03 天使の記憶
店主が店の奥に行ってから、エルドラはルミナエルに声をかける。
「店主共々お互いに驚いたような顔をしていたが知り合いか何かか?」
「あぁ、ええと、知り合いというかなんというか……」
ルミナエルは店主に聞こえないように、エルドラへテレパシーで伝えた。
その昔、ルミナエルが天使だった頃。人間同士の戦争にとある村が巻き込まれ、村人が大勢犠牲になり村も壊滅した。
天使は人間に勝手に介入することはできず、人間の強い思いや願いで初めて人間の側へ降り立ち介入することができる。
その村でとある人間の強い思いが天使を呼び、それに答えたのがルミナエルだった。
「(とある母親が小さな子供をかばって焼け倒れた民家の下敷きになりました。その母親はとても心が美しく普段から我々天界と心を通わせることができたのですぐに駆けつけることができたのですが)」
子供がその母親のそばでずっと泣いており、母親はルミナエルの姿を見るとルミナエルに子供の加護を願った。ルミナエルは約束の証としてその場に天使の羽根を置き、母親はその子供の手にその羽根を握らせて言った。
『この羽根は……あなたのお守りです。私が……いなくなってもこの羽根が……天使と共にあなたを見守り……導いてくれます。この羽根と共に私もあなたを見守るから……だから……どうか悲しまないで……』
「(そのまま息耐えた母親の側でずっと子供は泣いていました。そしてその子供が成長する様を天使であった私は見守り、時に導いてきたのです)」
「(まさかその子供が)」
エルドラの問いにルミナエルは頷く。
「(さっき顔を見るまではすっかり忘れていました。人間になったので天使の頃の記憶は曖昧になっていたのでしょう。天使である時には膨大な人間の思いに触れているので、人間としての状態では全てを覚えていられないのだと思います。まさかあんなに成長していたとは……)」
「(あの様子であれば向こうは完全に覚えていないにしても何かしら感じたものはあったのだろうな)」
ふむ、とエルドラが感心した様子を見せた時、店主が店の奥から色々なものを手に沢山持って現れた。
「弓を扱うなら服装はこんな感じで、装備もこれくらいの方が身動きは取れやすいと思うんだが」
店主の指示でルミナエルは試着室で試着をした。細身のルミナエルには少しサイズは大きめだが、元々着ていた服装に比べれば雲泥の差だ。
「これでいい、全部貰おう」
「毎度!あんたは装備や武器を変えたりしなくていいのか?見たところ剣もそんなに良いものではなさそうだが」
こっちなんか良い剣だぜ、と店主が勧めるが、エルドラは首を横に振る。
「俺はこれで十分だ」
店主はふーんとつまらなそうな顔をしたその時、突然店のドアが開いて人が慌てたように入ってきた。
「大変だザイド!また変な怪物が街のすぐ近くに現れた!!!」
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