悪役令嬢にいじめられている?そんなの自業自得でしょう?
「アイナ・ニーノン、お前との婚約を破棄し、お前を国外追放の刑とする!!」
私、アイナ・ニーノンは、前世の記憶がある。
ここは前世で訳あって攻略していた乙女ゲーム、
『甘い瞳で僕を見て』の世界だ。
アイナ・ニーノン公爵令嬢は悪役令嬢で、王子の婚約者だ。
王子が好きになった、平民だが魔力を持つ少女、
ルルナ・マリエスを妬ましく思い、嫌がらせをしていく、絵に描いたような悪役令嬢だ。
と…思われている。
前世の私は『甘い瞳で僕を見て』の制作会社のそれなりに上位に立つ存在で、このゲームの制作リーダーだったのだ。
このゲームを攻略していたのは、ちゃんと出来ているかのチェックであった。
そして、悪役令嬢アイナ・ニーノンは私の自信作キャラクターだ。
表向きには主人公をいじめる非道な令嬢と言うキャラクターにしてあるが、アイナの味方をする様に攻略すると、アイナは小さい頃に兄弟や両親から虐待を受けていると言う過去が発覚する。今もなおゴミのような扱いを受けており、家族たちはそれを上手く隠している。
さらにさらに、ヒロインのルルナ・マリエスは、エリエス侯爵家の令嬢、リリーナ・エリエスで、昔ニーノン公爵家の近くに住んでいて、一緒になってアイナをいじめていたのだ。
ちなみにその後エリエス家に強盗が入ってリリーナをさらっていった。
それで、またいじめられるのを恐れ、いじめる側の立ち位置に回った。
さて、今はゲーム最終ステージの卒業パーティー。
私は今まさに(偽りの)断罪されようとしている。私を断罪しようとしているのはこの国の第二王子であるダーナ・マーサルその隣には、怯えるように小さく震えるルルナ…いや、リリーナがいる。
「理由をお聞きしても?」
「とぼけるつもりか!お前がルルナにした愚行の数々、もはや許される物ではないぞ!」
『私』としての記憶が目覚めたのは昨日。この断罪パーティーを避ける方法はなかった。
「悪口から始まり、教科書を破り、友達まで奪い!ルルナがどれだけ苦しんだと思っているのだ!!」
私は、私としての記憶が戻ったのは昨日だが、それまでのアイナと合わさって今の私だ。幼き頃、リリーナにされたこと、家族にされたことの恨みを忘れてはいない。
「仮にそれが本当だとして、それだけの理由で私を断罪するのは無理ではなくって?しかも相手は平民で。」
「精神的苦痛は立派な犯罪だ!それにルルナ…いやリリーナは、10年前に攫われたエリエス侯爵家の令嬢、リリーナ・エリエスなのだ!侯爵令嬢をいじめるなど、言語道断!!決して軽くはない罪、償ってもらうぞ!!」
周りがざわめく。
「知っているなら話が早い」
私は誰にも聞こえない小さな声で呟いた。
「ええ。確かにそれをしたのは私です。」
「認めるか。それなら早くこの場から…」
「ですが私が断罪されることはありません。」
ダーナの言葉に重ねるようにして私は言い放った。
「負け惜しみか。公爵家のコネならないぞ」
「いいえ?そんな物ではありません」
言うと、私はドレスで隠れていた腕をめくった。
するとそこにあったのは…
「…あざ?切り傷か?」
手首から肩にかけて痛々しげに青紫色のあざがあった。
「ええ。これは幼き日に、ある人につけられた、10年経った今もなお残り続ける傷。この傷をつけたのは…」
そこまで言った時、リリーナの顔が明らかに青くなる。
「そこにいる、リリーナ・エリエスです。」
「う、うそよ!でまかせよ!私そんなことしないわ!そ、そうよ!お前が私を陥れるために…」
リリーナが吠えるように言う。
「おや?リリーナさん?あなたのことは、誰に対しても温厚で、誰に対しても最後まで優しさを貫く人だと聞いていましたが…」
いつもと明らかに違う言葉使いで醜い顔をして叫ぶリリーナに誰もが動揺を隠せなかった。
「ち、ちが…これは…」
我に返ったリリーナが弁解しようとする中。
「ダーナ王子。悪口から、教科書を破ったり、友達を奪う、でしたっけ。」
「そ、そうだ。お前はリリーナのことを平民、ここから出て行けなどとの悪口を言ったり大事な教科書を破り、友達までを奪い…」
「ゴミ、クズ、と呼ばれることから始まり、唯一私に優しかった亡き祖母から貰った大事なノートを引き裂き、絶対に何があっても親友と誓った1番の友達を奪った。これらは両親やお兄様、そしてリリーナがしたことだ…。挙げ句の果てには身体中を切り裂かれそうになった。なんとかこの傷だけで済んだものの、公爵令嬢を殺そうとした罪、私のしたことの埋め合わせとしても、十分に重い罪よ…」
「それはうそよ!わたしは少しナイフで腕に一生残る傷をつけようとしただけで…」
ハッとリリーナが口に手を当てるがもう遅い。
そう。私はカマをかけたのだ。
「り、リリーナ…」
「ち、違うの!!これは、その、違うの!」
リリーナが必死になって弁解しようとするが、言ってしまったものはなかったことには出来ない。
「そうそう、私の家族も私のことを笑いながら蹴ったり殴ったりした虐待犯だから。」
全くの無表情の私は、みんなからどう見られているのだろうか。
「王子、精神的苦痛、でしたっけ?つまりリリーナや私の家族は私に精神的苦痛を味わわせた罪に問われます。」
リリーナは、壊れたように目が虚ろだ。
「精神的苦痛、と言う罪は王国法にはなかった筈。
つまり今回新しく作った罪。私は知らないので、教えていただけますよね。王子?」
私は笑顔で、だけど目が全く笑っていない顔で王子に問う。
「…相手への慰謝料金貨5百枚。出来ない場合は奴隷落ちした状態で国外追放」
全てを諦めた顔で話す王子の言葉に、私の家族とリリーナは「ひっ…」と声を漏らす。
私は家族とリリーナにとどめを刺すように言い放つ。
「私は理不尽なことなど一つも要求していない。ただ、あなたたちがしたことに見合うことをしてもらうだけですよ。」