魔導師は疑われる
ギルドには30分も歩いてると到着した。開けっ放しの入り口からギルドに入るとさっきクエストを受けた受付の人がまだいる。あそこで報告しよう、少しでも知ってる人の方が対応もしやすいしな。
「クエスト完了の報告はここでいいのか?」
「ええ、合ってますよ。ってもしかしてあなたオーク討伐のクエストを受けた方じゃない?」
「ああ、そうだクエストを完了した」
俺はクエスト依頼書とステータスカード、討伐証明のオークの牙を渡す。
ステータスカードは自分のステータスを確認できるだけでなく、自分の身分を証明したり、自分がどんなクエストをクリアしてきたかなどの経歴などを見ることができるというなかなか万能なものだ。
「あなた、レベル1の魔導師がオーク討伐に行ったってギルドで話題になってるわよ」
受付がステータスカードにクエストクリアの情報を入力したり、報酬の準備をしながら器用に話す。
おそらく無謀野郎の魔導師が1人でオークを狩りに行ったとかの噂だろう。
「はい、これが報酬の10000zよ
相当苦戦したと思うけど、これに反省したら今度はパーティを組んでクエスト受けてね」
彼女は優しさから言ったのだとは思うが少しイラッとした。彼女は俺がオークを3体だけでなく100体以上を狩ったと知ったらどんな顔をするのだろう。少しイタズラをしてみたくなる。
「ここは素材の買取もやってるのか?」
「もちろん!素材の買取とクエストの受注はギルド経営の2大事業ですからね、それで、ユータさんは何の素材の買取をご希望で、ゴブリンの耳?それともリザードの尻尾?」
「オークの素材なんだが」
「あーはいはい、このクエストのオークの素材ですね」
彼女はオーク3体の討伐のクエスト依頼書をヒラヒラさせて言う
よし、勘違いしてくれてる俺が売ろうとしてるのは3体のオークの素材と思ってるようだ
「ああ、これなんだが」
ストレージから大量の素材をカウンターの上に出す。カウンターの上には収まり切らなくて床にも置かないといけないほどだった
採取してる時は気づかなかったがかなり数が多い、オークの牙は軽いがオークの皮はかなり重いので重量にすると合計100キロほどだろうか
「こ、こんなに!しかも虚空倉庫を持ってるなんて!」
受付が驚いて絶句している。いい表情だ。それにストレージはこの世界ではかなり貴重なものだったようだな、すっかりゲーム感覚で使ってしまった。
イラつきが消えたところで素材の買取をしてもらうか。
「あのー素材の買取お願いします」
「あっ、はい、この量だと時間がかかるので少々あそこの酒場で何か食べたりして待っていてください」
酒場では報酬の10000zを使って果実水を飲んだ、流石に女の子と会う前にアルコールを飲むのはないしな、しばらく喉の渇きを潤していると後ろから肩を叩かれる
「ユータさん、ギルドマスターがお呼びです」
「わかったすぐ行く」
流石にやりすぎたか、おそらくこの大量のオークをどう狩ったか追求されるのだろう、レベル1の魔導師が1人でオークを100体狩るなんて異常事態のはずだ。もしかしたら俺が金持ちのボンボンでこの素材は誰かに取ってきて貰ったと勘違いされてるかもしれない
この建物で1番高い位置にあるギルドマスターの部屋に階段を上って行く
「すまないが、虚空倉庫のことは誰にも言わないでほしい」
ストレージとかいう収納数無限の持ち運び可能な倉庫があると知られたら注目を浴びるに違いない。
大商人とかに目をつけられて必死に勧誘されたりしたらめんどくさいに決まってる。
「もちろんです。冒険者とギルドは信頼関係にないと成り立りたちません」
プロっぽい言葉だなと感嘆するがこの方プロだったな
3階にたどり着くと窓からドスタの街が一望できる、ゲームではギルドマスターの部屋になんて入れないし、こんな視点はなかったからこれははじめての光景だ。ゲームでは感じることのできない風や匂いが五感に伝わって感動してしまった
「ユータさんギルドマスターの部屋に入りますよ」
おっと、つい景色に見とれてしまいぼーっとしてたな
「ギルドマスター、ユータさんを連れてきました、私はここで失礼します」
「分かった、入ってくれ」
待ち構えていたかのようにすぐに返事が返ってくる
「しつれいしまーす」
「お前がユータかオークを1人で100体狩ったという割には貧弱な体だな、ガハハハハ、わしはドスタのギルドマスターをやってるギリーだ」
白髪で年をとっているが服の上からでもかなりの筋肉が付いているのがわかる。昔は冒険者だったのだろう
「そうですね、私は魔導師なので」
当たり前だ魔導師が筋肉をつけて役に立つのか?
「やっぱりお前魔導師なのか謎が深まるな、お前をここに呼んだ理由なんだがどうやって100体ものオークを狩ったんだ?レベル1の魔導師が狩れるオークなんてせいぜい1体が限界だ」
予想通りの質問をされる。でもそんなこと教えられない、教えられるのは同じパーティくらいか
「それはできない、企業秘密だからな」
「うーむ残念だ案外あっさり教えてくれるのかと思ったんだかのぅ、冒険者は自分の切り札をそう簡単に教えてくれないからな。
よし取引をしよう!強さの秘密を教えてくれたら冒険者ランクを2段階上げてやろう白から2段階上がったら赤ランクだな初級冒険者から一気に中級冒険者だぞ結構魅力的だと思うがどうだ?」
ビリーが笑いながら提案してくる、当然引き受けると思っているのだろう
「だが、断る」
どこかで聞いたことあるセリフを言う。赤ランクなんて星の数が多いクエストばかり受けていればすぐ上がる色だ俺のスキルをばらすのは割に合わない
「なっ?どうしてだ」
ビリーが鳩が豆鉄砲を食らったような様子でこちらに質問する
「理由は簡単だ赤ランクなんてすぐ行けるからだ!」
俺はドヤ顔で言ってみせる
「そ、そうか、赤が簡単か。赤ランクといえば初級冒険者にとっての最初の砦で黄ランクで燻っている奴らも大勢いるんだが……ギルドマスターの俺が上げることができるのは2ランクまでだからな、こればかりは諦めるしかないな」
ギリーは悲しそうな目でこちらを見てくる。もしかしてこいつ自分の知識欲のために俺をここに呼んで、自分の知識欲のために職権濫用しようとしてなかったか、とんでもないやつだ。
「ああ、あとついでにお前が持ってきた素材の買取結果だ
オークの牙が105対、皮が52枚、爪が36個
合計79万zだな」
ギリーが小さな袋を持ってくる。中を確認すると7枚の金貨と9枚の大きな銀貨が入っていた。
この世界では金貨1枚が10万zで大銀貨1枚が1万zなのか
時計はを確認すると3時50分を指している。あと10分で約束の時間だ。俺は階段を駆け下りてカフェへと急いだ