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152話 過去へ1



僕は全てのことを思い出した。


その瞬間、僕の瞳から大粒の涙が流れ落ちる。


こんな事を忘れてしまっていたなんて…………。


そうだ、あの時カゲ君は僕を守るために犠牲になってくれのだ。


そのおかげで僕はあのまま逃げる事ができ、そのままホームレス生活を始めた。


そしてその後色んな人の助けを借りて幸せな生活を送れた。


しかし、もうその時にはカゲ君の事など完全に忘れてしまっていたのだろう。


僕はカゲ君忘れたまま楽しい日々を過ごしてきた。


僕はカゲ君の犠牲のお陰でここまで生き延びることが出来た癖に、その恩を忘れてのうのうと暮らしていたのだ。


僕は酷いやつだ。


確かに薬を飲ませたのはあの研究員達だ。


だけど、それでも僕が忘れていたという事実は変わらない。


僕は恩人の事を忘れた恩知らずな奴なんだ。


しかし、まだ恩返しをすることは出来る。


何故ならカゲ君は晴輝君だからだ。


確かに容姿は全然違う。


あの時とは違い目付きは悪くなったし体付きも全然違う。


だけど、晴輝君は紛れもなくカゲ君だ。


見た目がどうとかそういう話では無い。


分かるんだ。


雰囲気や仕草、全てが影くんなんだ。


あぁ、そうか、そういうことだったのか。


なんでこんなに一緒に居た時間も長くないのに晴輝君に惹かれていたか分かった。


それは、僕の潜在意識の中にはカゲ君が居たんだ。


だから僕は晴輝君に…………。


あれ? カゲ君はなんで晴輝君になっているんだ?


よく良く考えればおかしい。


あの時カゲ君が捕まっていたとしたらそのまま殺されているだろうし、捕まってなくて逃げ出していたとしたら晴輝君じゃなくてカゲ君のままだろう。


どっちにしろ晴輝君という存在が産まれるのはおかしい。


…………もしかして、僕に使ったあの記憶を消す薬をカゲ君にも使ったのだろうか。


多分あの時飲まされたカプセル錠は強力な記憶を消す薬なのだと思う。


それを使ってカゲ君の記憶を消したのだろう。


その上でカゲ君に何らかの洗脳を施した上で解放したという事なら辻褄が合う。


その薬を飲まされてから僕の記憶能力を消えてなくなったし、カゲ君のあの時使っていたスキルもそれのせいで消えてしまったのだろう。


晴輝君は最近まで引きこもりだったとも言っていたし、あの研究者達が晴輝君に引きこもりになるように仕向け、万が一にも何かが起こらないようにしていたのだろう。


あの研究者達もあの時こっぴどくやられたため何かあってカゲ君の能力が覚醒して施設を壊滅状態にされても困るだろうから、こういう処置をしたのだろう。


僕はカゲ君が無事だった事に安堵するが、そのカゲ君の今の姿である晴輝君が危機にさらされてる事を思い出す。


尚更僕は晴輝君を助けなきゃじゃないか。


晴輝君はカゲ君の記憶が消えてもなおその自己犠牲をしてしまうのは治っていなかったようだ。


だからこそ、今度は僕がカゲ君を、晴輝君を助けなきゃいけないんだ。


僕は29年分の性格な記憶を取り戻した。


これを使えば何とか過去に干渉出来るはずだ。


この能力の使い方は僕も分かっていない。


いつもなら能力を手に入れた時に大体のことは体に刻み込まれるようにして分かるようになるのだけど、この能力に関してはほとんど分かっていない。


なので、使うのには大きな危険が伴うこととなる。


だが、そんな事知ったものか。


晴輝君は危険を顧みずにみんなを助けることができる人間だ。


僕もみんなも晴輝君に何度も何度も助けられてる。


なのに僕が危険だからといって助けないなどあっていいはずがない。


これは僕からの晴輝君への贖罪でもあり、カゲ君への恩返しでもあるんだ。


僕は目を閉じ、過去の情景を鮮明に思い出す。


僕が思い出しているのは晴輝君がトレントのダンジョンへ行く前。


そう、ゆうちゃんが死ぬ前だ。



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