王都出発3
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回はまた長めです。よろしくお願いいたします。
「えー、あー、ゴホン。こちらはマギー=ラインハルトさんだ。ラインハルト伯爵家の4女で私の婚約者だ」
アーサーがマギーを兄弟達に紹介をする。シールズ辺境伯達はすでに知っていたのか“うんうん”とうなずいていた。
「皆さん、初めましてマギー=ラインハルトです。ご縁がありましてアーサー殿とこの度婚約と相成りました。どうか末永くよろしくお願いいたします。ベンジャミン殿とは王立学院で何度かご挨拶させて貰いましたが、クリス殿、アリス殿とこの移動中に仲良く出来ればと思っています。よろしくお願いいたします」
マギーが席を立ち微笑みながらゆっくりと自己紹介をする。
「「「よろしくお願いいたします」」」
ベンジャミン、クリス、アリスも同じく席を立ち挨拶をする。
「マギー殿、どうか私達兄弟は、気軽に敬称無しでお呼びください。サンローゼ家は子爵を陛下より賜っておりますが小さな領地です、家族はもちろん家人達とも距離がだいぶ近いのでどうぞ気軽にお願いします」
ベンジャミンが3人を代表してマギーにお願いをした。
「ありがとうございます、ベンジャミン殿、いえ、ベンジャミン。私も気軽にマギーとお呼びください」
「マギーさん。うーん、マギーお姉様…マギー姉さんでいいですか?」
クリスが何度かマギーの名前を呼びながら確認をする。マギーは「マギー姉さん」で良いと答えた。
「私は、マギーお姉様とお呼びさせてください。これから色々教えていただけますか?マギーお姉様?」
アリスもマギーの呼び方について質問とお願いをすると、マギーからは「もちろん」と返答が返ってきた。
アーサー、マギー、ベンジャミン、クリス、アリスが呼び方などを楽し気に話し合っていると一人だけ蚊帳の外にいたスカーレットがおもむろに挙手をする。その挙動に驚いた一同がスカーレットを見つめる。しばらくの変な間が続く。
「えーっと、団長どうぞ」
クリスが我慢が出来なくなりスカーレットに発言を促す。
「ありがとう、クリス。ご兄弟で歓談中申し訳ないのだが、私も輪に加えていただきたく。どうか私もスカーレットと呼んで貰い輪に入れていただけないだろうか?」
「「「もちろんです(わ)」」」
アーサー達の声がハモリ返答をする。それに驚き一斉に笑いが起こった。シールズ辺境伯達は優しくアーサー達を見守るのであった。
午後のお茶が終わりシールズ辺境伯達は執務に戻っていったが、アーサー達はそのまま食堂に残り夕食までの時間マギー、スカーレットを加えたサンローゼ家兄弟達は2人の馴れ初めから、アーサーの昔話まで色々な話をして親睦を深めていた。
アーサーとマギーの馴れ初めは、アーサーが試験勉強を王立学院の図書館でして歴史の課題レポートで悩んでいた所をマギーがサポートした事が始まりであった。マギーには大きな体を小さくしながら騎士課のアーサーがレポートと格闘している姿が可愛く見えたそうだ。
アーサーは当時歴史が苦手だった自分に順序立てて丁寧に何度も教えてくれるマギーの横顔に惚れたと白状した。
普段見せないアーサーの一面を知り兄弟達は揶揄いつつも大いに祝福の言葉を贈った。それを聞いていたスカーレットは『図書館は出会いの場でもあるんだなぁ』と考えながら終始笑顔で話を聞いていた。まだまだアーサーとマギーの話は尽きなかったが、夕食の時間が近づき執事からの
「そろそろ、夕食のお着替えを」と言う案内に従いそれぞれ着替えに部屋に戻った。
「はぁー、しかしアーサー兄に恋人がいたなんて気づきもしなかった…ベン兄は知っていたの?」
「うすうすはね、でも貴族同士だしいくら王立学院に通っている期間とはいえ婚約でもしていない限り公には出来ないからね」
ベンジャミンは普段は着ないよそ行きの貴族服のカフスボタンを止めながらクリスとの会話に答える。クリスも同じようによそ行きの貴族服に着替えベッドに横になっていた。
「ふーん、そうだよね。アーサー兄は嫡男だし余計か。騎士団に入ったら出会いも少なそうだしなぁ…つくづくうらやましい」
「そうなのかい?最近メキメキと学生騎士団で実力を上げているって聞いたから恋文の一つや二つ貰っていたりしないのかい?」
「ぜーんぜん、この前なんか放課後の教室に呼ばれたから期待して行ったら同室のケインに渡して欲しいと言われたんだ…」
「それは残念だったね。ちゃんとケイン君には渡したのかい?」
「もちろん、友人の幸せは嬉しいからね。あー、アーサー兄やケインにも素敵な出会いがあったというのに、俺にはないんだ…女神様は不公平だ。一体大きな体で勉強している姿のどこが可愛いんだ!あーもう剣に生きようかな??」
「ほうほう、そうかそうか、クリスは剣に生きるのかぁ…よし、サンローゼ領に戻るまでの道すがらみっちり騎士団の新人訓練をつけてやるぞ」
「あっ、アーサー兄!?いったい何時からそこに?」
クリスは突然のアーサーの返答にびっくりしベッドから飛び起き青ざめながら問いかける。
「ああ、少し前だな。ケイン君への手紙をって所だ。騎士団仕込みの稽古だから騎士団に入団希望のクリスにはちょうど良い」
アーサーは「先に行く」と言い残し食堂に向かった。
「クリスはもう少し気配を読めるようになった方がいいね。これも経験さ、頑張るように」
ベンジャミンはさわやかにクリスの改善点を言い放ち食堂に向かっていった、クリスはベッドからずれ落ち両手両ひざを床に付き10人が10人騎士団の新人訓練は地獄だという言葉を思い出していた。
絶望を引きづりながらクリスが食堂に向かうとシールズ辺境伯以外は全員席についていた。お茶会の時とは異なり四角い長テーブルが用意されていた。席順はシールズ辺境伯が上座にスカーレットとマギーが招待席に案内されていた。クリスが席に着き少しするとシールズ辺境伯が現れ静かに席に着くとメイドたちが夕食を配膳し始める。
明日の出発が早いアーサー達の為に料理が一度に運ばれる形式の夕食だった。メインは白いチーズがハンバーグの上に乗っていてとろけたチーズと一緒に食べるハンバーグは全員の目をとろけさせていた。ハンバーグを初めて食べたであろうスカーレットとマギーは上品に食べてはいるがみるみる内にハンバーグが無くなっていたので気に入ったようだった。
「お嬢さん達もハンバーグを気に入っていただけたようで良かった」
夕食が終わり食後のデザートと香茶もしくはワインを楽しんでいるときにシールズ辺境伯がスカーレットとマギーに話しかける。
「「はい、とっても美味しかったです(わ)」」
スカーレットとマギーは先ほど食べ終わったハンバーグを思い出してかほほを緩めながら返事をする。
「それは、良かった。それではこれから行かれるサンローゼ家での食事は期待していると良い。ハンバーグを広めたアーサー達の末の弟が沢山美味しい物を用意していると思うからの。そうだ、アリス。カインからの伝言じゃ、“プルプルの美味しい甘いスイーツと冷たくて甘いスイーツを御馳走するので無事に帰ってきてください”と言っておったぞ」
シールズ辺境伯が急に呼ばれて驚いていた。
「えっ、も、もうカインったら恥ずかしい。お祖父様を伝言係にするなんて。すみません」
「いいんじゃ、気にするな。今年1年カインには色々頑張ってもらったからの、おぬしたちもサンローゼ領に戻ったらねぎらってやって欲しい。
道中色々カインが頑張った結果を見ることが出来るから、カインに感想を伝えてやって欲しいのじゃ。儂等から伝えるより兄弟から伝えられた方が喜ぶじゃろうからの。頼んだぞ」
アリス達は一体何をカインは“やらかした”のかと不安にかられ目を白黒させているとそれを見たシールズ辺境伯は豪快に笑った。
翌日の朝、アーサー達はシールズ辺境伯達に見送られながら馬車に乗り込んだ。今回ランドルフとララが乗ってきたサンローゼ家の馬車とシールズ辺境伯家の馬車の2台での移動だ。アーサー達だけであればサンローゼ家の馬車だけで足りたのだが、スカーレットとマギーが今回追加になったので貸してくれたのだ。
「シールズ辺境伯、馬車と護衛騎士まで貸して頂きありがとうございます。また途中の路銀まで…戻りましたら改めて御礼に伺います」
アーサーがシールズ辺境伯に深々とおじぎをしてお礼を伝える。
「アーサーよ、堅い、堅いぞ。アリス達のように“祖父”と呼んで欲しいぞ、まあ、馬車を戻してもらえて儂等としては大助かりじゃ…」
「今なんと?」
「いや、何でもない。スカーレット嬢とマギー嬢をしっかり歓待するんじゃぞ。それでは皆、道中気を付けて帰るように」
「「「はい、ありがとうございます」」」
アーサー達はシールズ辺境伯に見送られて王都を出発した。シールズ辺境伯達はアーサー達の乗った馬車が門を出ていくまで見送ると執務室に戻った。執務室にはザインがソファーに座って待っていた。
「お孫さん達は無事に出発したかい?」
「ああ、今出発したばかりじゃ。これから2週間の旅路じゃ無事を祈るばかりじゃて」
「それじゃ、僕らも陛下の所に挨拶したら帰ろうか。料理長が今夜はホワイトトラウトの照り焼きだって言ってたから早く帰ろうね」
「陛下へ挨拶ではなく、ご報告じゃ。まったく…しかしもう馬車では移動は出来んな…」
シールズ辺境伯はザインの態度に呆れつつ、最後の言葉は独り言のように呟いた。
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