143話 稽古
私は1階、また1階と進んでいく。
鬼の強さは変わらないため自分が強くなっていくのが実感出来る。
良いペースだ。
やっぱり強敵と戦うというのは自らの力を磨く為の石となってくれる。
ただ1つ残念なのは出てくるアイテムがしょぼいという事くらいだった。
出てくるアイテムはお酒が殆どで、私が使えそうな物は無かった。
唯一金棒のようなものも見つけたが、私にはこの刀があるし、こんな私の良さをすべて潰してしまうそんな武器を使う必要は無い。
だからこそ私はこの箱では何も手に入れられていないことになる。
まぁ、それ以上の成果は手に入れてるから良いんだけどね。
ずっと進み続けていると、階段上がった時の様子が明らかにおかしいことに気づいた。
やはりここにもあの女の人は居るのだろうか。
今まであの女の人とは1人で戦ったことが無いのでかなり緊張している。
まずどんな人が出てくるのかも分からない以上警戒は必要だ。
私は全方向を見詰める。
居た。
そこに居たのはこの前あったことのある刀の女の人の様な人だった。
殆どの格好などはその女の人と同じ物だった。
ただ、1つ違うのは明らかにあの女の人とは風格が違うという事だ。
あの時の女の人と同じくらいなら今の私にかかればすぐに倒してしまうだろう。
それ程までに私は強くなっている。
しかし、それでも勝てるか分からない。
というか負けるビジョンしか見えない。
身体中から冷や汗が吹き出る。
女の人は私の方を見ると少々驚いたような顔をした。
が、すぐさまその顔は優しい顔に変わった。
その顔はまるで親が子を見るような顔で、私の警戒が一瞬解ける。
女の人は私に近づいてくる。
私はその瞬間警戒を強め、刀に手をかける。
確かにあの女の人は危険そうでは無い。
だからと言って警戒を解いてしまっていれば私はそのまま殺される可能性だってある。
私はいついかなる時でも警戒しなきゃいけない。
女の人はその私の行動に反応してか、歩みを止める。
そうしてあたふたと何かを喋っている。
しかし、その言語は私の分かる言語ではなく、なんて言っているのかは全く分からなかった。
しかし、それでも女の人は何かを言い続けるが、少し経ったあとどうやっても伝わらない事を悟ったのか、がっくりと肩を落とす。
こう見るとただ綺麗なお姉さんという感じだ。
やはりこの人からも殺意というものは感じられない。
というか敵意すらも感じられない。
やはりこの前の刀の女の人の様に私に稽古をつけてくれるような感じだった。
「そう、貴方は見方…………なのかな? 」
私がそう問うが、女の人はキョトンとした顔をした顔をしている。
やはりこちらからもなんと言っているのか伝わらないのだろう。
だが、そんなのは関係ない。
私は満面の笑みで刀を引き抜く。
「言葉じゃなくて刀で語ろうって訳ね!」
私のその言葉の意味が分かったのかは分からないが、女の人も私と同じように笑顔で刀を引き抜いた。
開戦の合図は私たちにしか分からないような小さな私の隙だった。
私が体制を立て直そうとした瞬間、女の人が目の前に現れた。
「早っ!?」
私の体は私の知覚を待たずにその攻撃に応戦する。
後から追いついた私の頭が驚愕している。
金属音が鳴り響いたと思ったら、刀がすり抜けたかのような感覚に陥る。
そしてその刀は私の喉元にギリギリ当たらない位置で停止した。
「…………あ、ありがとう。」
私は自然とその言葉が出た。
この人は何故かは分からないけど、私に稽古をつけてくれている。
それもとんでもなく危険で、どちらかが死んでもおかしくないような稽古を。
私の頭は死への警告を鳴り響かせているが、そんなものどうでもいい。
今はただこの稽古を存分にやり尽くしたい。
ただその気持ちだけでいっぱいになる。
女の人は無言で私の喉元に突きつけていた刀を戻す。
私の体から緊張が無くなる。
その瞬間、私の身体中から汗が吹き出す。
生理現象だ。
仕方が無いことだろう、あんな生死の境目を彷徨う様なことが起これば誰でもそうなるだろう。
しかし、私はそれとは裏腹にとてもワクワクしていた。
死なずに死線を経験できる。
そんな事普通は出来ない。
そんな稽古をこの人はさせてくれると言うのだ。
私の表情が更に笑顔へと変わっていく。
私はもう一度元の場所に戻り、刀を構え直す。
あの女の人も同じように構え直した。
「せいっ!」
今度は私から仕掛けた。
しかし、その一撃は容易く防がれてしまい、私の喉元にはまた刀が突きつけられる。
強い。
だが、私はこれを超えて更に強くならないといけない。
私は感謝の気持ちと共に稽古を続けた。




