30話 幼女現る2
ベッドから出てきた女の子クリっとした眼をこちらに向けて今にも泣きそうな顔をしながら呟いた。
「お兄ちゃん…………だれ?」
俺はそれはこっちのセリフだ!! と叫びたい気分だったが、それをグッと飲み込んで優しく話しかけた。
「お母さんはどうしたの?」
「お姉ちゃんじゃないの?」
駄目だ。話を聞いてくれない。
正直俺はもう家に帰って箱を開けたいからこの子の相手はしたくない。
だが、この子を置き去りにして帰るってのも何だか心が痛む。
はぁぁぁ。しょうが無い。
俺は女の子を持ち上げた。
「嫌っ、やめてっ! お姉ちゃん助けて!」
女の子はこれでもかと泣き叫んだ。
いや、なんか誘拐してるみたいで嫌なんだが。
これからホテル街に届けるにしても、もう夜だから明日にしたい。
なので、俺はその女の子を俺の部屋に連れて行った。
あれ、さっき誘拐してるみたいで嫌っていったが、これってまるっきり誘拐なのでは…………うん。深くは考えない事にしよう。
俺の部屋に入った俺は女の子を宥めるためにお菓子でも上げることにした。
取り敢えずこの子を何処かに降ろして…………。
俺は部屋を見渡した。
床にはゴミが散らかっていて汚いので降ろせない。ベッドは俺の汚れで汚い。他の場所も全て汚い。
…………よく考えたら俺ってよくこんな所で生活出来たよな。普通こんな所にずっと居たら病気になってしまうレベルだ。
いや、だから健康体というスキルが手に入ったのか。俺危ない暮らしし過ぎだろ。
そんなことは置いておいてまずはこの子を降ろす場所を確保しなくては。
俺は部屋の中で女の子を降ろせそうな場所を探した。
そうして目に付いたのは謎の箱だ。
俺はいいアイデアを思いついた。
そう。この箱を床に敷きつめて綺麗な床を作るのだ! ガタガタしているところには作りにくいのでベッドの上に作ろう。
俺は片手に女の子を抱き抱えながら箱を敷き詰めて行った。
「これで良しっと。」
これで綺麗な床ができた。
俺はそこに女の子を座らせた。
そして、冷蔵庫の中にあるチョコレートを取り出す。
俺は手に入れた食べ物は全部冷蔵庫の中に入れている。多分こっちの方が長持ちするだろう。知らんけど。
「はい、これあげる。」
「グスッ。チョコレート?」
女の子の顔が若干明るくなった気がする。
「そうだよ。ちょっと待ってね。」
俺はチョコレートの包装を破いて中身を出して女の子に渡した。
女の子はさっきの泣き顔は何処へ行ったのやら、物凄い笑顔でチョコレートを食べ始めた。
「あ、無くなっちゃった…………ふえぇぇ。」
チョコレートを食べ終わった途端にまた泣き出しそうになっていた。
「あぁ! 分かった分かった! ほら!」
「やったぁ!」
やっぱりこの子嘘泣きしてない?
チョコレートはカロリー高いと聞くので金持ちの家から盗んでくる時に多く持ってきていたのだ。
まぁ、単純に俺がチョコレートが好きだったってのもあるけどな。
女の子はチョコレートを食べ終わったら直ぐに泣き出そうとするため、わんこそばならぬわんこちょこ方式でチョコレートを渡して行った。
それにしてもこの子はどんだけ食べるんだ?
俺が食べたら胸焼けしそうなレベルの量を食べた女の子はやっと落ち着いたようで、チョコレートの余韻に浸っていた。
「落ち着いた?」
「うんっ!」
良かった良かった。
「名前はなんて言うの?」
「なまえー? んーとね、ゆうだよ!」
「へぇ、ゆうちゃんか。」
「ねぇ、かっこいいお兄ちゃん。」
おうふ。幼女とはいえ女の子にかっこいいと褒められるというのはちょっとくるな。
「お兄ちゃんはお姉ちゃんの友達なの?」
「え?」
お姉ちゃんか。身に覚えが無い。
だが、ゆうちゃんはさっき泣き叫んでいる時にしきりにお姉ちゃんと叫んでいた。その人なのだろうか。
「僕はゆうちゃんの言っているお姉ちゃんは分からないな。」
「そうなの? じゃあお兄ちゃんは何でお姉ちゃんの家から出てきたの?」
そ、そういう事か! このゆうちゃんは隣に住んでいた美人な人の妹なのか。
だけど、何でこの子はお姉ちゃんと一緒に居ないんだ?
お姉ちゃんの家に居るのにその本人じゃなくて妹だけしか居ないなんておかしいもんな。
「ゆうちゃん。お姉ちゃんは何処にいるの?」
俺はそう尋ねた。それさえ分かれば何処に届ければ良いのか分かる。
「お姉ちゃん…………。」
そう呟いて女の子は黙ってしまった。
「ど、どうしたの?」
俺が女の子を見ると、小刻みに震えていることが分かる。
そうか。お姉ちゃんに関することでトラウマがあるのだろう。それは悪い事をしたな。
「大丈夫。大丈夫だよ。」
俺はゆうちゃんを抱きしめた。
今のこの子には愛が必要なんだ。だって、その目は両親を失った時の俺の目に酷似していたからだ。
俺は孤独だった。そんな思い、こんな小さな子がしていい思いなはずがない。
ゆうちゃんはさっきの泣き叫ぶそうすとは違い、俺に抱きつきながら静かに泣いた。
俺はその頭を黙って撫で続ける。
それからまもなくゆうちゃんの寝息が聞こえてきた。
この子にはどんな過去が隠されているのか。それは分からない。
だが、それは少なくともこんな小さな子が思い出すだけで震えるほど悲しい過去であっていいはずがない。
だが、その過去を今聞くのは違うだろう。何となくそんな気がする。
取り敢えず明日になったらホテル街へと連れて行こう。
そう思いながら俺は女の子の頭を撫で続けた。