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144話 記憶



「やぁっ!」



研ぎ澄まされた一閃。


その一撃はあの刀の女の人よりも遅く、弱いものだったが、その一撃は刀の女の人の首を断ち切る。



「はぁっ、はぁっ。」



私は周りの輪郭があやふやになる様な感覚を覚えつつもしっかりと地面に立つ。


刀の女の人が首と刀だけの姿となる。


私はその姿を見下ろすような形になり、思わず私も姿勢を低くする。


何だか失礼な事をしているような気分になってしまったのだ。


女の人は痛みを感じていないかのように振る舞う。


本当に痛みを感じていないのかもしれないが、少なくともその姿は痛々しいものだった。


しかし、そんな姿になろうとも刀の女の人は柔らかな笑みを崩さない。


その様子に私は安心したような感覚を感じた。


私は刀を吸収し、そして刀の女の人の頭に刀を突き立てる。



「今楽にするからね…………ありがとう。」



頭を刺された女の人はそのまま存在を消した。


まるでそこに居なかったかのように消えてしまう様子に少し寂しさを覚えた。


その瞬間、私の頭に様々な記憶が流れ込む。


まるであの腕や足に触れてしまった時と同じような感じだった。


しかし、私の頭はその時ほど痛くない。


むしろ、まるであの刀の女の人が私を優しく包み込む様な安心感があり、痛みはそこまで感じなかった。


その記憶は断片的でよく分からない。


しかし、今までの記憶と結びつき、それを強固なものとしていく。


そこで一つ分かったことがあった。



「あなたは…………私なの?」



よく分からないが、記憶での私と今まで私がゴブリンのダンジョン、オークのダンジョン、そして鬼のダンジョンで戦ってきた女の人の姿が同じように感じるのだ。


もしこの人が私なのだとしたら明らかにおかしい。


いや、私だと勘違いしているだけで本当はただこの人の記憶が流れ込んだ事によって自分の物だと誤解しているのだろうか。


どっちにしろ重要な記憶を獲得した様だ。


私はとりあえず次の階へと進もうと歩み始める。



「わっ、何これ!?」



歩いた時の感覚が明らかに違う


明らかに歩いた時の無駄がなくなっている。


これもこの女の人の記憶によるものなのだろうか。


何だかこの女の人の努力を奪っているような気分になり少し罪悪感があるが、それでも私は素直にそのことを喜んだ。


何故なら今私は歩く以外にも全てにおいて無駄の無い動きが出来るようになってきている。


つまりそれは戦闘においても無駄を省いた行動ができ、結果的に戦闘力の強化となるからだ。


私は再度刀の女の人に感謝する。


そうして私は階段を登る。


階段を登るとすぐに鬼が現れた。


私はその鬼を素早い動きで攻撃する。


流石に一撃では倒れないが、それでもどんどんと傷が深くなっていく。


そして戦況は常に私に傾き続け、ものの1分ほどで鬼は私の前に倒れた。


鬼の能力も強くなっている。


しかし、それ以上に私の能力が強化されている。


今まではマズイ状況に陥ったら毒など色んなものを使いそれを切り抜けてきた。


それ程鬼の力は強かった。


しかし、今の私にかかればそんなものを使わなくても倒すことができる。


そのことは私の自信にも繋がった。


そうやって私は順調に階数を進めていく。


鬼は私の力の前ではもはやそこまでの障害とはならなかった。


驚いた事にその後に出てきた女の人は全員刀の女の人だった。


その全員が私に稽古を付けてくれ、私はどんどんと力をつけていった。


そしてその度に私は新たな記憶を獲得していった。


その記憶を獲得する度に私はどんどんとそれが何なのか分かって行った気がした。



何日も経ったある時、私は機会だらけの部屋へと辿り着いた。



「…………あのボタンを押せばいいのよね?」



私は少し躊躇しつつもそのボタンを押す。


そして、出てきたのは…………生首だった。


私は息を飲む。


まさにその生首は私の記憶に出てきた顔と、そして今まで戦ってきた女の人の顔と全く同じものだった。


やっぱり私の記憶は正しいのかもしれない。


私は思い切ってその液体の中に手を突っ込む。


これは…………魔力を吸われてる!?


私の魔力がどんどんと吸われていって耐え難い脱力感に襲われる。


私は急いでその顔に触れる。


その瞬間、グラりと何かが変わる感覚に陥る。


顔はすぐに無くなった。


私は手を引き抜く。



「…………うぅ。」



私は激しい痛みに思わず蹲る。


いや、今までよりかは数段痛みは少ない。


それでも痛いものは痛い。


まるで頭の中で何かが爆発しているかのような痛みだ。


とんでもない情報量に私の頭はそれ一つ一つを瞬時に読み取ることは出来ない。


それでもただひたすらにその情報を私の記憶に次々と追加していく。


痛い。


が、ここで倒れたくは無い。


私はその痛みに耐え続ける。


何時間もたったかのような感覚を経て、私の痛みはある程度引いてくれた。


後は私のスキルによって徐々に回復していくだろう。



「ふぅ…………。」



私はため息をついた。


全て思い出した。


いや、手に入れた?


どちらにせよ私は何故このような記憶を手に入れているのか理解した。


そして私は呟く。



「…………あなたも同じだったのね。」


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