139話 隣の座
私は晴輝が去った後部屋に閉じ籠っていた。
晴輝が悪くないということは分かっている。
晴輝は私の事を思ってくれて私を連れて行かなかったというのは分かってる。
けど、なんだなかぁ。
私がもっと強ければ晴輝は私の事を連れてってくれたかもしれない。
私がもっと強くても晴輝は一人で行ってしまったかもしれない。
それでも、私は晴輝の信頼を勝ち取れなかった。
俺と一緒に死んでくれとは言ってくれなかった。
晴輝は最後の最後までゆうちゃんを取ったのだ。
死ぬ時は私とじゃなくてゆうちゃんと死ぬのだろう。
晴輝は絶対に死なないと思っていてもそれはもはや希望的観測でしかないのは事実だ。
あんな軍勢に晴輝一人で勝てるかと言われたら厳しいと思う。
私は晴輝に辛い思いはして欲しくないのに…………。
私は布団の中に潜り込む。
…………私はおかしくなっていたのかもしれない。
晴輝は物凄く強い魅了のスキルを持っていた。
私はそれに魅せられておかしくなってたのかもしれない。
私が晴輝の事が好きという気持ちは作り物だったのかもしれない。
そうだ、そうに決まってる。
じゃなきゃ私の今の気持ちには説明が付かない。
あの時、ダンジョンで記憶が私に芽生えた時に改めて私は晴輝の事が好きだと感じた。
けどそれは私の中の誰かの記憶が晴輝の中の誰かを好きなだけなんだ。
だからこそ私の気持ちは本物なんだと思い込んでただけなんだ。
私は晴輝の事が好きじゃなかった。
「…………そう思えたら楽なんだけどなぁ。」
私はそのままの格好で外に出る。
街のみんなはさっきの戦いで出た死体の処理に苦戦していた。
あそこを見ると私も手に残る嫌な感覚を思い出してしまい嫌な気持ちになる。
人を切るなんて…………。
いや、あいつらは人じゃなかった。
人を襲う人なんてモンスターと同じだ。
私はそう思って気持ちを落ち着かせる。
私は遠くにあるダンジョンへと向かった。
物資は私が元々貰っていた物を使う。
「…………強くならなくちゃ。」
晴輝は死んでしまうかもしれない。
生きて帰ってきてくれるかもしれない。
そんなのは分からない。
だけど、私はゆうちゃんに勝つんだ。
私は晴輝の趣味嗜好には合わないかもしれない。
だからこそ私は強さで晴輝の気を引かなくてはならない。
私にはそれしかないから。
晴輝は私がどんなにアピールしても何の反応もしなかった。
けど晴輝は私の事を必要だって言ってくれた。
だから、その恋人とかそういうのは諦めるとしても私は晴輝と一緒にいたい。
その為にも私は強くなって晴輝の矛として隣に居続けたい。
私はとあるダンジョンの前に立っていた。
鬼のダンジョン。
ここらで一番強いモンスターが出るダンジョンだ。
ここのモンスターは滅多に外には出現しない。
だからこそ放置されているのだが、中にいるモンスターの強さはトップレベルだ。
このダンジョンはほかのダンジョンとは違い探索するという概念がない。
言うなれば毎回があの女の人の部屋のようなボス戦なのだ。
私は1回だけこのダンジョンに挑んだ事がある。
その時の結果は惨敗だった。
あの鬼の小手調べの一撃で私は戦闘不能状態に追い込まれた。
私はその時生物としての格の違いのようなものを思い知った気持ちになった。
命からがら逃げ出すことは出来たが、もう一生入りたくはないと思っていた。
それ程までの恐怖。
ほかのダンジョンとは格が違う強さだ。
しかし、それに挑まなくては駄目だ。
確かにほかのダンジョンを先に攻略するという手も1つあると思う。
順番に戦っていけばいつかはあの鬼を倒せる程までに強くなれるだろう。
しかし、それでは遅すぎる。
あの鬼と戦うことによって私は確実に強くなれるというのは確定している。
以前とは比べ物にならないくらいに私は強くなった。
しかし、あの鬼にはまだ追いついていない様な気がする。
あの時の恐怖は私に深く刻みつけられているのだ。
まずはそれを取り払わない事には強くなれない。
私は腹を括った。
しかし、心のどこかではこう思ってしまう。
こんな時に晴輝が居てくれたらなと。
晴輝が居てくれれば私が何度も何度も挑戦したとしても何度でも治してくれて私は死なずに何度でも挑戦し続けられるだろう。
そうすれば私はより早く成長出来るのかもしれない。
けど、私はその考えを捨て去る。
晴輝に頼って得た強さなら晴輝はその強さをすぐに超えてしまうだろう。
はっきりいって晴輝は私よりも数段強い。
ただ攻撃系のスキルを所得していないだけで、これから実践を積み魔力を吸収して攻撃系のスキルを所得してしまえばたちまち私なんか抜き去ってしまうだろう。
そうなったら私に待っているのは晴輝に捨てられる運命だ。
私は常に晴輝の上を目指さなければいけない。
私は勇気を振り絞って鬼のダンジョンへと踏み込んでいく。
「…………怖いよ、晴輝。」
あぁ、あの時の晴輝もこんな気持ちだったんだ。
けど、そこに晴輝は居ない。
頼れる人は居ない。
「…………私、絶対晴輝よりも強くなってあなたの隣の座を勝ち取ってやるから、それまでは絶対に生きていなさいよ!」
私は晴輝に向かってそう言い放つ。
そうして私は進んだ。




