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134話 誘拐



あの一撃をくらってからはっきりいって俺の中から勝てると言う文字が少しづつ薄れていっているようだ。


はっきりいってあのレベルの攻撃を受けてしまえばどれだけ俺が回復できようとも死んでしまうかもしれない。


回復をするということを考える間もなく殺されてしまってはいくら俺でも死んでしまうからな。


俺の頭の中に死という文字がよぎる。


だが、この程度で俺は戦いをやめない。


俺が少しまずい状況になっているというのに、あの男はまだ余裕そうな表情だった。



「うぅん、今全部放出しちゃダメだよね……………。まぁ、今回は時間を稼げばいいだけだしな、適当に戦うか。」



こいつ…………まだ本気じゃ無いのか!?


俺の攻撃はいつまで経っても当たらないので、陽夏を待つしか無いのだが、それすら危ういかもしれない。


はっきりいって俺が居なかったらこの戦線は瓦解する。


俺がみんなを治しているからこそ成り立っている所がある。


だからこそ今一番に考えなくてはいけないのは、俺の生存だ。


誰か一人が居なくなってしまえば成り立たなくなる職場はブラックだとか聞いた事があるが、ブラックなんて上等だ。


俺はここを守るために尽力すると決めているのだ。


俺は死という文字を抱えながらも果敢に立ち向かっていった。



「あぁ、もう面倒臭いな、本当にあいつらは遅いな、ターゲットはわかってるんだからさっさと見つけろよ。」


「早く諦めた方がいいぞ? 俺たちがお前らのことをこの街に入れることは絶対に無いからな!」


「え? けどもう何人か入ってるはずだけど?」


「は?」



いや、そんなはずは無い。


誰かが入ってきたりでもしていたらコナーが見つけているはずだし、今ここで入ろうとしている敵達も俺達の街に入る事は許していないはずだ。



「…………まさか、隠密系のスキルを持ったやつが居るのか?」


「ビンゴ! よく分かったね。そうだよ、何人かの隠密部隊がいるんだよ。」



まずい、それならコナーが見つけられなくてもおかしくは無い。


佐々木の時に体験したが、あれはそうそう簡単に見つけ出せるものじゃない。


コナーが皆のサポートをしながら索敵する事が出来るほど簡単なことじゃない!


今すぐ知らせなくては!


俺は男から踵を返してコナーの元へ向かおうとする。



「おっと、今更知らせたってもう遅いよ? もうターゲットは見つかったみたいだからね。」


「…………そうなのか。」



相手のターゲットとやらが何なのかよく分かっていない状態なのでそのターゲットが見つかったという情報は俺にそこまで響かない。



「というわけで、ここは通してもらうよ。」


「通すわけないだろ!」



俺は浮かびながらホテル街の方へ入ろうとするその男に斬撃を飛ばす。


斬撃は避けられてしまったが、奴の腕には一筋の傷ができており、血が流れている。



「はぁ、本当にめんどくさいな。まぁ、もういいか。」



そう言って男は指をパチンと鳴らす。


その瞬間周りの敵達の身体中から血が吹き出す。


まるでパンパンに詰まっていた水風船の水が弾けるようだった。


これはあいつの仕業なのか?


だけどなぜこんな事…………。



「お、おい、何やってるんだよ。」


「ん? 彼らへの()()をやめただけだよ。そうしたらこんな事だって出来る。」



そう言って奴は俺に向かった腕を振り下ろした。



「ぐっ!?」



俺の体に重圧がかかる。


先程までとは比べ物にならない程の非常に強い圧だ。


あまりの強さに俺の体は立っているのですらやっとという状態になってしまう。



「これで良しと、君も流石にこれじゃ動けないでしょ。」



俺は無言でその男を睨みつける。



「おぉ、怖い怖い。まぁ、そのまんま見ててよ僕は君を殺すことは出来ないからさ。」



そう言って奴はホテル街の中へ飛んでいってしまう。


そうか、奴はあの集団を動かしながら俺と戦っていたのか。


俺は動けなくなってしまったためただ奴を呆然と見つめることしか出来なかった。


奴が飛んでいくのを街のみんなが許すはずもなく飛び道具などを使って奴を打ち落とそうとするが、空を縦横無尽に飛んでいく奴には一向に当たらず、するりするりとその間を縫って進んでいった。


男は街の中に消えていった。


それでも俺の体は動かす事が出来なかった。


やや経って、男は1つのベットに乗って戻ってきた。


嫌な予感がする。


俺はそのベットをじっと見る。


俺の心臓がどくりと脈打つ。


ゆうちゃんだ。


そこにはゆうちゃんが乗っていた。


まずいまずいまずい。


このままではゆうちゃんが!



「あ、そうだそうだ、これをやっておかなきゃね。」



男は地面に落ちていたスピーカーを上へとあげた。


男はスピーカーを少し操作すると、スピーカーから機械音がしだし、声が流れ出した。


声がなっているが、俺の頭の中にはゆうちゃんのことしか考えることが出来ず、何も入ってこなかった。


俺の体はそれでも動く事は出来ず、ただゆうちゃんが攫われていくのをただ見て居ることしか出来なかった。


俺が動けるようになったのはゆうちゃんが攫われて見えなくなった後だった。

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