成人の儀
明日の真夜中に自分は成人を迎える。
だからといって何かが変わるわけではない。今まで生きてきた14年と11ヶ月の様な毎日がまた待っているのだろう。昨年公爵家に嫁いだ姉様にプレゼントでも強請ろうかしら。お金が有り余ってるに違いないのだから。
夕食前の祈祷の時間にシルファは相も変わらずアリア様とは全く関係ないことに思考を巡らせていた。姉が嫁いでから祈りを捧げる声が減ったことで両親は本来あるはずの声が一つ少ないことに気づくようになってしまったが、シルファは懲りず祈りの言葉を口にしつつも他方面のことを考える術を身につけた。
そしてやっと祈りの時間が終わり、食事に集中しようと思った矢先に父の口から予想外な台詞が飛んできた。
「神殿にて成人の儀を行うのですか?それも真夜中に?」
「ああ、バレンタイン家は直系だからな。心配するな、お前の姉も経験したことだ。神殿の最も奥深い『祈祷の間』で毎晩と同様にアリア様に祈りを捧げるだけらしい。」
「らしい。。。父上は成人の儀を行なっていないのですか?」
「バレンタイン家の女性のみに与えられる神聖な使命だ。一刻もかからんと聞く。案ずるな。」
ええ、と大人しく頷いたシルファだが、真夜中に神殿に向かわなければならない面倒臭さと、信仰心の薄い自分が行くべき場所ではないという後ろ向きな想いが合わさってあまり気分は良くない。
そして女性だけのために行われる儀式。実に怪しい。