160話 地中からの脱出
俺は周りの温度が少し下がるまで頭だけの状態で回復を続け、そしてその後少し温度が下がってきたので、頭周りの土や石などを少しづつ避けていき、体を形作っていく。
流石に頭だけになっても生きられるとはいえ俺も人間だ。
心臓が動かなくては血は流れないし、頭だけの状態では常に回復をしながら物凄い苦痛を耐えなければいけないのだ。
スキル等の効果によって痛みにはかなりの耐性があるのだが、疲労やいつまで続くか分からない事をやり続ける苦しみはある。
なので体が再生されて常に身体中に血が巡り、いちいち頭の中にある血を節約して治したり、はたまたかなりの労力を使って作り出したりする必要がなるだけでもかなり楽だ。
俺はマンホールの中に居たりした事もあり、かなり地中深くに埋まってしまったのでどれだけ体を動かしても身動きが取れない。
いや、これはあの金髪男の力も加わっているな。
という事はあいつもまだ近くに居るはずだ。
という事は早くここからでなくては。
俺はまた近くの土や岩を少しづつ動かしていく。
ん? まってくれ、あのレベルの威力の攻撃だとすればここら辺の建物は殆ど崩れ去っている筈だ。
という事はゆうちゃんは…………。
俺は最悪のケースを考えてしまう。
俺の新品の心臓が今までで一番の動きを見せる。
…………いや、そんなはずは無い。
奴らは救世主とかいうやつを探しているはずだ。
そして、それに関係しているのがゆうちゃんな筈なんだ。
だからこそこんな所で殺したりするはずがない。
…………そういえば救世主を信仰する集団は世界中にいるとコナーが言っていた。
それにあのスピーカーから流れていた声の人間にも会っていない。
つまり、ゆうちゃんは他の場所にいるという訳か。
ここは日本にある支部の一つであって、本当は世界中にまだまだ大量にこの集団は居るのだろう。
…………末恐ろしいな。
日本は宗教を信じていない人が多い。
それなのにここまでこの宗教が流行ってしまっているという事は、外国では更に多くの人がこの宗教を信仰している可能性もある。
勿論元々ある宗教などと対立して流行っていないところもあるかもしれない。
それだったらいいのだが、まぁ、宛にならないだろう。
兎に角ゆうちゃんを探すために俺は海外まで行かなくてはならない。
行かなくてはならないのだが…………。
俺は未だに土の中から動けなくなっていた。
体は無理やり再生した。
しかし、再生をしただけで身動きが取れないのであれば意味が無い。
周りの土や石は俺が幾ら動かそうともまた崩され、圧縮され、軽くしようとすればするほど重くなり、いつまで経っても動けないどころかどんどんと動けなくなっていってしまう。
あぁ、またこうだ。
死にはしなくても動けないのでは死んでしまったのと同じなんだよ。
俺は打開策を考える。
そうだ、あの箱は何処へいったんだ?
俺は念力を使いながら片っ端から開けられるものを探していく。
探してみるとあの箱は戦闘中俺が肌身離さず持っていた事もあり、意外と近くにあることがわかった。
俺はそれを念力を使って少しづつこっちにたぐり寄せていく。
幸いな事に金髪男は俺の周りの土などを固める時に更に周りの土を持ってきて固めるため、俺の箱は少しづつ俺に近づいていていた。
そして、箱は俺が触れられはしないがもはや目と鼻の先程度の距離まで近づいた。
よし、もういいだろう。
俺は箱を開けるイメージをする。
すると箱は自ら開き始める。
そして俺はその空き箱すらも吸収していく。
その時俺は念力を常に使っていたのでそれのレベルが少しづつ上がっていった。
そして念力が昇格して念動力になった時、遂に変化が起こった。
遂にあの金髪男の力よりも強い出力を出せるようになったのだ。
それからはどんどんと周りの土や石を避けていった。
途中からどんどんと楽に寄せられるようになっていき、数十分後、俺はついに地上に出来ることに成功した。
あたりは非常に大きなクレーターができており、半径数百メートル以上はありそうだった。
俺は途中で掘り出していた黒鉄を手に取り、金髪男を探す。
…………居ない。
クレーターになっているため障害物はなく、見渡せば直ぐに見つかるはずなのに、金髪男の姿はどこにも無かった。
そうか、逃げたのか。
そうなら色んなことに説明が付く。
今俺が念動力を使ったとしても空中にあんな隕石のようなものを浮かべておくなど不可能だ。
だからあの金髪男の力に勝てたのはあの金髪男が遠く離れた場所に居たからなんだ。
そした途中から出力が落ちたのも俺がもう少ししたら出てきてしまうと感じたため逃げたのだろう。
…………あいつの力はまだ計り知れないな。
そういえばゾンビ男はどうなったんだ?
俺がマンホールに入る前はぼろ雑巾のようにそこら辺に捨てられていた。
…………多分死んだな。
本当は俺がもっと街の人たちの分まで痛ぶってから殺してやりたかったのだが、まぁいいだろう。
俺はゆうちゃんを探す為の術を模索し始めた。




