130話 襲撃5
コナーの元へ駆け寄ると、コナーも慌てた様子で俺の元へと駆け寄ってきた。
「は、晴輝君! さっきのは君がやったのかい!?」
「さっきのって、あの催眠を解いたやつか?」
「多分そうかな? あのカルト集団達の中の痩せ細った人達が次々に倒れたやつだよ。」
「あぁ、それは俺がやったんだが、あいつらってカルト集団なのか?」
俺は疑問を口にした。
特にあいつらがどんな集団なのかわかっていなかった俺からするとそこが引っかかってしまったのだ。
「うん、多分ね、ちょっと聞いた事があるんだけど、今世界中で救世主を信仰してその救世主を探し求めている集団が居るらしいんだ。それだけなら良いんだけど、その救世主を探すためたらどんな方法も厭わないヤバい集団みたいなんだ。まぁ、その中でもあれは過激な方だと思うけどね。」
そうだったのか、救世主様とか何とかって言ってたのはその為か…………。
しかし、それなら眠り姫と言う言葉がよく分からないことになる。
その眠り姫とやらは救世主に関係しているのか?
「まぁ、それは一旦置いておこう、僕達には時間が無いんだ、要点を纏めて事の経緯を話してくれないかい?」
「あぁ、分かった。」
そうだった、俺達には悠長に議論している時間は無い。
俺は事の経緯をコナーに要点だけ纏めて話した。
「へぇ、じゃあつまり今残ってる人達は催眠とか関係無しに僕達に攻撃してきてるって訳だね…………分かった。貴重な情報をありがとう。」
コナーがニヤリと笑う。
いつもならその闇の片鱗に恐怖を覚えるのだが、今回はその顔が堪らなく頼もしく見えた。
「後は僕に任せて、晴輝君は引き続き皆の回復と、後手が空いてれば敵の殲滅もお願いしたいな。」
「分かった。」
コナーは敵の殲滅を始めるようだ。
先程までは相手を出来る限り殺さない戦法を取っていたのにも関わらず、相手が催眠にかかっていないと分かった瞬間にこの豹変ぶり。
コナーの力量が問われる部分だろうが、俺はコナーなら何とかしてくれると信じている。
俺はコナーの指示に従い、また前線へと戻っていく。
前線の仲間は相手の強さに着いていけて居ないようだったが、時より相手の動きが不自然に鈍ったりすることによって何とか戦えていた。
多分コナーの援護によるものだろう。
こんなに広範囲に援護を広げるなんて並の負担じゃ無いだろう、コナーの為にも早く終わらせなくてはな。
俺は最前線で俺も敵を抑えつけるのに参加しながら周りの仲間を治していく。
こういう時にまで引きこもり魂が出て動けなくなってしまったら困るが、俺の体もしっかりと空気は読めるのか、こういう時はある程度大丈夫になるのだ。
アドレナリンとかそういうものの効果なのかもしれない。
しばらくそんなことを続けていると、1人だけ攻撃をものすごく受けている人が居ることに気づく。
…………いつもの吾郎さんだ。
あの人はいつもボロボロになって俺が治癒するということを繰り返している人だったが、どうやったらあんなに怪我をするのかと不思議に思っていた。
だが、あの戦い方を見れば否が応でもその理由が分かるだろう。
吾郎さんは巨大な金槌の様なものを振り上げ、振り回したり振り下ろしたりして敵にとんでもない威力の攻撃をしていた。
その一撃で敵はだいたい瞬時に殺されていた。
しかし、その動きは非常にゆっくりだった。
攻撃時は素早くなるので敵に攻撃は当たるが、如何せんそれまでの溜め時間が長すぎる。
その間に攻撃を何発も食らってしまっている。
それであんな大怪我をしてしまっていたようだった。
ただ、攻撃の威力は目を見張るものがあるので、敵を瞬く間に殲滅していっていた。
俺は吾郎さんを重点的に治す事にした。
殲滅といえば、ここで一番の殲滅力がある筈の陽夏は何処に行ったのだろうか。
陽夏がいればこの数でもある程度対処出来ると思ったんだが…………。
そう思っていると、いきなり少し遠くの場所から爆音が響き渡った。
あぁ、陽夏は別動隊として他の場所で戦っているのか。
あんな威力の攻撃を出せるのは陽夏位だろう。
俺もかなりの威力の攻撃は出せる。
あの吾郎さんよりも殲滅力で言えば上だろう。
だが、今ここにいる人たち全体と比べるとやや劣ってしまうだろう。
それだったらここに居る人達を治しながら戦った方が結果的に効率がいいはずだ。
そっちの方が死傷者の数も減るしな。
金属と金属がぶつかり合う音や、肉が切り裂かれる音、誰かの悲痛な叫びと無機質な声が木霊する地獄絵図で俺は味方を治し続けた。
味方は100人程度しか居ないのに対して敵は千人以上、しかもほとんどが屈強な戦士と来た。
俺達は絶望しか無いような戦いに身を投じている様なものだったが、不思議と負ける気はしなかった。
眠り姫だか何だか知らないが、俺達の居場所を荒らす奴らは誰であろうと許さない。
防衛者達の気持ちが1つになると、いつもよりも力が出るような気がする。
そうして俺達はまだまだ終わらない戦いに身を投じ続けた。




