103話 目
こちらに向かってくる女の人に俺たちは警戒を強める。
女の人は両手を上にあげながらこちらにゆっくりと向かってきていた。
敵意が無いことを示したいのか分からないが、何故そのような事をするのかが分からない。
もし相手に敵意が無く、接触を測っているのならそれはそれでいいんだが、如何せん信用はできない。
「なぁ、コナー、どうする?」
「ううん、何か敵意があるようには見えないけど、こっちに近ずいて来ている以上何とかしなきゃダメだよね。」
俺たちは攻撃してくる相手にはそのまま攻撃で返せば良いが、攻撃してこない相手に攻撃を仕掛けるのは少し気が引ける。
そっちの方が安全ではあるのだろうが、そこまで非人道的な事は出来ない。
俺たちが刀を構えたりしていることに怯えているのか、その女の人は少し震えながら近ずいてきた。
女の人はフードを脱いでおり、大きな鞄を持っていて、いかにも商人といった風貌だった。
その様子からは少なくとも敵意があるようには見えない。
武器なども手に持っていない。
だからこそ俺たちは攻撃する事が出来なかった。
女の人が近くまで来る。
女の人はここまで来れたことにほっとしたのか、少し安心したような表情をし、鞄を下ろした。
そしてその鞄をその場に置いたまま後ずさっていった。
その行動の意図は読めないが、この鞄を俺たちにくれるということなのだろうか。
俺は後ろに下がった女の人を睨む。
すると女の人はビクッとして首を素早く横に振った。
敵意は無いということを示したいのだろうか。
「ね、ねぇ、これ大丈夫なの? 開けてみてもいいのかな?」
陽夏が鞄を指さしながらそう言った。
中身が何なのか分からない以上、無用意に開けるのは危険だ。
だが、今こっちにはコナーが居る。
コナーにかかればこの程度のもの直ぐに正体を明かしてしまうだろう。
俺がコナーに頼むとコナーら一言まかせてとだけ言い、鞄を見た。
「わぁ、なにこれ、ぜんっぜん読めない。」
コナーが自傷気味にそう言った。
読めない? そんな事があるのか?
「うーん、多分大丈夫そうだね、鞄は普通の鞄っぽいね。けど、なんか所々見えないというか…………とりあえず開けてみたらいいかな?」
「そうか…………。」
コナーでも見れないものとかはあるのか。
だが、鞄がそこまで危険なものでは無いと分かっただけありがたい。
中身がどうかは分からないが、とりあえず開けることくらいは大丈夫だろう。
俺はその鞄に近づいて行った。
「俺が開ける、2人は下がっていてくれ。」
「…………分かった。」
「あぁ、任せたよ。」
2人は素直に後ろに下がった。
やはりこういう事は俺がやるに限るからな。
俺は鞄をそぉっと開ける。
何かが起こる事も考えて開けた瞬間後ろに飛び退くが、特に何も起こらない。
俺は1段階警戒を解く。
鞄をもう一度しっかりと開け、中身を確認する。
「うぇ、なんだこれ。」
そこにはホルマリン漬けされた目のようながひと瓶入っていた。
酷く悪趣味なものだ。
目はまだ生きているのか、瞳孔が動いている。
正直言って気持ちが悪い。
「コナー! 見てくれ!」
「これは…………すごいものが出てきたね。」
コナーは至って冷静に対処した。
それを見て陽夏は思いっきり顔を顰めていたので、やはりここまで冷静に対処できるコナーが凄いのだろう。
コナーは真っ直ぐとその目を見る。
「…………ちょっと貸してくれないかい?」
「分かった。」
コナーにその瓶を手渡す。
コナーはそれの周りをグルっと観察したあと、瓶の蓋を開けた。
「ちょ、何やってるんだよ!」
「まぁまぁ、見ててよ。」
コナーはその瓶の中に手を突っ込み、その目に触れた。
その瞬間、その目が最初から無かったかのように消えてなくなった。
その様子は陽夏があの武器を吸収した時の姿と酷似していた。
それには陽夏も気がついたようで、驚いた顔をしていた。
「やっぱり、僕の目はこの目を吸収出来るみたいだね。」
「どういう事だ?」
「君達の話を聞いて僕も出来るのかなって思ったんだ。陽夏ちゃんの刀はその女の人の武器を吸収出来たみたいだし、それだったら僕もこれを吸収出来るんじゃないかって思って試して見たんだ。それが当たったみたいだ。」
「待ってくれ、それだとコナーの目は武器みたいな物ってことになるが…………。」
「あぁ、そうだよ?」
俺は混乱してしまった。
コナーの目が武器?
意味が分からない。
「僕ね、元々片目が無かったんだ。だからずっと義眼を付けてたんだけど、このダンジョンで目を拾ってね。それ以来それが今の僕の目になっているんだよ。」
「…………そうなのか? ん? けど、目になるって…………。」
ちょっと情報量が多すぎて理解が追いついていない。
コナーが片目しか無かったと言うのはわかったが、ダンジョンで目を拾うとか、それが今の目になっているとかはよく分からない。
「まぁまぁ、そんな事は今は良いじゃないか、今はあの女の人を何とかしようよ。」
あぁ、そうだった。
女の人は未だにこちらをチラチラと伺っている。
しかし、コナーが目を吸収したのを確認すると、またゆっくりとこちらによってきた。
俺たちは警戒を強めた。




