173話 過去3
女の人は俺の目を見る。
「へぇ、綺麗な黒目だねぇ、珍しい。」
俺は目の事を指摘されてビクッとした。
目、それは俺が幾度となく父に罵倒された部位だ。
あいつに似た目を見ていると悲しくなるからこっちを見るな、そう言われ続けた。
その目をこの人は褒めてくれた?
俺は混乱してしまった。
「あっ、ごめん! 触れられたくなかったかな!? 僕、傷つける気は無かったんだよぉ。」
「…………うん、大丈夫。」
僕は女の人の頭に手をポンっと置いた。
俺はこれをやられると本当に落ち着いていい気分になれる。
これは目を褒めてくれた事に対してのお返しみたいなものだ。
女の人はキョトンとした顔をして俺の事を見つめていた。
次第にその顔は緩んでいく。
「あ、ありがとう、許してくれるんだね!」
「うん。」
「そっかぁ、あ! 忘れてたけど、僕の名前はセイラって言うんだ! 覚えといてね!」
セイラはにぃっと笑った。
俺もそれを真似てにいっと笑う。
「お、その調子だよ! 早く元気にみんなと遊ぶんだよー? じゃ、僕は仕事があるからこの辺でー。」
セイラはそう言って外へと出ていった。
オルクスはセイラに手を振ってその後俺に向き合った。
「セイラ君はああ見えて20歳なんですよ?」
「20歳って?」
俺は教育など受けていなかったので、その言葉の意味すら分からなかった。
「あぁ、言葉が分からないのですか…………。」
「…………うん。ごめんなさい。」
俺は簡単な言葉しか知らなかった。
俺は言葉が話せなければまた父の様に暴力を振るわれたり、ご飯を食べさせて貰えないのだろうかと思い、オルクスに謝った。
オルクスは少し慌てた様子を見せた。
「そんな、謝る事じゃ無いですよ、モルフィス君は悪くないですよ。これからしっかり教えてあげますから安心してください!」
オルクスはそう言って俺の頭を優しく撫でてくれた。
俺はなんだかよく分からないけど、この人はいい人だと思った。
それから俺はオルクスに着いていき、色んな事を教えてもらった。
言葉や算数、この国の歴史や礼儀作法、祈りの捧げ方や七曜の現人神様達のこと。
そして、オルクスやガイア、レアやセイラの事などだ。
全てのことが俺にとっては新鮮で、全てが楽しかった。
ガイアやレアと授業を一緒に受けていると、2人は退屈そうにしている時もあったが、俺はそんな事一切なくいつまでも楽しく授業を受けていた。
俺はその全てをどんどんと吸収して行った。
まず、言葉と数学はそこまで難しいものは教えられなかった。
両者とも生活に最低限必要なものを優先的に教えてくれた。
次に歴史の事を教えてもらった。
これには祈りの捧げ方や七曜の現人神様のことも含まれていた。
ガイアやレアにとっては一般常識でもう知っているような事だとしても俺はそのほとんどを知らなかった。
まず、この世界はスキル至上主義で、そのスキルが強ければ強い程地位が高くなっていくらしい。
その代表例が七曜の現人神様達で、この人達は他の誰よりもスキルが強いらしい。
そして、スキルは生まれ持っているものと後天的に手に入るものがあるらしい。
普通の人なら自分の持っているスキルは誰かに鑑定してもらって初めて分かるらしいのだが、鑑定にはかなりのお金がかかるため、うちでは受けられないとの事だった。
それでもスキルは後天的にも獲得出来るものらしく、その事を何度も何度も繰り返しやっていればそれに関するスキルが取れたりするらしい。
1番初めから持っているスキルは最初から強いの物の可能性もあるが、後天的に手に入れられるものは最初は1番低いレベルのものが手に入るらしい。
だから何かをしたいのなら練習あるのみということらしかった。
しかし、スキルを手に入れたりレベルが上がったりしてもなんのスキルを手に入れたのかやなんのレベルが上がったのかは分からないので、結局はどれだけ努力をしたとしてもスラムの人の地位が上がることは少ないらしい。
オルクスはこれは納得がいかないと言っていた。
俺はオルクスはなんのスキルを持っているのかと聞いてみると、分からないけど、農業と調剤のスキルを持っていると思うと言っていた。
オルクスは教会の仕事とともに薬も売っているらしく、そのお金で俺たちを養っているらしい。
その材料と俺たちのご飯を賄うために畑もやっているため農業のスキルも上がっていると思うとの事だった。
しかし、本来ならそれでも足りていないらしい。
そこで役に立っているのが、セイラだと言うのだ。
セイラは商人の仕事をしていて、物資などを寄付してくれているらしい。
セイラは子供の頃ここにお世話になったため、その恩返しとしてここに寄付を行っているらしい。
それ以外にもしっかりとここでも商売はしているらしいので、ちゃっかりはしている。
セイラ以外にもここに寄付をしてくれる人は居るらしいが、セイラ以外は皆冒険者などの仕事に着いているらしく、不安定な職業なためあまり寄付は期待できないとのことだった。
そんな風にオルクスはここに住む皆のことを紹介してくれた。




