07 旅人
突然扉が叩かれ名前を呼ばれたため、仕方なくルミナスは半分眠いまま扉を開ける。
「はぁい……」
目の前には、鎧を着た騎士が数人立っていた。
「お前達がエルザとルミナスか。領主様がお待ちだ……っき、貴様、なんて姿をしている!」
ルミナスの姿を見た騎士は顔を真っ赤にして怒っている。それもそのはず、ルミナスは長めのTシャツのようなもの一枚しか纏っておらず襟元は片側の肩からずり落ち、肌が多く露出している。丈もギリギリのラインで際どい。
「随分騒がしいな」
背後から顔を出したエルザは上半身裸で頭をボリボリとかいてあくびをしている。
あまりにも見目麗しい男女の露出の多い姿に、騎士達は騒然とする。
「お、お、お前達さっさと衣服を整えろ!この街の領主様が貴様らにお会いしてくださるそうだ!早く!」
宿屋に突然現れた騎士達に連れられて、エルザ達は領主バーンの目の前にいる。
「お前達が噂の美しすぎる旅人達か。なるほどなるほど、確かに美しすぎるのぅ」
少し小太りのその領主はエルザ達を眺めながら気持ち悪い笑みを浮かべている。
「私は美しいものが大好きなのでねぇ。この城も飾ってある美術品も庭園も、美しいものばかりであろう」
フォフォフォ、と高らかに笑うバーンを、エルザは冷ややかな目で見つめていた。
(何が美しいものが好きだ。本当に美しいものが好きなのであればまず自らの容姿を整えるべきだろう。だらしのない体、気持ちの悪い笑い、立ち振る舞いも全く美しくない。なぜ美しくあろうとしないのか。これだから人間は)
小さくため息をつくエルザに、ルミナスは苦笑する。
「そこの女、ルミナスと言ったかの」
「へぇっ、あ、はいっ」
急に呼ばれてルミナスはびっくりのあまりおかしな返事をする。
「そなたはわしの妻の一人になるのだ」
「はぁ……?」
「そしてお前、エルザと言ったか。お前も大変美しい、なのでお前もわしの側にいて寵愛を受けるがよい」
「俺は男だが」
エルザが気に食わない顔で返事をすると、バーンはまたフォフォフォと高笑いをした。
「男であろうが関係ないわ。わしは男女どちらも愛でることができる。美しいものは側に置いて可愛がりたいからのぅ」
「(気色悪いな、殺すか)」
「(確かに気色悪いですが、流石に殺してしまうのはちょっと……)」
テレパシーでルミナスと会話をしながら、エルザはさらに冷ややかな目線をバーンに向けた。
「断る」
「私もお断りします」
二人の返答にバーンは驚きで口をあんぐりと開けている。
「お、お前達はただのしがない旅人なのであろう、我は領主であるぞ。その領主から寵愛を受け贅沢な暮らしができるというに、それを断るだと?!」
「領主だかなんだか知らないが、気持ちの悪い小太りのじじいに寵愛を受けるなどごめんだ。贅沢な暮らしがどうした、貴様に恵んでもらわずとも自分でできるわそんなもの」
吐き捨てるように言うエルザと苦笑するルミナスを見て、バーンは沸騰したかのように顔を真っ赤にする。
「ぶ、ぶ、無礼ものーっ!!!貴様らのような無礼者は生かしてはおけぬ!!!死刑じゃ!極刑じゃ!今すぐいねい!!!」
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