211話 最後の戦い2
コナーは覚悟を決めた顔をした。
「はぁ、僕は熱血系の男じゃ無いんだけどなぁ。」
コナーはため息をつきながらやれやれと手を振った。
「けど、家族が僕らの為に犠牲になろっていうんだったら、ひっぱたいてでも連れ戻す!」
コナーはグッと拳を握った。
「やめろ! 今のお前らだと俺には勝てない!」
俺が2人を助けるために出来る限りのことをしようとしているのに、そのせいで2人が死んでしまうなんてことがあったらだめだ。
俺とは絶対に戦わせられない。
俺がそう言って2人を止めようとするが、その時、陽夏の表情が変わった。
「ねぇ、晴輝、ふざけてるの?」
「え?」
「好きな人が居ない世界なんてもう生きていけるわけ無いでしょ!? そんな事も分かんないの!? このバカ!」
「…………は!?」
ちょっと、待ってくれ、陽夏が俺の事が好き!?
俺は戸惑いで意識が消えそうになるが、すぐに持ち直して意識が消えないように強く持つ。
そういう衝撃発言をした陽夏も顔を真っ赤にして居た。
「…………はぁ、もうこの際言っちゃうけど、私もソルもあなたの事が好きなの! だから、あなただけが犠牲になってるって思いながら生きるのは死ぬよりも辛いのよ!」
「…………。」
言葉が出ない。
陽夏は俺に対して異常なほど優しいとは思っていた。
最近の女子高生はこんなおっさんにも優しいなんて、本当にいい子だとずっと思ってはいたが、まさか俺の事が好きだとわ…………。
だけど、俺にはゆうちゃんが…………。
「陽夏、俺は…………。」
「待って、答えは今言わないで! 今言ったらその…………戦う気力が無くなっちゃうかもだし、それに、なんか今の姿のままで言われるのは何か嫌よ!」
そ、そうか、確かに今の俺の姿は何かの怪物みたいな姿なのだろう。
俺の手を見てみても俺の手ではあるが、明らかに正常な手では無い。
「私達が、無事に晴輝助け出せたら、そうしたら、答えを頂戴。」
「…………あぁ、分かった。」
「うー、もう、顔あっついなぁ。ちょっと、コナー、笑うなー!」
「ははっ、あの陽夏ちゃんがここまで純粋な思いをぶつけるなんてね、もう最後の最後まで言わないのかと思ってたよ。」
「ちょっと、それどういう意味!?」
陽夏とコナーが2人で騒いでいる。
あぁ、なんか、幸せだ。
みんなと一緒になった時とは比べ物にならない程の幸せ。
これは…………何としてでも手に入れなければならないな。
「…………?」
俺の中の何かが俺に訴えかけてくる。
…………ゆうちゃんだ。
ゆうちゃんが、怒りながらも嬉しそうにしている。
俺の頭にはゆうちゃんが浮気はダメだよ! と言う姿が思い浮かぶ。
けど、ゆうちゃんは俺の幸せを願って、私が1番なら特別に許してあげる! と言っているようだった。
俺はなんだか嬉しくなってきてしまう。
…………それにしても、俺の事を大切に思ってくれている人はこんなにも居たんだな。
はっきりいって俺の事を大切にしてくれた人の思い出は、俺の中で微かにしか残っていない。
不思議な事に、俺の昔の記憶はかなりおかしな事になっているのだ。
昔の事を思えば思うほど、その記憶がハリボテなような気がしてしまうのだ。
嬉しかった記憶は無く、高校で虐められた記憶や両親が事故で死んでしまった記憶など、嫌な記憶しか残っていない。
それも、何故かそれを本当に体験した実感がないものばかりだ。
しかし、精神の弱い俺はそれだけで殻に引きこもり、外との接触を遮断した。
だからこそ、その違和感に気付けなかった。
だが、今はもうそんな過去の事なんて関係ない。
だって、今はもうこんなに素敵な家族が居るんだから。
「2人とも、ありがとう。」
俺は体の主導権は俺では無いはずだった。
だが、目からは大粒の涙が流れている感覚がある。
「けど、2人とも、ごめん。もうこれ以上抑えられそうにないんだ。」
俺の中で今この状況を望んでいないのは、俺とゆうちゃんの2人だけだ。
俺たち二人は必ず外に出ようとしている。
だからこそ、俺達の力を合わせれば、何とか出来るかもしれない。
陽夏とコナーは戦闘態勢を万全に整えて、俺に対する。
「晴輝君、心配しないで、僕たちの強さは知ってるでしょ? 君程度に負けるほど弱くは無いからね?」
「そうよ! あとは任せて私達の所に帰ってきて!」
「…………うん!」
俺の体の制御は完全に失われた。
しかし、それでも俺達には出来ることがある。
スキルを使うのは想いの力を操作することによって想いを具現化するということだ。
だからこそ、この体は動かされてしまっても、スキルを最低限の威力にしたりすることは出来る。
俺とゆうちゃんは想いの強さで言えばトップクラスなはずだ。
なんとかなる!
「俺は必ずみんなの元に帰るからな!」




