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王城刺繍士エレナ•ファールゼンは困っております

作者: とむ
掲載日:2021/08/27

〜刺繍をいたしましょう。一針一針心を込めて、糸の先まで気持ちと魔力をこめて。さぁ刺繍をいたしましょう〜


私エレナ•ファールゼンは王城の刺繍士として出仕しています。実家は特に貧乏って訳でもなく、可もなく不可も無い伯爵家であるので一応伯爵令嬢ではあるのですが、なんせ我が家は家族の数が多いのです。しかし10人兄弟の6番目と言うあまり注目もされないポジションですが、両親や家族たちからは平等に愛を貰えていると思っております。

私は15の時に王城の侍女を募集する話を知り、少しでも家族がくれた愛への恩返しとまだこれからお金のかかる弟や妹たちの為にも出仕する事を決めました。

伯爵家の娘なので侍女試験への条件等はクリアしております。まぁまず落ちる事はないでしょうと思っておりましたら、特技披露で見せた刺繍から私は王城刺繍士として合格してしまいました。何やら私の刺繍の腕も糸の隅々まで渡る魔力の細かい操作が大変素晴らしいとお褒めの言葉を頂きましたくらいです。

王城刺繍士は刺繍をする者からしたら憧れの仕事です。普通の刺繍士とは違い王城刺繍士は刺繍の腕は勿論ですが、魔力操作が大変重要となります。糸の隅々までに自分の魔力を流し入れ、その服を着る王族たちをお守りしたり、少し魅力的に見えるように等術を施します。この職に就いている者も細かい魔力操作が必要となる為ほぼ貴族の娘たちが就いています。また数があまりいない為に納期前は毎度修羅場を迎えますが、大変良い待遇を受ける事も出来ます。


あの驚きの合格から早3年現在18歳となった私は、王妃様のドレスも任されるようになりました。

さて、こんな私に現在困っている事が2つ起こりました。

1つ目はそれは私の婚期の問題です。我が国では18〜22歳位が女性の婚期とされております。私自身はこのまま刺繍の道を極めたいと思っておりますが、結婚して家族を持つのが最上級の幸せと思っている両親たちが納得してくれないでしょう。普段は刺繍士の寮住まいの為に大丈夫なのですが、たまに実家へと帰るたびに嫌になります。このままですと大好きな両親を嫌いになってしまうかもしれません。また可もなく不可もなくな伯爵家の娘の為に幼い頃からの婚約者的な人も居ませんし、夜会などに顔を出しても私としては令嬢方のドレスの刺繍を見る方が楽しいですし勉強にもなります。あと少し気にかかる事もありましてまだ婚約者等を定めたく無いなと思っております。

そして2つ目の問題ですが、あー今日もその問題がやってきたようです。

「ちょっと!!エレナ•ファールゼン!!!たかだかお針子の分際で私のドレスの刺繍を断るとはどう言う事よ!!!」

「ご機嫌ようオリヴィア•リンダーハル公爵令嬢。大変申し訳ありませんが、私はお針子では無く王城刺繍士ですのでどうかお間違いないようお願いいたします。」

「そんな事どうだって良いのよ!なぜ私のドレスへの刺繍を断ったのか理由を述べなさい」

決して細かい事では無いのですが、ここで反論してもより話が拗れるでしょう。私は小さくため息をついた後、リンダーハル公爵令嬢へ向き話し始めました。

「リンダーハル公爵令嬢、私たち王城刺繍士はこの王城に出仕している刺繍士です。個人的にハンカチなどの小物に少し刺繍をする事は許されておりますが、ドレスや上着など、お召しになる物に対しては王家の方々の許しがない限りには認められておりません。例え貴方様が準王族である公爵令嬢であっても例外は認められません。大変申し訳ありませんが、このお話はお受けする事が出来ません」

王城刺繍士は魔力を刺繍糸に込める為に細やかな魔力操作に集中力や体力を大幅に消費してしまいます。一着のドレスを仕上げた後は必ず3日は休みが必要であると法で定められています。またその希少性からも個人的に受けてはならぬと決まりがあるほどなのです。あと私は昨日仕事を仕上げたばかりです。今日から三日間は休養日ですので、今すぐ施して欲しいリンダーハル令嬢の要望は聞き入る事も不可能です。

「しかし、セレイア様には刺繍をしたのではなくて?同じ王子の婚約者である私の望みを受けれないなんておかしい話ではありませんの?」

確かにリンダーハル令嬢が仰った通り、昨日終えた仕事こそセレイア様のドレスへの刺繍であります。しかし、あれは御成婚日が決まり王太子妃となられるセレイア様へのお祝いとして王妃さまから依頼されたものです。決して特別扱いと言う訳ではありません。あと同じ王子の婚約者と言っても、セレイア様は王太子妃ゆくゆくは王妃となられる方。対してオリヴィア様は第二王子殿下の婚約者で、いずれ臣籍降下した殿下が公爵家を継ぐので公爵夫人へとなられる方です。第二王子殿下と御成婚なさってもオリヴィア様は準王族のままですので、王城刺繍士が仕える相手には該当はされません。

しかしこの事を申し上げたら、セレイア様に対抗意識を持ってらっしゃるオリヴィア様がより興奮なさってしまうでしょう…どうしたら良いのでしょうか。


「リンダーハル公爵令嬢!王城刺繍士の私室への勝手なる訪問はやめて頂きたい!!」

私が悩んでいました所に扉から鋭い声致しました。

「これはレオナルド第三王子殿下ご機嫌よう。レオナルド様もこちらの者に何か御用でしょうか?」

オリヴィア様が綺麗な淑女の礼をなさった。そう今私の窮地を助けて下さったのは、オリヴィア様の仰った通り第三王子殿下である。しかし、オリヴィア様…今はそう呼んではいけない決まりとなっておりますよ。我が国では王太子が定められると他の王子王女は成人した際に王族から別の道へと進むようにと進言されます。第三王子殿下であるレオナルド様は兄である王太子殿下を尊敬し、現在は王太子殿下の第一補佐官を務めていらっしゃいます。大変優秀なお方で、いずれは後継がいない現宰相を務めている侯爵家と養子縁組をされるだろうと噂されています。ですので、仕事着をお召しになられている今は本来なら王太子室第一補佐官様などとお呼びするのが正しいとされています。

でも、そこを指摘してもまたオリヴィア様が興奮してしまうでしょう。私は特に何も申し上げずにただオリヴィア様に倣って礼を致しました。レオナルド様もオリヴィア様の性格を知ってか、特に指摘はせずに話し始めました。

「王妃陛下ならびに王太子殿下がファールゼン刺繍士をお呼びになられている。ファールゼン刺繍士この後ご予定が無ければこのまま共に来て貰えないだろうか?」

「かしこまりました。特に何もございませんので可能ですわ。」

助かった…さすがに王妃陛下のお呼びであればオリヴィア様も諦めてくれましょう。チラリとオリヴィア様の方を見ますと物凄いお顔で睨まれてしまいました。

「王妃様のお呼びでしたら仕方ありませんわね。レオナルド殿下御前を失礼いたしますわ。エレナ•ファールゼン私は諦めませんわよ」

そう言い残しオリヴィア様は私の部屋から去って行った。

「大丈夫でしたか?」

レオナルド様が心配そうなお顔で尋ねて下さった。

「本当に助かりました。ありがとうございます。しかし、王妃陛下方のお呼び出しで、第一補佐官様がいらっしゃるのは珍しいですね?」

「あーそれは。本来なら貴方の兄上である第二補佐官のカーチスが来る予定でしたが、リンダーハル公爵令嬢が貴方の部屋に向かってると情報を聞き入れましたので私が呼び出し係となったのです」

なるほどそれなら納得ですね…私の次兄は王太子室第二補佐官を務めてまして、本来なら未婚の女性の部屋を訪れると言う事で兄妹である兄が呼び出し係を受けもっています。しかし我が家は伯爵家、格上の公爵家であるオリヴィア様は兄の言う事など聞き入れませんでしょう。レオナルド様方の機転には感謝しかありません。さぁ参りましょうと私はレオナルド様の後に続き王妃様の待つ部屋へと向かった。



「全員崩してよし!エレナよ先程は大変だったのだろう。ゆっくりと休んでゆきなさい」

「王妃様ありがとうございます」

王妃様のこの『崩してよし!』の号令は、特に気を許してる者しかいない為無礼講であるの合図である。この言葉聞くと私もついいつもより気を緩めてしまいます。今王妃様の部屋に居るのは、王太子殿下、セレイア様、レオナルド様、カーチス兄様と私。私たち兄妹だけ身分が下にも関わらず、皆様本当良くしてくださります。

「それにしてもオリヴィアは困ったものね…ルイスはあの子の事を止めたりしていないのですか?」

「ルイスは特には…むしろオリヴィア嬢とあまり関わりたく無いようです。あいつは昔から魔剣士になる事、そして剣の腕を磨く事にしか興味がありませんから。それに昔は彼女と歩み寄ろうと努力してましたが、近年オリヴィア嬢は…言い方悪いのですが、王太子となった私に狙いを定めセレイアから婚約者の座を奪おうとしていました。そんな姿を見てルイスは嫌気がさしてしまったようです」

王妃様の問いに王太子殿下がそうお答えになりました。第二王子であるルイス様は現在魔法剣士団第一隊長を務めており、戦いのセンスが非常にお高い方として名が知れております。自身の婚約者が兄君を狙っているだなんて不憫で仕方ありません。ルイス様もそんなオリヴィア様を見て婚約解消を何度も考えているらしいのですが、オリヴィア様が今さら他に良縁は結ぶのは難しいであろうと思い解消を踏みとどまっていらっしゃるようです。そんな重い空気を思ってか、セレイア様が明るく私に話しかけて下さりました。

「エレナ!私あのドレスを先程見てまいりましたの!貴方の刺繍の腕は本当に素晴らしいですわ!」

「ありがとうございます。気に入って頂けて本当何よりです」

「刺繍は勿論ですが、付与されている魔力も本当に素晴らしくて…さすが王妃様付きの刺繍士ですわ。昨日仕上げたのですから今日からお休みよね?ご実家には帰られるの?」

「はい…一応明日顔を出す予定です」

実家に帰ればまた結婚の事を聞かれるのかと思い少し憂鬱です。そんな私に気づき王妃様が

「エレナ、そなたご実家と何かあったの?」

「あー王妃様こいつ今うちの親たちから、結婚しろー婚約しろーとか色々言われてるんっすよ。多分今回帰る事を察して大量の釣書が用意されていると思いますよ。王城刺繍士の最高峰王妃様付きの娘が婚約者を探しているだなんて、王家に顔を売りたい奴らからしたら喉から手が出るほどの事でしょうしね」

兄が飄々と語っている、自分だって婚約者の1人もいないが、兄は父の前で自分の人生は王太子殿下に捧げる!と演説し、見事なる王家への忠誠心だと父を感激させた為に兄にはうるさく言ってこない。もちろんその演説は兄の演技である。ちなみに私もその手を使ってみたのですが、通用いたしませんでした。

「なるほどね。まぁ結婚適齢期の娘をもつと親としては心配になる気持ちも分かりますわね。しかし貴方は私の大切な刺繍士…もし、格上の家から強引な縁組が来たら断れない可能性もあります。私は貴方には幸せになってもらいたいですわ。」

ビシッと王妃様は持っていらした扇をレオナルド様に向けて

「レオ!あなたこの子の後ろ盾になりなさい!一応第三王子であるあなたの名前があればある程度は大丈夫でしょう。あとオリヴィアの様に無理にエレナに依頼する者もあなたの名前があれば幾分かは守れるでしょう。それにねレオ、あなた私の言いたい事分かってますよね?」

母上それは…とレオナルド様は少し慌てていらっしゃいます。なんだか不思議な事となってしまいましたが、どうやら私に強力な後ろ盾が出来たようです。明日両親からの口撃の際には、使わせてもらいましょう。

王妃様も王太子様も御公務の時間が来ましたのでお茶会は終了となりました。自室に戻ろうとしたらレオナルド様からお声がかかりました。

「エレナ嬢、部屋に着くまでの間少し話を良いですか?」

ハイと頷き、行きと同じようにレオナルド様と共に歩き始めました。

「先程は母がいきなり申し訳ありませんでした。」

「いえ、レオナルド様の名を使わせて頂けるなんて私も心強いです」

「その事ですが…エレナ嬢、私を貴方の後ろ盾ではなく婚約者候補の一人として考えては頂けまけんでしょうか?母は私が貴方を思っているのを知っていてあんな事を言ったのです。いきなりで申し訳ありません。どうか考えては頂けませんでしょうか?」

私に対して礼をとるレオナルド様のお顔は見れませんが、お耳が赤くなっているのが分かりました。

「どうしましょう…お顔を上げてくださいレオナルド様。あの国王陛下や王妃様はお認めになられているのでしょうか?あと、お噂されている宰相家の皆様方も…」

私はしどろもどろになりながらも尋ねました。

「先程の母を見ての通り、我が両親は私の気持ちを後押ししてくれています。宰相からは私が決め、陛下方が認めた人物なら良いと言われております。流れている噂の通り、私は近々宰相家であるユイナーン侯爵家と養子縁組を結びます。伯爵令嬢であられるエレナ嬢と身分の釣り合いも取れると思っております。どうか私の手をとって頂けませんでしょうか?」

「レオナルド様…そのお話が本当でしたら喜んでお受け致します。いつも優しく守って下さる貴方を私は心よりお慕い申し上げます」

そう私が婚期に対して気にかけ悩んでたのは、第三王子であられるレオナルド様をお慕いしてしまった事もありました。いつもオリヴィア様を始めとする高位令嬢方からの刺繍依頼から守ってくださり、同僚の妹からか気にかけて下さるこの方を私はいつしか好きになっていました。

「本当に嬉しいです。嘘でなければぜひ私の婚約者候補の一人ではなく、婚約者となっていただけませんか?」

私は一歩レオナルド様に近づきましたところ、そのまま彼の腕の中へと抱きしめられました。

「ありがとう、ありがとうエレナ嬢。絶対に君を幸せにする」

そう耳元で囁くと、より強く抱きしめてくださりました。

その時柱の影からパチパチと拍手の音が聞こえました…私たちはバッと離れ音の方を見てみるとニヤニヤした顔の王妃様、王太子殿下、セレイア様、そしてカーチス兄様の先程のお茶会メンバーが居ました。王太子殿下が一歩前にでて

「いやー良かった良かった。ちゃんと話がまとまって。あ、レオお前明日休みな!エレナと一緒にファールゼン家へ向かい伯爵たちから婚約の許しを取ってこいよー」

皆様方に見られたとは、そしてこの様子ですと私の気持ちもバレていたのでしょう…恥ずかしいたらこの上ありません。

「母上も兄上方も覗き見とは悪趣味ですよ。兄上お休みありがとうございます。しかし、兄上は公務より弟の覗きを選択するほど優秀ですし、第二補佐官殿も同じように優秀であられると見受けられます。明日と言わずただ今より休暇を頂きますね。エレナ嬢さぁ支度をしてこのままファールゼン家へと向かいましょう。皆様方御前を失礼致します」

レオナルド様はそう言うと私の手を取り少し早く歩き始めました。後方からは王妃様とセレイア様の笑い声だけが聞こえます。兄さまこの後頑張って下さいね。


レオナルド様が繋いでくださってる手の温もりが幸せでたまりません。きっと両親たちは驚くでしょう。その驚く顔を見るのが今からとっても楽しみです。

私の困っている問題はすべて解決したと言う訳ではございませんが、この方がそばに居て下さるのならきっと私は幸せでしょう。そう思い私は繋いでいる手をまた握り返しました。驚いた様に振り返った貴方はとても幸せそうに微笑んで下さりました。きっと私も同じ様な顔をしている事でしょう。


お読みいただきまして、本当にありがとうございます。


オリヴィア様やルイス様の事など未消化な部分もありますが…もし好評頂けましたら続きをかいてみたいなとも思っております。

大変恐縮ですが、よろしければブックマークや評価などをして頂けるととても嬉しく思っております。

どうぞよろしくお願い致します。

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[一言] この後のエレナの両親の反応とか見たいです!(笑) 是非お願いしま〜す!
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