少しでも快適に過ごしたいよね。
「はぁはぁはぁ」 今日もカインは日課のランニングを行っていた。いつもと違うのは手に腰に筒型の物をつけているのと、護衛の騎士達が一緒にランニングをしている事だった。村の朝は早いらしく、朝食前に仕事をする村人が結構いてランニングしているカイン達を横目に畑に向かって行った。
「ふぅ、今日も終了! それにしても鎧をつけたまま走るなんて騎士団は凄いね!」
カインの後から鎧をつけたまま、ランニングについて来た騎士たちに声を掛けた。
「このくらいは、何ともありませんよ」
殆ど息を乱していないウェインが代表で返答する。
「頼もしい限りだね。今日もお願いしますね」
「「はい」」と息の合った返事をする。
「さて、予想通り固まったかな?」
腰に付けていた筒を外し、少し振ってみる。筒からはバシャバシャと何か重い物が水に落ちる音がしている。蓋を開けてみると白い固形物と幾分薄くなったミルクが見える。
「よし、成功だ。後は塩を混ぜるだけだね」
騎士達に厨房に行くことを伝えて、その場から走って行く。騎士達はまだ訓練を続けるようで、また走り出していた。
厨房に着いたカインは、固形物と液体を分ける。液体は、のどが渇いていたのでカインが飲み干す。ホエーはちょっと薄めのミルクという感じで、走った後のカインにはとても美味しく感じた。固形物の方は布巾で水分を取り、塩と混ぜる。しばらく固形物を練っていると、見覚えのある物に段々なっていきバターが出来た。
今日の朝食は、焼き立てのパンと野菜のスープだった。そこに先ほど作ったバターを添えた。朝食もリディア達の部屋に用意された。
「おはようございます、リディア母さま、アリス姉さま」
「おはよう、カイン。今日も訓練をしてきたの?」
カインと挨拶を交わしながらテーブルに着いた。その後をまだ眠そうな顔のアリスも席に着く。3人とも席に着くとララが水と香茶をカップに注ぐ。
「さあ、早く食べるわよ。出発までにミルクを作ってくれる子達に会いに行かないと」
「ねぇ、カイン?この小皿に入っている黄色い物は何?」
アリスがバターの入っている小皿を指さす。
「はい、それは”バター”です。ミルクから今朝作りました。パンに塗って食べてみてください」
リディアは説明の通り、バターをフォークで取りパンに塗り食べる。それを見てアリスもまねをして食べた。
「「美味しいぃ!」」
また、ハモりながら感想を言った。まるで本当の親子みたいに息がぴったりだね。
「なに、これ? パンがいつもより数倍美味しく感じる」
「昨日のミルクの香りがしてとてもいいわ」
朝から美味しい物を食べれて笑顔の2人が見れて、今朝の疲れが吹き飛ぶカインだった。
---
「あなた達が、カインが話していたナナとトニーね。あなた達をサンローゼ家で雇います、この手紙を持ってサンローゼ領街に向かって。こちらは城門を入る時、こっちは迎えに来たランドルフに渡して。そしてこれは支度金よ。2日後に騎士団の巡回がこの村に来るから、最後の手紙を渡して護衛して貰ってね」
命令に近い勧誘だったが、ナナとトニーはサンローゼ領街に行く事を快諾してくれた。2人は定住の場所を探していたのでタイミング的にも良かったそうだ。
リディアはナナに、3通の手紙と銀貨の入った袋を渡した。
「それじゃ、トニーまた会おうね。用事がすんだらすぐに帰るからね」
カイン達は村人に見送られ、村を出発した。
馬車の旅2日目も、ガタガタと2時間おきに休憩を取りながら旅程を消化していった。特にイベントもなく本日の野営地に到着した。
「うーん、馬車の旅は変化がなく、揺れが激しく、疲れるね。ここが今夜の野営地か」
今夜の野営地は、平原のど真ん中だった。街道の横が長い年月をかけて踏み固められた様で土がむき出しの部分が広がっていた。長い間色々な人々が野営地として使った様で、いくつか石で出来た竈が放置されていた。まだ日が落ちるまで時間があるため、これからここに到着する商人達もいるかもしれないのでカイン達は端の方に馬車を止める。
水場もすこし先に川が流れているらしく、ここは野営地としてはとても良いらしい。多いと30名くらいの行商人や冒険者、旅人が一晩に滞在するとの事だ。ウェインが3名を連れて水を汲みに出かけて行き、他の護衛の騎士たちがテントを設営し始める。
カインはぼーっと設営をしている騎士を観察していたが、ある事を思いつく。
「リディア母さま、僕たちが野営する範囲を高い壁で囲ったら安心して休めますよね?作ってしまってもいいですか?」
一瞬何を言っているの?と言う顔をしたが、すぐに合点がいったのか考え込み
「アーガイル騎士団長と相談して決めるから、少し待ってて」と言った。
リディアはアーガイル騎士団長をすぐに呼び、カインの方を見て話し、周辺を見て話し結論を出したようだ。
「カイン、他に商人達が到着したら壁を作ってくれる? そうしないと突然壁があり吃驚してしまいますからね。馬車とテントを囲めるくらいの大きさでお願いできるかしら?」
ウェイン達が水くみから戻り、テント設営が終了した頃にパラパラと今夜この野営地を使う商人や旅人が集まってきた。アーガイル騎士団長が商人達に説明をしカインの所に向かって来る。
「カイン様。商人達に説明が終わりましたので、壁の作成をお願いできますでしょうか。可能であればゆっくり壁を伸ばしていただけると周りの商人達が安心すると思います」
「了解、じゃあ作るね。【ストーンウォール】」
ズズズっと少しずつ石の壁が伸びていく、説明を受けていた商人達が声を上げて吃驚しているが構わず続け最終的に5mの高さの壁を作った。壁が建つと日がさえぎられて暗くなったので、壁際に【魔法陣魔法】の【ライト】を取り出し明かりを設置していく。どうせならとカインは思い、四角い形の厚めの石壁を作り、【デリート】でコンテナハウスのような物を5棟建てた。全てを建て終わり「どうだ!」とドヤ顔をしながら皆の方に振り向くと、笑顔で固まっているリディアが立っていた。
「ごめんなさい、やりすぎました」
カインは素直に謝罪した。
ここまでお読みいただきありがとうございます。




