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煉瓦の部屋

少し書き足したり、修正したりしました。

リセラ・ラブは周りに少しだけ嘘をついている。


「シルファ様?ええ、よく知っていますとも。幼馴染みなのよ?」


と周囲の人間にシルファについて尋ねられれば答えていたが、実際その質問をしてくる者と自分の持つ情報量はさして変わらない。


父に連れられ自分の血筋の本家であるバレンタイン伯爵邸に幼き頃何度か訪問した程度で、親戚だからといってシルファと特別な友情を築いている訳ではなかった。


もとより、シルファが自分に対して無関心であるように、リセラもまたシルファに無関心であるのでこれに関して特に困ってはいない。だがリセラの周りの人間はリセラとは逆にシルファ・バレンタインへの関心が強く、何かとリセラに尋ねてくるのだった。


「シルファ様はご婚約されてるの?」

「シルファ様は何故いつも喪服なのかしら?」

「あの雪のように白い肌はどうしたら手に入るのかしら」


リセラはこのような質問に対して当たり障りのない答え方をしていた。ご婚約は発表されていない、あのお方は子供の頃から好んで黒のみを身につけている、きっとあまり日光を浴びないようにしてらっしゃるのよ。


そうすれば大方の質問者はリセラに聞く前から既に知っていた情報とリセラに聞かされた答えがある程度一致してることに満足し、その場を去るなり次の話題に移るのだった。


シルファのことでリセラのもとを人が訪れるのは上の学年に上がりクラスの面々が変わる時か、転校生が編入する新学期と大体決まっていたので、夏休みも終わり新学期が始まって間もない頃にリセラのもとに1人の男子生徒が訪れたことはそう驚かなかった。 


しかし残暑が残る秋の教室の昼下がり、リセラを訪ねてきたこの人物は今までの質問者とはどこか違う、不思議な雰囲気を纏った人物だった。何より彼の右目の上から額にかけて十字架のような刺青が彫ってあるのがリセラにとって大変珍しく、最初はそればかり気になってしまった。会話が始まってもしばらく刺青から目を離せないでいると、彼はリセラの意識を会話に引き戻すように予想外な質問を投げ掛けた。 


「シルファ様は好んで黒を着ているのか。それは予想外だな。黒が好きというのは直接彼女から聞いたのかな?」


「え、ええ。うんと小さい頃から黒を着ているのだから、きっとそうなのよ。」


「きっと、ね。貴重な時間をありがとう、リセラ嬢。」


と謎めいた台詞と共に男子生徒は去っていった。そうだ、小説を読んでいた途中だったのだわ、と先程閉じたページから読書を再開しようとした時、ふと彼女は違和感を覚える。今の今まで言葉を交わしていた男子生徒はすごく印象的な容貌をしていたはずなのに、会話が終わってから数分経った今ではぼんやりとした顔の輪郭しか思い出せない。リセラはその顔をもう一度思い出そうとしたが、授業の開始を告げるベルの騒がしい音が鳴ったので途中で諦めてしまった。


半刻後、リセラは男子生徒と言葉を交わしたことさえ忘れてしまう。


一方、リセラと短い会話を終えた男子生徒はこの学園のもっとも北に位置する棟、ウィズテン棟の使われていない最奥の教室に向かっていた。木製の重厚な扉を開ければ無人の、学園創設時によく使われていたという大きな教室が彼を迎える。教室の後方に構える暖炉の前へと進み、一度背後に誰もいないことを素早く確認すると、彼は文字通り暖炉を()()()()()


暖炉を()()()()男子生徒が進んだ先は窓一つない、壁も床も天井も煉瓦で覆われた広大な部屋。飾り付け一つない殺風景な部屋の真ん中には大きな天蓋付きベッドが一つ。風もないのにゆらゆらと揺れる天蓋から垂れる白いカーテンは、ベッドで眠る人物の姿をぼんやりとさせる。はっきりとは見えないが、そこに横たわるのは2人だということがわかる。男子生徒は迷いなくベッドの脇まで歩くと、遠慮なくカーテンを開け寝台の上の人物を確認した。


「なんて無作法なのかしら、レディが食事中なのよ。」


1年生かと思われる、学園の中では比較的幼い容姿の少女の首元から唇を離しながら彼に非難の言葉を浴びせる美しい女は、少女とも女性とも言えない年齢の容姿でありながら、妖艶でどこか危険な雰囲気を醸し出していた。


「1年生には少し刺激が強いんじゃないか?せめてもっと体力のありそうな子にすればいいのに。」


「あら、少しだけだもの。このくらいじゃ貧血にもならないわ。それに若くて綺麗な女の子の方がこちらも気分が良いじゃない。」


「妬いちゃうなぁ。僕の血でよければいくらでもあげるのに。」


「あなたのなんて飲んだら私の身体きっとおかしくなってしまうわ。人間以外の血なんてごめんよ。」


「それは残念。新世界を魅せてあげるのに。」


「なんと恐ろしい。想像したくもないわ。」

とわざと身体を震わせてみたシルファはベッドから降りると、ベッドの脇に立つ彼女を見下ろす男の身体に腕を絡め、愛しい恋人の瞳をみつめながら囁いた。


「いつかは貴方のところまで堕ちてあげるわ。だからもう少し待って頂戴、アリア。」


アリアはその赤い瞳を細め、天使のような笑みでシルファの抱擁を返しながら愛らしい恋人の赤い唇に羽のようなキスを落とす。


「あぁ、楽しみにしてるよ。早く堕ちておいで、シルファ。」

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