38 聖霊域
エルザが岩場に向かって片手を翳すと、片手が光ると同時に岩場の壁がゆらゆらと揺れて透き通り、空洞が現れた。
「岩場の壁が……無くなった?!」
驚くザイド達を横目に、エルザはスタスタと岩場の中へ入っていく。
「お、おい待てって」
慌ててザイド達もエルザの後に続くと、大きな泉のある広い空間が現れた。その泉は透き通っていて底から水がポコポコと涌き出ているようだ。
「とってもきれい…!」
リールが目を輝かせて言うと、エルザはリールの様子を見て優しく微笑んでから泉を眺めた。
「ウヒュシュドークル」
エルザが囁くと泉の中から沢山の蒼白い光の粒が舞い上がって来る。その光の粒は集まって次第に人の形のようになっていった。
『お呼びでしょうか』
人の形のような蒼白い光から声ではない声が発せられる。
「おいおい、なんだこりゃぁ…!」
ザイドが驚くとルミナスは嬉しそうに微笑んだ。
「ここは精霊の集う場所。聖霊域です」
聖霊域。それは精霊がその土地の中でも特に集まりやすい場所であり、またその土地特有の精霊が生まれる場所でもある。
エルザ達が立つその場所はまさに水の精霊の聖霊域だった。
「頼みたいことがある。ユリギス領の外れにある古城近くの聖霊域まで俺達を運んでくれないか」
『元魔王であるあなたの頼みであれば断る理由もありません』
まるで楽しげに笑うかのように蒼白い光は強くなったり弱くなったりを繰り返している。
「…あの、聖霊域まで運んでもらう、とは一体どういうことだ?」
カインがおずおずと質問をすると、突然泉の水がぴちゃん!と跳ねた。
「わぁぁ!」
「ッフフ、からかわれたな。精霊はいたずら好きなんだ」
驚くカインにエルザが言うと、また蒼白い光が強弱する。
「分かりやすく言うと土地にはそれぞれ個性のようなものがあって、その土地の個性に合う精霊が集まりやすい場所が必ずあるんです。それが聖霊域。そして聖霊域は精霊の力が凝縮された場所なのでそこを介して移動することもできます」
ルミナスが人差し指を立てて説明すると、ザイドやリールはなるほど、と頷く。
「ただし、精霊に気に入られることが条件です。それはたとえ元魔王であったとしても過言ではありません」
「聖霊域については人間の中でもごくわずかな人間しか知らないはずだ。精霊は人の目を眩ますことも得意だからな」
「だとすればバーゼイルも知らない可能性が高い、と」
顎に手を当ててふむ、とザイドが言うと、エルザはそうだ、と頷いた。
「それに精霊の力には魔力を妨害する結界は効かない。移動するにはうってつけなわけだ」




