39 地の精霊
「あまり時間がない、急ごう。頼んだぞ」
『おまかせあれ』
バシャバシャとエルザが泉の中へと足を運んでいく。振り返り早く来いと言わんばかりのエルザに、ザイド達も次々と続いていった。
全員が泉の中央付近まで歩いた、次の瞬間。
「?!」
ついさっきまであった足底の感覚が急に無くなり、一斉に泉の中へと沈んでいく。
ゴポゴポゴポ……
沈んではいるものの、息は苦しくない。目の前にはただただ蒼く、水底から気泡が上がっていく美しい水の中の景色があるだけだ。
ゆっくり、ゆっくりと果ての見えない蒼白く光る水底に沈んでいく。
(なんて穏やかなんだろう)
カインは目の前の景色を見ながらぼんやりと思っていた。
(このままどこまでも沈んでいくのだろうか。このまま蒼白い光に包まれて消えていくのだろうか。それも悪くないかもしれない)
エルザ達と出会う前はひどい人生だった。生きてる意味さえわからず、でも生きることにただただ必死だった。
エルザ達と出会ってからは、ほんの少しの時間だったけどとても幸せだったかもしれない。
そして、最期に見る景色がこれならば。
カインは微笑みながらゆっくりと瞳を閉じ、水底へと沈んでいった。
「…イン、カイン!おい、起きろ」
ゆさゆさと揺さぶられる感覚に、カインはゆっくりと瞼を開いた。そこにはエルザの顔がある。
「起きたか」
「……生きて、る?」
ぼんやりとしながら起き上がると、エルザは少しだけ眉間に皺を寄せた。
「まるで生きてることが残念のような顔をしているな
」
「え、いや、……泉の中の景色があまりにも綺麗だったから。そのまま消えてもいいと思ったんだ」
バツの悪そうな顔をして答えるカインを、ルミナエルは少しだけ寂しげな表情で見つめる。
「お前にはまだやってもらわなければいけないことが山ほどある。それに、あの景色だけで消えてしまうのはもったいないぞ」
ほら、とエルザが顔を向けた方向にカインも目を向けると、カインは思わず息を飲んだ。
「カイン!見て!すごいでしょ!」
リールが目を輝かせながら叫ぶ。
カインの目線の先には、暗い洞窟の岩壁から無数のオレンジ色の光が放たれていた。それはまるで星空のようだ。
「キレイ…」
カインがぼんやりというと、地面からもぼうっと淡いオレンジ色の光が次々に放たれる。
「ここは地の精霊の聖霊域です」
ルミナエルがにっこりと微笑みながら言う。
「こ、これはまさか星翔石か?」
ザイドが驚きと喜びに満ちた顔で言うと、エルザがほう、と感心した顔で見る。
「さすがは鉱石に詳しいだけあるな、知っているのか」
「いや、本でしか見たことがないし実物は初めてだよ。架空の鉱石とまで噂されていたからな。まさか実際にあるなんて…」
それに美しい、美しすぎるだろ、と聞こえるか聞こえないかの声でボソボソとひとり言のように呟くザイドに、リールはやれやれとため息をついた。
「始まっちゃったわ、鉱石オタク。あぁなると長いわよ」
リールの言葉にクスクスと笑うルミナエル。
すると突然、地面のオレンジ色の光が強く発光し次々と地上に放たれていく。そしてそれは小さな光の塊となってザイドの手のひらに落ちた。
「え、ええ??!」
ザイドの手のひらには薄く光る鉱石、星翔石があった。
「どうやら地の精霊はザイドのことを気に入ったようだな」
「よかったですね、精霊からのプレゼントみたいですよ」
ルミナエルが嬉しそうに言うと、ザイドは頭をガシガシとかきながら照れたようにうつむく。
「ザイドは天使にも精霊にも気に入られるほどいい男なんだな」
「おぉい!からかうなよ!」
ニヤニヤとするエルザに、ザイドが抗議していたその時。
オレンジ色の光がまた集まり、今度は大きな大きな光の集合体となってエルザの目の前に現れた。




