音楽を奏でよう10
何時もお読みいただきありがとうございます。
話し込んでいたらお昼ご飯の時間になったので全員で食堂に降りていく、お昼は宿泊客以外も食べに来ているのか夕食時より人が多かった。
2人増えて5人になったので壁際の大きな8人掛けのテーブルに案内された。カインは昨日食べたダンジョン産の肉の味をガーディとサーシャにも味わって貰いたくて肉が中心のメニューをオーダーする。
しばらくして運ばれてきたのは、昨日も食べたオーク肉のバラ肉の部分を厚めに切ったステーキとロックバードの手羽元を使ったトマト味のスープ、そしてスリーピングシープのラムチョップだった。
味付けはシンプルではあったが、生臭さが全くなくそして柔らかくいくらでも食べられる美味しさだった。サーシャもモリモリ肉を食べていたし、ガーディはララに切り分けてもらったオーク肉をフォークに3つくらい差し口いっぱいにほおばっていた。
「あー本当に美味しいわ。これなら1日くらいダンジョンに潜ってお肉を確保したいくらい」
「そうだな、このオーク肉でハンバーグを作ったらもっと美味しいだろうな。カイン様?時間があまったら潜ってみませんか?」
「ええっ?僕は良いよ、ダンジョン怖そうだし。オークとかいる階層まで行くのに結構時間が必要じゃない?」
ガーディからのふいに来た肉狩りダンジョン探索の誘いに、一瞬心が揺らいだが地球時代に遊んだテレビゲームのようなじめじめとした閉鎖空間を現実に移動すると考えると行く気が急激に無くなった。
ガーディは「それは残念です」と結構あっさり引き下がったのだがサンローゼ領に来て食いしん坊になったサーシャがしきりに行きたがり、演奏会が終わったらバルビッシュが半日だけ付き合うことを約束して大人しくなった。
昼食を堪能したカイン達はデザートのビスケットを追加注文して部屋に戻った。ララが人数分の香茶を入れ配膳が終わり香茶を一口含む、豊かな茶葉の香りが口から鼻に抜けてとてもリラックスした。
多分カインがこれから重要な話をするのをララが察して気分を落ち着かせる香茶にしてくれたのだろう。ララに目礼で感謝を伝えて話を始めた。
「明日以降に行う予定の教会での演奏会について相談というか、いや相談があります」
カインが話を始めると4人の視線がカインに集まる、ただし誰も優しく微笑んでいるので緊張はしない。カインは少しだけ間を開けて話の続きを始めた。
「演奏会では十中八九何かが起きます、“ワールドアナウンス”程ではないにしても最低“天から光が差す”などの祝福くらいは起きると僕は考えています。
もしかしたら、大げさではなく女神ムーサが降臨なんてするかもしれない」
「ひっ」
カインの話の内容にサーシャが驚き慌てて口を押えるが少し声が漏れた。サーシャ以外のメンバーも目を大きく見開き驚いているのが表情から分かった。その様子をみてカインは『相談して良かった』と確信を持つ、そして神界?での出来事をカインの出自以外を除き女神ムーサとのやり取りを覚えている限り正確に伝えた。
「…教会での演奏会は女神ムーサからの依頼で、演奏曲も指定されている。そこまで考えると何も起きないとは考えづらくて」
「カイン様のご懸念通りだと思います、女神ガーディア様もカイン様の事となると通常では絶対にされない下界干渉もされていますし…
お話いただいた内容から女神ムーサ様からもご加護(寵愛)を賜っていらっしゃいますので…」
女神ガーディア様がカインの中に降臨した時にその場に立ち会っていたララから、少し寂しそうな声色で同意がされた。女神ガーディア様が降臨された時は体への負担が大きく数日寝込んだのをララは思い出して心配しているのだとカインは考えた。
カインとしては加護の大きさが“小”だしカインの体には降臨はされないだろうとこの時はまだ軽く考えていた。
「女神ムーサ様が信託や降臨などされた場合、中心人物であるカイン様は確実に教会関係者に狙われますね…」
「ここは、トレイン侯爵様に頼ってはいかがですか?」
「でも、トレイン侯爵様は王都に出張中だったよね?」
ガーディが苦虫を潰したような表情で呟く、世界樹の森の村での出来事をここでも思い出していた。あの時も教会関係者が暴走して、カインの暴走を引き出したのだった。
バルビッシュは少し悪い顔で提案を出す、カインが斜め上に視線を移して思い出しながら呟く。
「御当主様はですが、先日懇意になられたご領主様のご子息がいらっしゃいましたよね?カイン様に大変感謝されていた」
「ええっ!ボンドさんに頼むの?でもあの人めんどくさいよ?」
「少しくらい面倒な方が扱いやすいですので…」
バルビッシュがさらに悪い顔になって呟くのでカインは背中に冷や汗が流れるのを感じた。