽食LV2》を入手しました】
【スキル《飽食LV3》を入手しました】
【スキル《飽食LV4》を入手しました】
【スキル《飽食LV5》を入手しました】
【スキル《飽食LV6》を入手しました】
【スキル《飽食LV7》を入手しました】
【スキル《飽食LV8》を入手しました】
【スキル《飽食LV9》を入手しました】
【スキル《飽食LV10》を入手しました】
【スキル《飽食LV10》がスキル《暴食LV1》に昇格しました】
頭の中でうるさいくらいに声が響く。
そんなことはどうでもいい。
今はもっと、もっと食べたい。
凪はニヤリとして遠方に存在している土のような素材で出来た塔を見る。
あそこには、あそこには美味しそうなご飯がありそうだ。
凪は笑みを浮かべながらその塔へ向かって歩いていった。