162話 出航2
俺はだだっ広い大海原の真ん中で船を操縦していた。
嫌いな人もいるかもしれないが、その清々しい雰囲気は嫌いじゃない。
…………それがこんな状況じゃなかったらな!
俺は意識を乗っ取られないように、意識を奪い返そうとはせずに、俺の意識を留めて強く保つ事に全てを注いでいる。
それのお陰で俺という存在は消えていないが、依然として俺の体は俺の中のナニカが乗っ取ったままだった。
まぁ、最悪中国などに行ったとしてもそこでゆうちゃんを見つけられればそれでいいのだが…………。
なんだか中国やロシアは宗教まで厳しく規制しそうなので、俺が探しているカルト集団も居ないような気がするのだ。
まぁ、これも全て俺の偏見なのでもしかしたら普通にゆうちゃんが居るかもしれないし、中国やロシアも友好的で、俺に向かって無闇に攻撃したりしてこずに情報を提供してくれるかもしれない。
不安要素は尽きないが、今はこいつに着いていってもいいかもしれないな。
俺は度々方向を確認しながら進んでいく。
俺にはそんな発想はなかったのだが、俺の中のナニカは普通に方位磁針と地図を使って現在地の大体の位置を調べて進んでいた。
…………まぁ、ゆうちゃんを取り戻せるならなんでもいい。
無闇に人を殺したりする気は無いが、ゆうちゃんを助け出すためなら全人類を殺す覚悟だってある。
俺は俺の中のナニカは少なくとも碌なものでは無いとは思っているが、それとは裏腹にゆうちゃんを取り戻すためのキーとなってくれるとも思っている。
だが、とりあえず俺はこいつから意識を取り返せ無ければいけない。
ゆうちゃんを取り戻したあとこの意識のままなら何かの拍子にゆうちゃんに危害が加わってしまうかもしれない。
それだけは絶対に防がなくてはいけないからな。
少し経つと肉眼でも見えるほどの距離に海岸が見えた。
俺は地図を確認する。
ここはどうやら韓国辺りのようだ。
本当はロシアに着く予定だったらしいが、少し狂ってしまったらしい。
まぁ、ロシアの首都はヨーロッパに近い所だ。
人も恐らくそこに多く住んでいるだろうから、まずは中国から行こう。
俺は船から降り、走り出した。
完全に人は居ない。
見たことの無いモンスターがちらほら見えるが、そいつらは無視して俺は走る。
日本に居る時ならそいつらは全員倒すのだが、ここにはもう生きている人間は居ないはずだ。
ならばそんな事をする必要は無い。
俺は構わず走る速度をあげていく。
今の俺の走る速度はもはや車よりも早いだろう。
しかも車よりも小回りが利くため、建物を避けたしながらほぼ一直線に中国へと向かっていく。
韓国の街並みは悲惨な程に破壊し尽くされていた。
韓国だって軍事的にはそこまで弱い国では無い。
どころか世界基準で言えば強い方だ。
それでも滅ぼされてしまう。
モンスターの脅威がどれほどの物なのかがよく分かるな。
とはいえ俺は物凄い速さで走っているため、モンスターの影響は受けていない。
チラッと見えた感じでは首の無い騎士のようなモンスターやごつい牛のようなモンスターなど、明らかに強そうなモンスターも多数居たため、いちいち戦っていては時間がかかりすぎてしまうだろう。
今の俺にはそんな時間は無いんだ。
箱を開けているとそっちに集中してしまい、意識がそっちへ行ってしまうためそれすらもしていないからな。
そんな事をしてまで俺は早く走ったが、そこでひとつの障害にぶつかってしまった。
板門店だ。
韓国と北朝鮮の国境であり、昔は厳重な警備をされていた。
今は人も生きていないと思い、特に警戒はしていなかったのだが、そのには様々な武器を持った人達が何人か警備をしていた。
俺は猛スピードでそこを通り抜けようとしたため、その人達に止められてしまう。
なんて言っているのかは分からないが、明らかに怒っている様子だったため、俺がここに侵入しようと勘違いしているのだろう。
まぁ、確かに侵入をしようとはしているのだが、あくまで通り抜けたいだけであって、ここになにか害を与えたい訳では無い。
…………いや、まてよ、これだけ厳重な警備をしているのだ。
中に独自のコミュニティが形成されていてもおかしくない。
コナーから話は聞いていないが、まぁ、北朝鮮だ。
他の国へと情報を発信しなくてもおかしくは無い。
それでも周りの情報は集めているだろうし、この人たちから話を聞けばゆうちゃんの情報も手に入れられるかもしれない。
俺はその人達から話を聞こうと、出来るだけ笑顔を使って話しかけた。
しかし、こっちの言葉も伝わっていないため、両者どちらとも会話にならない。
しょうがない、日本語を使える人を送ってもらおう。
そうすれば何とか話せるはずだ。
俺はそう思ったため、その人達にその旨を伝えようとして…………その人達を斬った。
「…………えっ、ええぇ!?」




