アンセムは鳴り響く6
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女神ムーサからの課題曲に歌詞が全部出来上がった翌日のお昼すぎ、ドラムから懇願され時間を空けた。いつもの練習場よりも少し小さめな会議室で、トレイン侯爵屋敷でも外れの方に位置する。カインはバルビッシュ達と5人で会議室に向かい、扉をノックした。
直ぐにドラムが扉を開き中へと案内される、会議室のにはもう1人ポエムがいた。カインは上座に案内されバルビッシュ達はカインの後ろに立って控える。
「カイン様、本日はお時間をいただきありがとうございます。女神様の演奏会が終わってからとも思ったのですが、王都への移動を考えるとあまり時間がないと考えまして…」
「はい、構いませんよ。僕もフローリスト王国の貴族の一員ですから。それよりも陛下はどの様な感じの“国歌”を望まれているのですか?」
「陛下からは、
1つ、国民が一致団結出来る様な歌詞にする事
2つ、前向きで、困難に負けない様な曲調にする事
3つ、子供でも覚えやすく、歌える曲にする事
の3つです…」
ドラムの説明を聞いてカインは笑顔を保ちながら心の中ではパトリック国王に向けて悪態をついていた。
『全く、何を無茶ぶりしているんだ!聞けばこの指示はスキルがかいほうされる前だって言うじゃ無いか!この世界には僕達が知っている歌が無かったのに!全く困った奴だ』
カインは何時もの自分を棚に上げて何も分かっていない上司が部下に無茶ぶりって最悪など考えながら思考ぐるぐる回していた。
「今回とても運が良く作詞については、経験ができましたしポエム様とも出会えましたので、何とかなるかもしれないのですが…曲だけは全く思いつかず…」
「歌詞はどうにかなりそうだと」説明したドラムにカインは心から関心した。そしてその根拠が隣にいるポエムの力が大きいのだろうと理解した。
「それで、僕はどの様な事を協力すれば良いのですか?楽譜などがあれば弾けますが?」
カインが要求を確認するために質問するとドラムは下を向いてしまった。それを見ていたポエムが代わりに口を開いた。
「カイン卿、何か曲のアイディアが無いかと。もっと正直に言いますと作曲をしていただけないかと思っています」
「えっ?作曲ですか?僕は【作曲】のスキルを授かっていませんけど…?」
ポエムのお願いにカインはびっくりし自身のスキルについて思わず口を滑らせる。それを聞いたドラムの表情は絶望に変わっていた。推測だがアントニ辺りに「カインは知らない曲を弾いていた」と聞いて相談にきたのだろう。
「そ、そうなのですね。【作曲】のスキルを授かってから作曲を始めたのですが、もう一つ授かった演奏のスキルが【打楽器】だったので「さくらさくら」や「女神ムーサ様を讃える歌(仮)」の様に豊な旋律にならないのです」
「“豊な曲”とはどの様な意味ですか?出来れば作曲された曲を聞かせていただきたいのですが?」
ドラムは「はい」と返事をして会議室お隅に置いていた小さな銅鑼を取り出し演奏を始めた。披露してくれた曲はなかなか面白い曲に聞こえたが、演奏に使っている楽器が銅羅なので音階が少なく、ヴァイオリンに比べると音数が少ないと感じた」
「言われた事は分かりました。でも、う〜ん困りましたね。僕が【作曲】のスキルやドラムさんが別の楽器の演奏スキルを取得するには時間がかかりそうですしね…」
カインの言葉により一層落ち込むドラム、ポエムも自身には演奏のスキルが無いので何も出来ないと落ち込んで小さな声で呟く。
「曲さえ、曲さえあれば…」
「あっ、そうか、そういう事か。ドラムさん?【作曲】のスキルを使えばアレンジが出来ますよね?」
「アレンジですか?」
「えっとぉー、この前も「女神ムーサ様を讃える歌(仮)」をソプラノとアルトに分けていたじゃ無いですか?そんな感じです」
ドラムはまだカインの真意が読めずに「それであれば…」と自信なさげに答える。カインは「やっぱり」と呟くとヴァイオリンをララに出してもらいある曲を弾き始めた。
カインが弾いた曲は日本人であれば誰でも知っているヒーロの歌だ。2/4拍子の曲なのでとても軽快なのでパトリック国王の希望にもそうだろう。
カインが曲を弾き終わるとララ達から拍手が起こる。カインはララ達に「ありがとう」とお礼を言ってドラム達を見る。2人からは何もリアクションが無かったので「ダメだった?」と思ったからだ。
そこには何故か号泣している2人がいた。ドラムなど鼻水まで垂れ流していた。カインはその姿を見て「なぜそこまで?」とちょっと引いていた。
「ガ、ガイン様。素晴らしい曲です、ありがとうございます。この曲ならすごい歌が出来そうです!本当にありがとうございます」
「それは良かった」とカインは“国歌”の見通しが付いて胸を撫で下ろした。