夫婦の日
皆様、大変ご無沙汰しております。更新が止まってしまい申し訳ございません。活動報告にて告知させて頂きましたが、この度 サーガフォレストレーベルより書籍化される事になりました。8月12日発売になります。よろしくお願いいたします。
「リディア母さま、おはようございます。今日もいい天気ですね」
カインが毎朝の訓練を終えて身体を清め、食堂に向かうとリディアが1人食卓に着いていた。
「…」
リディアは食前の香茶のカップを手で包みぼーっとしている。
「リディア母さま?」
「えっ? ああ、カイン、おはよう…。ごめんなさい、ちょっと考え事をしていたわ」
アリスが出発してから、度々こんな様子のリディアを良く見かける。2人はいつも一緒に何かをしていたので寂しくてしようがないのかもしれない。
朝食が始まっても、手を止めてため息を吐いたり、空席のアリスの席に向けて何かを話しかけようとして、いないのに気付き俯いたりと、アリスロスはかなり重症そうだった。普段のリディアに戻るまでもう少しかかるかもとカインは考えていた。
カインは朝食中のリディアを思い出し、何か元気づける事は出来ないかと考えながら自室に向かっていると、ため息を吐きながら歩いて来るルークに出会った。
「お父さま、おはようございます。ため息なんてどうされました?」
カインがルークに朝の挨拶をするが、ルークは何も答えず考え事をしているのかカインにぶつかりそうになる。
「お父さまっ!」
「おおっ、すまん。カインか?考え事をしていた。怪我はないか?」
ぶつかる寸前でカインに気付き立ち止まり、ぶつかっていない事も分からない様子でカインの身体を触り怪我が無いか確認してきた。
「大丈夫です。ぶつかる前にお父さまが止まっていただいたので。それよりもどうされたのです?悩み事ですか?何か執務でお困りですか?ランドルフはまだ戻るまでに時間がかかりそうですし、困りましたね」
カインがルークの悩みについて考え始める。
「いや、執務は順調だ。ランドルフがいない間の執務を前倒しで処理したからな」
ふんすっと胸を張ってドヤ顔をしながら、執務は問題ないと主張してきた。筋肉質のルークが胸を張るとひんやりとしていた空気が少し暑苦しくなってくるのは気のせいだろうか。
「それよりも、今年も夫婦の日が近付いて来た。毎年アリスに相談して、それとなくリディアの欲しい物を聞き出していたのだが…出発のごたごたで忘れていたのだ…」
「そ、それは、ヤバいですね」
この国では冬の終わりのこの時期に、無事に冬を乗り越えられたことを祝う日がある。雪の降らないサンローゼ領でも冬越しの準備を怠ると簡単に凍死したり、餓死したりする。例年少なくない数の領民が命を落とす。
厳しい冬を越すために、夫婦は協力して準備し冬の間も互いに気遣いながら家族を守っていくのだ。始まりは定かではないが、冬の終わりとされる日に、夫は妻に冬の間の手仕事で作った物をプレゼントし感謝を伝え、妻は冬の保存食を使用しての料理を振る舞う日となった。
近年では、普通にお互いの欲しい物をプレゼントし合うと変わりつつあるが、お祝いをする事は変わらず。ちなみに、夫がこの日を忘れる事が巷では良く起きる。結果、最悪離婚を言い渡されたり、しばらく相手にしてもらえないなどの事が起きるらしい。
「カイン、何か良いアイディアはないか?頼む、力を貸してくれ」
ルークは、小さなカインの両肩をがっしりと掴み懇願してくる。
「痛いです、父さま。分かりましたから、協力しますから少し力を緩めて下さい」
「す、すまん。じゃあ、頼んだぞ‼」
ルークは爽やかな笑みを浮かべ足早にその場を去って行った。
『まだ解決していないのにそんなに安心しきっているけど大丈夫かな?でも失敗は許されないね。リディア母さまを元気づけたかったし丁度良いかも』
カインは、ルークを見送った後何が良いか考えながら書庫へ向かった。
「うーん、普通女性への贈り物ってなんだろうな?宝飾品?衣服?花束? どれも時間がかかるよね。そうするとスイーツかな?でもこの冬の時期だと新鮮な果物はないと思うしなぁ?焼き菓子かな?」
どんなスイーツが良いかとぶつぶつ呟きながら書庫の机の上に”勇者様の書”を広げスイーツのレシピが書いてある章を開いた。
「さてさて、リディア母さまが喜びそうなスイーツはあるかな?カステラとクレープは作ったよね。やっぱり記念日の王道といったらあれかな?」
パラパラとページをめくり目当てのレシピを探す。なかなか見つからずレシピの章が終わりに近付いたとき漸く見つかった。
「『スポンジケーキの作り方』、そうそうこれだよ。やっぱり甘いホイップクリームをのせてショートケーキが王道だよね!」
カインは、レシピを木板に書き写し厨房に向かった。
「ロイド料理長は、相談に乗ってくれるかな? 昼食前だけどアリス姉さんもランドルフ達もいないから人数が減っているし、そんなに忙しくないと思うけど大丈夫かな?忙しい時のロイド料理長怖いんだよねぇ」
厨房に近付くとなにやら甘い良い匂いがして来た。
『あれ?なんか甘い匂いがしてきたな?なにを作ってるんだろう?』
「ロイド料理長いますか?」
厨房の扉を開けながらロイド料理長を探した。
本日もう一話アップの予定です。




