147話 コナーの過去2
僕が何故ここまでして記憶を取り戻す薬を探しているかと言うと、僕には1つの策があったからだ。
僕はウルフのダンジョンである能力を手に入れた。
晴輝君や陽夏ちゃんとかには話していないものだ。
この能力を使えばもしかすると晴輝君を救う事ができるかも知れない。
僕はその能力を使うために記憶を取り戻す必要があると考えている。
僕はその能力について完全に理解している訳では無いけど、それでも僕はそれについて何となくは分かる。
今の僕がわかっているのは、その能力を使えば過去に干渉することが出来て、それを使うまでには非常に正確な記憶が必要だという事だけだ。
だからこそ僕は記憶を取り戻す薬を探しているんだ。
僕は僕が記憶を何らかの手段で取り戻す事が出来るかもしれないという考えからもう一つ仮説を立てた。
それは、その記憶を取り戻したら記憶を何らかの手段で取り戻す為の手段について知れたり、その能力自体がまた使えるようになるかもしれない。
そうなれば正確な記憶を取り戻す事が出来、過去に干渉出来るかもしれない。
そうすれば過去に干渉し、ゆうちゃんが誘拐されないように、欲を言えばゆうちゃんが死んでしまわない未来を作ることだって出来るかもしれない。
僕は様々な薬品を片っ端から見ていく。
何個もの薬品を一気に見て、その説明を把握するということは少なくとも簡単な事では無い。
僕は頭がちりちりするような感覚を覚えるが、それは無視して探し続ける。
「…………これだ。」
僕は棚に入っていた何錠かの薬を取り出した。
こんな薬がこんな普通に置いてあるのもおかしい気はするが、そこは気にしない事にしよう。
僕はその薬を何錠か取り出して、一気に飲み込んだ。
「………痛い。」
まずはこの前ダンジョンで記憶を獲得した時のように頭が痛くなり出す。
この薬を使えば失った記憶を取り戻すことが出来るのだから当然だろう。
しかし、薬の効き目は少しづつ聞いていくのか、最近の事から少しづつ遡って記憶が獲得されていく。
一つ一つの記憶が痛烈な程に主張をしてくるため俺の頭は悲鳴を上げている。
少なくとも気合いでどうにかできるような痛みでは無い。
だが、それもまだまだ序の口なのだろう。
僕の痛みは遡る記憶が古くなるにつれて大きく、深くなっていく。
僕は堪らず目を瞑り、耳を塞ぎ、情報を出来る限りシャットアウトしようとする。
しかし、そんな努力も虚しく頭の痛みは増大していく。
しかし、ある時から痛みが異常なまでに増えだした。
それは、僕が幼少期の頃の記憶だった。
「痛い痛い痛い!」
これ以上は不味いかもしれない。
明らかに脳がダメージを受けている。
僕のスキルが使われて脳が少しづつ修復されていく感覚があるのだ。
僕が壊れるのが先か、記憶を完全に遡るのが先か。
僕はその戦いに身を投じることとなった。
痛みは時の流れを遅く感じさせる。
僕は痛すぎて今の時間が実際に経っているよりも明らかに遅く感じている。
それほどまでに痛い。
僕の意識は徐々に闇に包まれていく。
「…………はぇ? 痛くない?」
僕は素っ頓狂な声を上げてしまう。
痛みが急に引いた。
さっきまであんなに痛かったのにまるで嘘みたいに痛みが引いたのだ。
僕はニヤリと笑う。
僕は賭けに勝ったんだ。
やっぱり僕の仮説は当たっていた!
僕は少しづつその記憶が僕に知覚できる形になっていくのを感じた。
この作業は先程の記憶を取り戻す作業よりもさらに脳を使っているような感覚はあるのだけど、痛みや苦しみは一切ない。
僕の記憶はまだダンジョンが出現する前まで遡っていく。
あぁ、この頃は楽しかった。
仕事仲間とかなり親密な関係を築き、家族ぐるみでキャンプに行ったりもした。
独身の僕は既婚者の仕事仲間達を羨ましく思いつつも、楽しく過ごしていた。
それからどんどんと記憶が遡っていく。
僕を拾ってくれたお父さんや一緒に暮らしていた居候のお姉さんの姿が見えてくる。
僕を拾ってくれたお父さんはダンジョンが出現する数年前に病で他界した。
こんな世界になってしまった今はもはやそっちの方まで良かったと考えてしまう。
居候のお姉さんは今どこにいるのかは分からないけど、出来れば今も生きれているといいな。
僕はそんな古い幸せな記憶に浸る。
この多幸感に包まれたままずっと過ごしたい、そんな思いが出てしまうほどだ。
しかし、僕の記憶はここから抜け出した時まで遡った。
あの時は辛かった。
季節は冬で気温は零度を軽く下回っていた。
そんな中で僕はボロ布を来てダンボールの中に色んな紙や捨てられていた布などを敷き詰めてそこで辛うじて生き延びていた。
僕は何故そんなことをしなければいけなかったのか。
そもそも僕は何故ここに居たのか。
記憶は遡っていく。
僕がここから逃げた時の記憶も思い出してくる。
そこには僕の隣に1人の男の子がいた。
どこか見覚えのある顔だ。
この顔どこかで…………。
「…………あ。」
僕は思い出してしまった。
そこに居たのは紛れもない。
晴輝君だった。




