プロローグ
「フハハハハハハハおまえを殺した後
わがもろともこの世界を滅してくれよう!フハハハハハハハおまえを殺した後
わがもろともこの世界を滅してくれよう!フハハハハハハハおまえを殺した後
わがもろともこの世界を滅してくれよう!……」
高層ビルに肩を並べるくらいの大きさの牛の頭、ライオンの体、虎の爪、そして蛇の尻尾を持つ邪神が直径2メートルほどのドス黒い血のような色をした球体型の浮遊体に変身した。
「コイツ……いつ見ても気持ち悪いな」
何回戦ったか忘れてしまったがこの球体だけは忘れることが出来ない。その球体が上下しながらこちらに近づいてくる。
邪神ラーリエントが自爆フェイズに移ったのだ。
「ねえ! なんでそれ毎回言うの!?なんで同じセリフばっか言うの!?そのフェイズが隙だらけと気づかないのかぁ!? テメェはそれでもズル賢いあいつらを束ねる邪神か!? オラァァア」
これまでの冒険のストレスを邪神にぶつける。なんせ最弱の職業である魔導師でここまで来るのは何百、いや何千回死んできたのかわからない。
長い詠唱が始まる。 詠唱中の隙が大きく普段はこんなに長い詠唱を唱えることはないが今は別だ邪神が喋ってる間は攻撃を仕掛けてくることはないのだ。
「戦隊モノの登場シーンで攻撃してるみたいだな、俺は悪者か?」
子どもの頃怪人は最大のチャンスを毎回見逃していると思ったものだ。
やっと地獄の魔導師冒険生活が終わる。そう思い俺はとどめのを刺す魔法名を口に出した
「全てを無に帰せ『ビックバン』」
この魔法は魔導師が覚えることのできる最も威力の高い魔法だ。術者を起点として半径100メートルの円の中に大爆発を起こす。
邪神の体内から白い光が漏れ出しその光とともに邪神の肉片と血が空中に拡散しフィールド上に飛び散る。
『グヴアァァァァ』
恵みの雨が降り邪神の断末魔に祝福されてるように思えた。
GAME CLEAR
目の前にゲームクリアの文字がでかでかと表示される。
自爆フェイズの邪神には強力な無属性魔法しか効かない。
邪神を最弱の職業である魔導師で倒すには、相手が話してる間に詠唱をするという半分反則行為をしなければならなかった。
「これで縛りプレイしゅーりょー」
エンディングを見ながらこれまでの冒険を思い出し、感傷にひたる。
俺は今縛りプレイをしていたが、縛りプレイヤーではない。
単純にこのゲームをやり尽くしやることがなくなったのだ。まだ見つけられてない隠し要素はあるが、このゲームの隠し要素は何も無い平野のある場所で100回連続ジャンプするとか、理不尽なものが多く探す気にならない
俺がプレイしてるゲームは全ユーザー数2000万人超の超人気VRゲームベルセルクオンライン。オープンワールド形式で、複数人でパーティを組むこともできる。
このゲーム最大の特徴は敵である魔物を使役する魔物使いや、伝説の生き物である竜に乗って戦う竜騎士など多数の職業がある所だ。プレイヤーはこの多くの職業の中から一つを選び冒険をする。
また竜を使役する者でしか行けない場所など多くの隠し要素があるのも特徴の一つで運営の発表によるとまだ半分もの要素が未発見らしい。
うわさに聞くと全パラメータが2倍になる幻の秘湯がどこかにあるとかないとか
そして俺の縛りプレイの内容は最初に選ぶことのできる職業である
剣士、格闘家、盗賊、狩人、僧侶そして最弱の職業と呼び名高い魔導師という7つの職業で
このゲームの裏ボスであり最強キャラの邪神ラーリエントをソロプレイで倒すというものだ。
最後に魔導師を残した理由は、嫌なものは後回しにしてしまうという性格だからだ。
夏休みの宿題を最終日にやったり、トランプの大富豪で3を残してしまっていつまで出せなくなったり……そいつが俺だ。
そしてなぜ魔導師が最弱の職業かというと、詠唱時間に見合わない魔法の威力である。
魔導師は約5秒間の詠唱で最高500ダメージを与えることができるが剣士などの戦士職は同じ5秒間で倍の約1000ダメージを与えることができるのだ。
また詠唱中は詠唱以外の行動をすることが出来ず、無防備を晒すことになる
つまり同じ5秒間でも戦士職は攻撃を避けたり、回復しながら1000ダメージを与えることができるのに対して、魔導師は攻撃を避けられない状況下でたった後やっと500ダメージを与えることができる。
どちらの職業が強いかなど一目瞭然なのである。
リスクを負って詠唱したダメージが戦士職が普通に攻撃をするだけで魔導師のダメージを超えるのだ。理不尽にもほどがある。
詠唱時間、詠唱中の行動不能時間、そして少ないダメージ量。これが魔導師不人気の理由でありこの縛りプレイで最も俺を悩ませたものである。
ハメプレイはもちろん、バグで特定の壁を貫通する威力の低い魔法を使い何時間もかけてボスを倒したこともあった。それを探す為にも何百回死んだことか…………
プレイヤーはもちろん強い職業を選ぶので魔導師系統の人口割合は全体の1%ほどである。
しかも選んだ人のほとんどが縛りプレイをしているか、間違えて選んでしまった初心者かだ。好き好んで魔導師になる者は多くない。まあ魔導師系統でも隠し職業であればゲーム全体で見てもトップクラスに強い職業もあるのだがその職業を取るにはとてつもなく長い道のりがあり、ゲーム内でその職業を持ってるのは俺含めて数人しかいない。まあつまり
魔導師はクソ職業だ!
二度と魔導師なんかやるか!
そんなことを思った時電話のベルの音がヘッドホンからけたたましく聞こえてくる。
スタッフロールの上に出現した緑色の通話ボタンを押すと母だった。
「もしもし、何か用でもある?スーパーにでも行ってきてほしい?」
『そんなことじゃないよ! 悠汰いつまでゲームしてるの?! ご飯できてるわよ!』
「わ、わかった、すぐ行く!」
このゲームは神経接続をしてるため外部から連絡を取るには今のように電話をゲーム機にかけるか、メッセージを送るしかない。機器を無理やり外そうものなら脳にダメージがいってしまう。
肩をたたかれても気づくことができない。
時計を見ると20時を指していた。まじか、始めたのが12時で、えーっと、8時間連続でやってたのか!
フルダイブ式のVRゲームでは2時間おきの休憩が推奨されている。ゲームのやりすぎで衰弱死してしまった人もいるくらいだ。ゲームは時間を忘れさせる。「こまめに休憩を取らないと」と思ってもつい長時間やってしまう。
「夕食を食べ終わったら朝まで別のゲームでもやるか、明日は土曜日だ!」
懲りずにそういうことを思ってしまう。ゲームの魔力は偉大だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夕食を食べ終えてプレイするゲームを変更しようとすると画面に見慣れない字体の文字が表示されている。
「なんだこれは?」
俺はこのゲームはかなりやり込んでいるが、こんな文字か出たという報告は聞いたことがない。
『初期職業での邪神討伐ソロクリアコンプリートおめでとうございます!』
なんだこれは?縛りプレイは以前にもしたがこんな表示は出なかった。
今日やり終えた縛りがたまたまゲームの設定していた隠し要素の条件に引っかかったのか?
画面の下を見ると……
『報酬として異世界転移をすることができます。』