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138話 ナニカ



街の道を進んでいくと遠くに高いビルのような建物が林立しているのが見えた。


直感的にあそこが目的地だということが分かる。


人間の文明というのは偉大な物で、こんな世界になったとしてもこの世界に多大な存在感を残している。


カルト集団共はあそこに居るのだろう。


俺は歩みを進める。


近付くにつれて人の数も増えていくので、俺は隠れながら歩いていく。


しかし、それにも限界があるのでもはや堂々と歩く事にした。


周りの奴らはもういかにも頭がおかしくなった人といった人ばかりだったのであまり俺に関心を向けていなかったのだろう。


そのお陰で俺は堂々と中心を歩いているのにも関わらず特に不都合なことも無くゆうちゃんを探すことが出来た。


これは僥倖だ。


ゆうちゃんが何処にいるのかは分からないが、あそこまでして奪いに来るということはゆうちゃんはそこまで酷い扱いはされていないはずだ。


周りの人から話を聞こうにも頭がおかしくなっていることが裏目に出て会話という会話が成り立たない。


ゆうちゃんは俺自身で探すしかないようだ。


だが、どこを探せばいいのだろうか。


外にはないと思う。


あれ程の扱いで外に放置という事は無いだろう。


彼らが言っていた通りゆうちゃんは眠り姫、つまり姫なんだ。


姫を攫って酷い扱いはしないだろう。


だとすれば人を監禁することが出来る場所に居るはずだ。


だが、周りを見渡すと人を監禁できそうな建物がそこら中にある。


どこもかなりの広さがありそうな建物だし、監禁するという目的ならどこでもできるだろう。


はぁ、じゃあ虱潰しに探していくしか無いのだろうか…………。


そう思うが俺は周りの人達の動きを見ると奇妙なものを感じた。


皆一直線に同じ建物に入り同じ建物から出ているのだ。


もはや何をやっているのかが分からない。


資材や食料を持った人がその中に入っていき、そこに物を置いていっているようだ。


その様子はかなり異様なものだった。


が、あそこが重要な場所という事は明らかだった。


あそこにゆうちゃんも居るかもしれない。


虱潰しに行くといっても出来るだけ目星はつけた方が良いだろう。


俺はその建物に入る事にした。


だが、問題はある。


周りと比べると俺の身なりは整っている。


オシャレという訳では無いが、周りの人達のあのボロボロの衣服よりかは上等な物を身につけている。


もしあの中にまともな人が居るとしたら俺という存在は異質に映るだろう。


それに俺は刀だって持っているからな。


確実に戦いになるだろう。


…………まってくれ、何で俺はあんな奴らから隠れようとしてるんだ?


あんな奴らは全員殺して進めばいいじゃないか。


というか今ここにいる奴らも全員殺して、皆殺しにしてしまえばいいじゃないか。


俺は本気でそう思った。



「…………?」



何だ?


何でこんな考えになるんだ?


普通こういう時はもっと慎重になるべきなんだ。


俺の最優先事項はゆうちゃんの救出だ。


こいつらを殺す事じゃない。


こいつらを殺したいのは分かるが、こいつらを殺す事が目的じゃないんだ。


だが、俺はこいつらをただ殺したい。


そんなのおかしいとは分かっている。


だが、俺の大切な人を奪った人へ二度と慈悲はかけられないというそんな感情が渦巻いている。


俺の中の優しさが消えていく。


俺の中の優しさが吸収されていく。


俺は刀を抜き放った。


だが、理性が上回り刀をしまう。


明らかにおかしい。


今の俺は精神的におかしくなってしまっている。


今この状態ではゆうちゃんを助ける事は不可能だ。


俺は今すぐにでも突入したい気持ちを抑えて踵を返しその建物から遠ざかっていく。


その間も俺の中でナニカが暴れ回っていた。


この感情に飲み込まれては駄目だ。


絶対にダメなんだ。


そう理解しているからこそ俺はその感情を押し殺す。


…………そうだ、箱を開けよう。


この箱を開ければ何か打開策が浮かんでくるかもしれない。


俺の力の源は全てこの箱なんだ。


この箱が無いと俺は弱い。


だからこそ俺はこの箱を開け続けなければいけないんだ。


俺は人気の無い所まで戻りそこで箱を何個も何個も開ける。


いつも通りの事のはずだが、これをやる度に俺の中のナニカがどんどんと強くなっていく。


最初は自分の意思で箱を開けていたはずなのに、気づいたらそのナニカが箱を開けているような、そんな感覚だった。


もっと、もっと必要だ。


俺の頭の中で何度も何度も声が鳴り響く。


その声が残響して俺を消していく。


それでも俺は、いや、俺なのかは分からないナニカは箱を開けていく。


その度に俺という存在が曖昧になっていった。


何かがおかしい。


何かが変になっている。


そう、気づいた頃にはもう遅かった。


俺は気づけば箱に向かって手を差し伸べていた。


それも開いていない箱だけではなく、開いたあとの空き箱にもだ。


俺は呟く。



夢奪(ばく)




その瞬間、俺という存在は闇に堕ちた。

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