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149話 コナーの過去4



それからというものの、僕はカゲ君とよく遊ぶようになった。


というか、カゲ君以外一緒に遊ぶ人が居なかった。


どうやらこの場所に僕達ぐらいの子供は居ないらしい。


他に誰が居るのかは分からなかったが、少なくとも僕は他の人を見た事は無かった。


初めの頃はカゲ君は僕達が話す言語を喋る事は出来なかったけど、次第に喋れるようになっていった。


恐らくカゲ君はここで日本語などの教育をされていたのだろう。


僕はそんなカゲ君と話すのが少しづつ楽しくなっていった。


カゲ君と喋る事が出来るのはその場所に行く時ぐらいだったので、僕はその時を楽しみに日々を過ごしていた。


それ以外の時はいつも僕が過ごしている部屋に居るか、あの研究者のような男に勉強をさせられたり、よく分からない色んな事をさせられていた。


多分それは実験か何かだったのだろう。


その当時の僕は気づいていなかったが、今になって思い出してみると、明らかにおかしい事があった。


それは、僕は出されたテストやテキストの内容まで全てを完璧に覚えていたという事だ。


その記憶は明らかに異常だった。


どれだけ古かろうとも、どれだけ文章量が多かろうとも、僕は何一つ忘れる事はなかった。


いや、忘れる事が出来なかった。


思えば研究者のような男は僕に向かって何度も記憶を忘れるように仕向けていた様に感じる。


そんな事をされたとしても、常に僕の頭には鮮明に記憶が残っていた。


それだけ鮮明な記憶を覚えるということは明らかに脳に負担をかけそうだが、少なくとも僕の頭が痛くなったりすることは無かった。


これが僕の持っている能力だったのだろう。


そして僕はその能力を持っていたがためにこの研究所のような場所に売られたのだろう。


しかし、そんな事がその時の僕に分かるはずはなく、ただ日々を過ごしていた。


最初は辛いものでは無かった。


ただカゲ君と遊んだり、おもちゃで遊んだりするだけでも僕は良かった。


しかし、実験はエスカレートしていった。


僕は次第に色んな薬品を使われたり、身体中に色んな事をされる様になった。


それは痛みを伴うものもあり、僕は精神的に疲弊していった。


それでも僕はカゲ君が居てくれたので大丈夫だった。


その頃カゲ君は日常会話を出来る程度には喋る事ができるようになっていた。


そして僕は常日頃から気になっていたことをカゲ君に聞いた。



「ねぇ、カゲ君はさ、どうしてここに来たの?」


「わかんない…………きづいたらおかあさんとおとえはんといっしょにここにいたんだ。」



カゲ君はそう答えた。


僕はその答えにびっくりし、そして嫉妬した。


僕は僕一人だけだった。


対してカゲ君はお母さんとお父さんと一緒にここに来ているらしい。


その事に激しく嫉妬した。


けど、それをカゲ君にぶつける事も出来ずに、僕は少しづつカゲ君と疎遠になっていった。


それでも僕はカゲ君の事が大好きだったので、何度も一緒に遊ぼうとし、そして失敗した。


その時にも実験内容は更に過激なものになっていき、僕はさらに苦痛を味わうことになった。


それでも僕は耐え続けた。


僕はその時あまりにも小さく、この苦しい事をやめてもらうためには研究者の人の言う事を聞かなければいけないと思っていた。


大人になった今だったら自殺という選択肢も出てしまうのだろうけど、その頃にはそんな考えは出来ずにただただその苦しい毎日を耐え忍んできた。


そんなある日、僕はカゲ君の様子が明らかにおかしい事に気づいた。


いつもなら僕が居なくても僕の事を気にかけながら他の遊具で1人遊んでいた。


しかし、今日は1人で遊ぶことすらせずに、ただ何処かをずっと見つめているだけだった。


しかも明らかに顔色は悪く、目は虚ろだった。


僕はいてもたっても居られなくなって、思わずカゲ君に話しかけた。



「か、カゲ君?」


「…………。」



カゲ君は反応を示さない。


僕はカゲ君の肩を触りつつもう一度呼びかける。



「カゲ君!」


「…………あ、コナー君、久しぶり。」



カゲ君は子供の僕でも分かるような引きつった笑みを浮かべる。


僕は明らかにカゲ君の様子がおかしい事に気がついていた。


僕はカゲ君を問いただした。



「カゲ君、何があったの? すごい体調悪そうだけど…………。」


「あ、うぅん、大丈夫だよ。何も無かったよ。」



カゲ君はそう言った。


けど、僕はその言葉を到底信じることは出来なかった。


その事をカゲ君は明らかにおかしな様子で伝えてきたのだ。


僕は絶対にカゲ君が何かを隠していると思った。


僕は更に問い詰めようとしたけど、カゲ君がそんな事よりも遊ぼうと言い出したので、僕はとりあえずカゲ君遊んだ。


久しぶりに遊ぶ事が出来て僕はとても嬉しかった。


カゲ君も様子はおかしかったが、少なくとも楽しんではくれたみたいだった。


遊んでいる最中、カゲ君は僕に1枚の紙切れをこっそりと渡した。



「何これ?」



僕がそういうと、カゲ君は人差し指を口に当てた。


そうして、誰も見てないところで見て、と言ってそのまま遊ぶことを再開した。


後に僕は布団の中でその紙切れを見た。

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