目覚め
『ありがとう』
また、あの声が聞こえる。
「カイン、カイン、しっかりして、目を覚まして」
「坊ちゃま、気を確かに」
「カインがんばれっ」
耳元で誰かを励まし、呼ぶ声が聞こえる。
段々と意識が覚醒してきた。
「ああっ、カインが目を覚ましたっ!」
「旦那様に連絡を早く!」
誰かが扉を開けて走っていく足音が聞こえる。
金髪ロングヘアーの30半ばぐらいの白人女性が俺を見ていた。
「お母さま、どうしたのですか? ここは?」
『お母さま?、なぜ俺はこの女性を「お母さま」と呼んだ?』
「ああっ……」
急にものすごい頭痛と頭に大量の情報が流れ込んできた。
頭を手で抱えながら、ベッドの上でのたうち回る
「カイン、カインしっかりして!!!」
俺は、意識が遠くなる中で自分が、サンローゼ子爵の4男、カイン=サンローゼ 5歳である事。父は、ルーク=サンローゼ 42歳、母は第2夫人で、リノール=サンローゼ 28歳 この女性は、第1夫人でリディア=サンローゼ 44歳などを思い出しながらまた意識を失った。
それから、体調が回復しないまま2週間が過ぎた。
あの日俺は階段から落ち、死にかけたらしい。目を覚ました俺は、カインとしての5歳までの記憶を思い出していた。その中で母親のリノール=サンローゼは病で1年前に亡くなっている事を再認識し悲しくて泣いた。そして、息を引き取る直前に母親のリノールから何かを貰った事も思い出した。しかし、あれは何だったのか?未だに分からない。
ちなみに、第1夫人のリディアは母リノール亡き後、俺を本当の子供のように育ててくれている。後から聞いた話では、産後体調が回復しなかった、母リノールの代わり俺に母乳を飲ませてくれ育ててくれたらしい。小さすぎて記憶がなかった。カインは、本当の母親の様に慕っている。
「リディア母さま、もう一人で食べられますから」
「まだ、全快していないのですから、駄目です。大人しくしていなさい」
有無を言わさない笑顔で、パン粥をスプーンで食べさせてくる。道雄としては、アーンは大分恥ずかしかったが、大人しく食べた。
「しかし、カインは目が覚めてから少し、性格が大人しくなりましたね。もう少し甘えん坊だったのに?」
「そっ、そうですか?」
やばい、道雄の記憶があるからよそよそしかったか?
「母さま〜」
俺は、とっさに、ごまかすためリディア母さまに抱き付いた。ぽよんっ!想像以上に胸部装甲があった。役得だけど恥ずかしい(汗)
「あらあら、甘えんぼさんねぇ〜」
リディア母さまは、やさしく抱きしめてくれた。
そんな事をしていると、部屋のドアが開き金髪の8歳くらいの女の子が顔を出す。「リディアお母様、もう入ってもいいですか?」
「アリス、ノックをして返事があってからドアを開けなさい。何時も言ってるでしょう。まあ今日は、しょうがないですね。入ってらっしゃい」
そうすると、女の子がベッドに近づいてくる。
「カイン、大丈夫?おねえちゃんが熱がないか見てあげる あれ?」
アリスはベッドに上がり込み、手のひらで熱を測ろうとする。子供の体温なのでアリスの方が高いらしく逆にカインの体温が低く感じて不思議な顔をしている。
カインには、3人の兄と1人の姉がいる。兄達は、リディアの子供で、3歳年上のアリスとカインは、リノールの子供だった。リノール亡き後は、リディアが全員を分け隔てなく育てている。
「アリス姉さまの手、冷たくて気持ちぃ〜」
俺が子供らしい感想を言うとアリスは、嬉しそうな顔をして笑った。
「お前達、いつまでもそうしているとカインが休めないだろう」
と言いながら扉を開けて一人の男性が部屋に入ってきた。