142話 剣道
「…………はっ!」
私は変な浮遊感とともに目覚めた。
うぅ、頭も体も痛い。
が、体の傷などは綺麗さっぱり治っていた。
やっぱりスキルって凄いと実感する。
あれ程ボロボロだった足だって今は綺麗になっている。
というか肌に艶が出てる様に見えるくらいだ。
私はその場で立ち上がり伸びをする。
やはり体にはかなり深いダメージが入っているようで、動いたりすると節々が痛い。
しかし、不思議と充足感に満ちていた。
それもこれも全てあの鬼を倒した事による物だろう。
あの鬼を倒した瞬間私の中の体内魔力が一気に増えた感覚と、あの声が聞こえた。
そう、スキルのレベルアップの声だ。
夢の石とかいうアイテムを使って以来上がっていなかったスキルのレベルがやっと上がった、だからこんなにも充足感に満ちているのだろう。
レベルが上がったスキルは鬼剣術だった。
このスキルは私が一番使うスキルと言っても過言では無いだろう。
幼少期から親に色んな習い事をさせられていた私は当然剣道などもやらされていた。
剣道は下手では無いものの、特別上手いものでは無かった。
というか私にはああいうものは向いていないのだろう。
私はもっと自由度の高いなんでもありな戦闘の方が向いているのだ。
それでも剣道を習っていた経験は今にもしっかりと生きていて、私が敵と戦う上でかなり役立っている。
しかし、それを上回る程に役に立っているのはこの鬼剣術というスキルだ。
このスキルがあればどんなに下手な人でもある程度刀や剣などを使うことが出来るようになるだろう。
私は少しの間ではあったが剣道も習っていたため、それにスキルが加わる事によってトップクラスの技能を身につけることが出来ていた。
そのレベルが上がるということは即ち私の戦闘力が格段に上がるということだ。
これでもまだ私の鬼剣術のスキルは2だ。
ここからまだまだレベルが上がっていくと考えるとワクワクが止まらなくなる。
私はその勢いのまま刀を振るってみる。
「いてててて。」
身体中が悲鳴をあげている。
筋肉痛をさらに痛くした様な痛みが私の身体中に広がった。
忘れていたが、私は今病み上がりのような状態なんだった。
本当は休んだ方が良いのだろうが、そんな事をしている時間は無い。
そこで私は以前コナーに貰った薬を飲んだ。
これを飲めば全ての体調が整う飲み物らしい。
「うげぇ、苦い。」
何この薬、めちゃくちゃ苦いんだけど。
なんというか今まで飲んだことのある薬の不味い成分を集めて煮詰めたような味がする。
私はすぐさま近くにあったお腹の膨れる薬を飲んだ。
その薬を飲むとすぐにお腹がいっぱいになった。
このお腹の膨れる薬はどちらかと言えば美味しい部類に入る薬なので、口直しには最適だ。
それでもあの薬の苦さは消えない。
良薬口に苦しって事なんだろうけど…………もうちょっと何とかならなかったのかな?
まぁ、愚痴愚痴言っても仕方がないよね。
現に体調は凄まじいほど良くなった。
口の中の状況が最悪という事を除けば最高の状態まで仕上がっていた。
私は立ち上がり試しに刀を振ってみた。
「うん、完璧!」
私はその十分すぎる仕上がりにもはや快感を覚えた。
ここまでいい仕上がりだと次の鬼との戦いも楽しみだ。
今回は苦戦を強いられたが、次回はもっと余裕を持って戦えるはずだ。
そうして経験を積んでいけば私は強くなれる。
善は急げだ。
私は起きてまだ少ししか経っていないが、また次の部屋へと進もうとした。
しかし、その前に気になることが一つあった。
階段の先に明らかに禍々しい空間が広がっているのだ。
階段の先というのは階段を登った先という意味ではなく、階段の裏側の先という意味だ。
普通そんなところ見えるほどしっかりと隙間などが開いているわけでも無いのだが、それでもしっかりとその空間の姿は見えていた。
私は好奇心に勝てなくなりそこへと進んでいく。
「これは…………。」
私はそれを見て歓喜した。
そこにあったのは、なんと石でできた箱のような物だったからだ。
今まではでっぱりだったが、今回は箱のようなものになっているようだ。
いや、これがそのでっぱりと同じものだという証拠は無いけど、私の感がこの箱はあのでっぱりと同じものだという言っている。
だからきっとこの箱はあのでっぱりと同じものだ。
私は中に何が入っているのか楽しみにしながら箱を開けようとした。
…………開かない。
どれだけ取ってのような部分を引っ張ったり押したり引いたりしても箱は開くことがなかった。
「…………。」
私は無言で刀を振り下ろす。
心地よいお皿が割れるような音を立てながらその箱は砕けた。
…………よし、開いた。
私はその中身を見てみた。
その中にはひょうたんのようなものが入っていて、その中になにかの液体が入っていた。
「って、酒臭っ!」
私は咄嗟のことでそのひょうたんを地面に落としてしまう。
中のお酒のようなものがどくどくと零れていく。
私はお酒なんて要らないので、少し残念だった。
私はそのひょうたんはそこに放置して上へと上がることにした。




