156話 突入
俺は箱を片手に進んでいく。
その中では箱が永遠と開き続けて、それを僕が吸収してさらさらと粉状になり散っている。
僕の体は僕の意志を効かない。
まるで夢を見ているような気分だった。
俺はもう片手に黒鉄を握り締め、人々が集まる建物へと向かう。
勿論目的はゆうちゃんの救出の筈だ。
しかし、俺の体は言う事を聞かずに、ゆうちゃんの救出よりも先に周りの人々の殲滅を優先しようとしている。
俺は建物の近くに居た痩せ細った男を切った。
男はその一撃だけで死んでしまったようで、そのまま地面に倒れ込む。
俺はその様子を見て、物足りないと思ってしまった。
こんなの俺の感情じゃない。
俺はこんなこと思わないはずだ。
だが、心にはその感情が深く残っていた。
俺は自分の思考を深く留めることが出来なくなっていた。
俺はそのまま進み続ける。
周りには人が多くなってきて、俺という存在がどんどんと異質なものとなっていく。
しかし、周りの人々はある建物に物を運ぶ事だけに執着しているようで、俺の事は気に止めない。
好都合だ。
俺はそう思い周りの人々を斬り伏せていく。
俺はその返り血を浴びながらも、変わらずに歩みを進める。
人間を切る感覚は何回やっても慣れないはずだった。
俺と同じ人間を殺すという事は本能レベルで拒まれるはず事だ。
しかし、今の俺は何も感じない。
どころか、楽しいとまで感じてしまっている。
絶対におかしい。
俺はこれをやめなければいけない。
そう分かっている筈なのに止められない。
俺の体は止まらない。
俺は体の主導権を取り戻そうと何度も何度も挑むが、全て俺の中のナニカに蹴散らされる。
その度に俺という存在がそのナニカに染まっていく。
俺は遂に建物の前まで辿り着いた。
そのまま中に押し入り、様々な人でごった返ししている中で黒鉄を振り回す。
肉や骨が出すあの独特な音が建物内で反響する。
そうなって初めて敵は俺に気がついたようだ。
「敵襲! 敵襲!」
中にいた少しはまともそうな人が鐘のようなものを鳴らしながらそう叫んでいる。
俺は真っ先にその人へと攻撃をすべく魔力を刀に貯め、その人へと放った。
その人は手に持っていた盾のようなもので俺の斬撃を防ごうとするが、その程度では俺の攻撃を防ぐ事は出来ない。
男は為す術なく盾ごと胴体を真っ二つにされて死に絶えた。
…………何やってるんだ俺は。
今日初めて会ったまともな人間だ。
殺すにしても拷問だりなんだりしてから情報を引き出して殺さなくてはいけない。
俺の意識が少しづつ覚醒していく。
このままこいつに乗っ取られたままではいつかゆうちゃんにまで害が及んでしまう。
それだけは防がなくてはならない。
俺は今まで以上に自分の意識を強く持とうとした。
その度に俺の中のナニカが暴れ回る。
しかし、そいつはもう俺の中に浸透しているようで、俺の意識が掻き消されていく。
それでも俺はゆうちゃんの事だけを想って意識を強くしていく。
その瞬間、俺の腹部に鈍い痛みが走る。
俺のお腹から1本の刀が伸びていた。
その刀は俺の体をお腹からそのまま切り裂いていく。
俺はすぐさま刀を俺の体を切り切らせる事によって俺の体から排除し、その部位を治す。
俺が後ろを振り返ると、そこには首のない人間が刀を持って立っていた。
俺はすぐさまそいつから距離をとる。
明らかに普通の人間じゃない。
こいつは…………ゾンビ?
何はともあれそいつと戦うために俺の意識はそっちにいってしまったため、意識を取り戻す事は出来なかった。
俺は鬱憤を晴らすべくそのゾンビに斬り掛かる。
ゾンビは攻撃を食らったとしても動きは辞めない。
しかし、何度も斬ると、俺に害をなすことが出来るほどの動きは出来なくなった。
そのゾンビを倒し終えると、俺の後ろから声が聞こえた。
「ふふふ、やっぱり君はその程度じゃやられませんね…………。」
そこには、あのゾンビ男が居た。
しかし、ゾンビ男はかなり離れたところに居り、拡声器を使って俺に話しかけていた。
だからといってその程度で俺の攻撃が届かなくなる訳では無い。
俺は再び黒鉄に魔力を込めてそれを飛ばした。
ゾンビ男はひいぃという情けない声をあげたかと思うといきなり空へと飛び上がった。
この力はまさか…………。
俺はゾンビ男が飛んで行った先を見た。
そこにはあのサイコキネシスを使う男が居た。
「やっほー、俺だよー。」
その鼻につく金髪野郎は俺に向かって手を振っている。
俺の中で憎悪が吹き上がる。
そこ感情は俺という存在を磐石な物にしていった。
あいつは俺からゆうちゃんを奪い取った張本人だ、絶対に許さない。
「殺す!」
俺はそいつに向かって斬撃を何度も飛ばした。
しかし、そいつはすいすいと空を舞って俺の斬撃を交わしていく。
ゾンビ男は少し雑な扱いをされているようで、俺の斬撃を避ける度に情けない叫び声をあげていた。
「そんな攻撃じゃ俺には当たらないよー!」
金髪男は俺に向かって手を振り下ろした。
俺の体が重圧を受ける。
「さって、後は頼んだよ? りーとーくん?」
金髪男はそう言うとゾンビ男を地面に下ろした。




