魔力操作習得4 ~循環~
「はい、頑張ります」
カインは、元気に返事をした。しかし、これが心をすり減らす辛い訓練の始まりだった。
訓練開始から、3日が過ぎた。この3日間、朝食の後1時間”集中”の訓練をして1時間休息、また1時間の訓練を繰り返した。道雄の記憶があるが、5歳児の身体にはこの訓練は厳しすぎるようだ。考えてみてほしい。5歳児に1時間ジッと立っている事はまずできないだろう。それを道雄から合わせて40歳の精神力を使って無理やり行っている為、身体的にも精神的にも厳しい訓練であった。
『やった、漸く両手の下に魔力を集める事が出来た。集中を切らしても拡散しない』
「ベン兄さま、出来ました」
疲労で倒れそうになりながら、カインはベンジャミンに言った。
ベンジャミンは、カインをしばらくじっと見つめ。
「うん、出来ているね。合格だ。ゆっくり集めた魔力を開放して」
カインは、握りしめていた拳を一指ずつ外すように魔力を開放していく。
”ドタッ” 魔力を開放してカインは倒れた。
「カイン!」
ベンジャミンが倒れたカインに走り寄り抱き上げる。
スースースー、やり遂げた表情でカインは眠っていた。
「ビックリさせないで。久々に焦ったよ。3日で”集中”をクリアするとは、自分の弟の才能が怖いな」
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「あれ、ここは? また、倒れちゃったのか」
カインは、目覚める度に見るこの天井に少し飽きてきていた。
”トントントン” 部屋の扉がノックされる。
「カイン、起きているかい?」
ベンジャミンの声が聞こえた。
「ベン兄さま、どうぞ」
カインが返事をすると、ベンジャミンが部屋に入って来た。
「さぁ、次の訓練を始めるか。早く起きてご飯を食べておいで」
『えっ、身体ガチガチなんだけど、休みたい...』
「それとも、今日はやめるかい? 私はどちらでもいいけど、私がいる間に”魔力操作”が出来るようにならないと魔法を使っちゃだめだから、1年くらい使えないけどいいのかな?」
ベンジャミンは、口元に笑みを浮かべながらつぶやく。
「すぐに、用意します。少しお待ちください」
カインは、ベッドから飛び起き食堂に走っていた。
~ベンジャミンの部屋~
「さて、今日からは”循環”の訓練を行う。まず、昨日まで行っていた”集中”をしてみて」
ベンジャミンは、カインを自分の前に立たせ言う。
「はい」カインは、両手をおへその下に重ね”集中”を行う。
『おっ、かなりスムーズに出来るようになった』
「うん、いいね。それじゃ集めた”魔力”を胸まで移動させてみて。ゆっくり胸まで浮かび上がるイメージで」
ベンジャミンは、カインをまたジッと見つめながら指示を出す。
『よしっ、ゆっくり浮かぶようにだな。上がれ、上がれ、あれ、ぜ、全然動かない』
カインは、懸命に集めた”魔力”を動くようにイメージし続ける。10分も頑張ったが一向に動く気配がない。その内集めていた”魔力”が拡散した。
カインは、ハァハァと口で息をしながら息を整え。
「もう一度やります」
と”集中”を始めようとした。
「待って、やっぱりいきなりは難しいみたいだね。少し手伝うよ」
そう言いながら、手のひらをカインのお腹に当てた。
「もう一度、”集中”をしてみて」
カインは、言われた通りに再度”集中”を始める。
「少し、痛いと思うけど我慢だよ」
ベンジャミンがそう言うと、集めた魔力がボール状に纏まるのが分かる。そして少しずつ胸に向かって移動を始めた。ボール状になった魔力が動き始めると激痛が走る。
「痛い‼」
カインは、ベンジャミンを思いっきり突き飛ばした。しかし、ベンジャミンはビクともせず魔力を動かし続けて、「痛い、痛い」と言い続けるのを無視して胸まで移動させた後、再度お腹の位置に魔力を戻した。
「ふー、よく頑張ったね。これが、”循環”だ。これを下腹→胸→頭→胸→左手→右手→右足→左足→下腹と動かせるようになったら合格だ」
涙と鼻水だらけの、カインの顔を拭いてくれた。
「ばぁい」
ベンジャミンは鬼だとカインは思った。




