01 魔王と天使、人間になる
どう見ても面積の少ない白い衣装をまとうルミナエルに、エルドラはため息をついた。ワンピースのような形状だが胸元は大きく開き丈も随分と短い。
「どうして天界はそう露出に対してなんら気にもとめないのか」
しかし、エルドラの言葉はルミナエルには届いていないようだ。
「エルドラ、私はどうやら人間の女になったようですよ……!すごい、これが人間の体なのですね!さすがは天界です、とても美しい体をお造りになってくださいました」
自分の姿にはしゃぐルミナエルに、エルドラは先が思いやられる。
「俺はこの通り男になっている。全く、お前は本当になんでそんな服装なんだ……」
魔族も天使もそもそもは性別がないが、人間に性別があることはわかっている。自分達に性別があること、それぞれ違う性別であることに少なからず楽しさを見いだす。
だがエルドラは楽しさだけではないことをなんとなく予感していた。
「そんな姿のままではきっとめんどくさい事が起こるぞ。と、それ見たことか」
エルドラがため息まじりに向けた視線の先には、武器を持った数人の若い男達がルミナエルを見てニヤニヤと笑って近寄ってくる。
「おやぁ、随分と綺麗な女がいたもんだな」
「あれは売ればいい金になるぞ」
「お、男の方も随分といい顔立ちをしてるな。二人とも10代後半か20代前半てとこか。どっちも高く売れるかもしれねぇ」
男達はゲスい顔をしてエルドラ達へ近寄ってくる。
「ふむ、これが俗に言う山賊とかいう者か」
エルドラは顎に手を当てて楽しそうに言う。そして、おもむろに腰に装備されていた剣を構えた。
「さて、人間になったとなるとどのくらい力が抑えられているのか」
エルドラは山賊達の少し横へ向けて剣を軽くひと降りする。
すると、勢いよく風の刃が飛び出し、木々や岩を次々となぎ倒して行った。
「これはこれは。随分と抑えられていますね」
それでは私も、とルミナエルは背中に背負われていた弓を反対側へ向けて矢を放つ。すると矢はものすごいスピードで飛び、これまた木々や岩を貫通して行った。
「人間になるとこれくらいなのですか、物足りないですね」
ルミナエルは頬に片手をおいてがっかりする。
「なっ、なっなんなんだぁぁぁ!!!!!」
エルドラ達の威力に恐れを成した山賊達は、一目散へ逃げて行った。
「なんだ、これしきのことで」
エルドラが目を細めると、ルミナエルが何かに気づく。
「落とし物……これは金貨や宝石ですね」
「さっきの山賊が落として行ったものか。ちょうど良い、どこかの街でお前の服と装備を調達しよう」
エルドラがそう言うと、突然横からグゥ~っと音がする。
「エルドラ、お腹が鳴りました。これがお腹が空く、ということなのでしょうか……?」
ルミナエルは目を輝かせてエルドラに言う。天使であった時には空腹という現象が無かったため、お腹が空くことも鳴ることも初めてのことで嬉しさを隠しきれない。すると、またひとつグゥ~と音が鳴った。
「どうやら俺の体も腹が減ったようだ。早く街を見つけないといけないな」
ふと、ルミナエルが空を見上げて何かを見ている。ルミナエルの周りにはキラキラと光る小さな小さな粒が漂っている。
「この道の先に街があるようです」
「精霊か。俺達を導いてくれるようだな」
エルドラ達が人間界で迷わないように、各地の精霊がアシストしてくれるようだ。
「よし、街へ行こう」
とある国の城の中枢部。地下の一角に結界が張られた場所が二ヶ所ある。その場所の中央にはそれぞれ魔方陣が光っており、そこには手首と足首に枷を付けられた者が一人ずつ項垂れたまま座り込んでいる。
一人には真っ黒な翼が、もう一人には真っ白な翼が背中から生えていた。