第6話 桃太郎の猿も木から落ちる
「トリックスターは落ちませんよーだ」
「へへっ、そうくると思ったよーう。……あれっ、あれあれあれれあれれあれれっ?」
今回もまた、冒頭からかっさらってゆくヘルメス神でありましたが……、どうやら様子がおかしいようです。
「どうした、アルゴス殺し。お前らしくもない」
「うん、だろうね。だって……、剣がないんだもーんっ」
ん? それってもしかして……。
「その通り。桃の実に入れちゃったからだよう」
「そうかそうか、かわいそうにって、んなこと知るかーっ」
「おげえーっ……」
なんとヘルメス、クジャクアルゴスの一撃により、遥か彼方へと吹き飛ばされてしまいました。
「ヘルメっちーっ」
「飛ばしすぎちまったな」
さて、オリュンポス山のヘラの館では、ヘラとその息子ヘファイストスが、こんなやり取りをしておりました。
「まったくヘファイストス、あなたはどっちの味方なのよ」
「母上の味方に決まってまさあ」
「だとしたら、止めることはできないの? あの、ヘルメス・ポータル・サテライトっていうの」
「ヘファイストス・ポスティング・システム」
「そう、それ」
「いんや、できないこともねえですが、その……、さすがオイラの開発した機器だなーって具合に浸ってたもんでねえ」
「フッ。あなたの天才ぶりなんて、わかりきったことじゃないの」
「でも、却って良かったでしょう、アルゴスに報復のチャンスを与えてやれたんですから」
「まあ、それもそうね」
「オイラのHHFも試せたし」
「何よそれ、エッチなヘラ・ファンタスティックの略?」
「あ、そういや母上もHなんだ」
「いやあねえ」
HHFというのは、ヘファイストス式送風兵器の略で、ヘルメスとペルセウスはこの兵器によって、地上へと突き落とされたのでありました。
「ともかく、オイラは母上のお味方ですぜい。表面上は母上の言うことをきいているアテナ女神、そのアテナ女神に表面上追従しつつも、このヘファイストスの誠の心は、母上以外の何者のものでもありませんて」
「そう。ならいいけど。もうじきアルゴスが帰ってくるわ、ヘルメスへの復讐を果たして、アテナの陰謀を打ち砕いてね」
「うう、痛いよう。……ここは……?」
「目が覚めたのね」
気を失ったヘルメスが横になっていたのは、美の女神アフロディテの膝の上でした。
「はっ、ペルセウスは……?」
「さあ、私の知ったことじゃないわ。アテナがどうにかしてるでしょう」
「でも、あの女神は忙しいって」
「どうかしらね」
「ヘルメス、安心して。今はアレスはいないから」
アレスというのは残忍な戦争の神で、アフロディテの愛人の一人でもある神様でございました。
「ダメよ、ヘルメス。あなたを逃したら、ヘラ女神に怒られちゃう。安心しておやすみなさい、ペルセウスのことは、アテナがどうにかしてるでしょう」
アフロディテの言葉の真意はともかく、結果としてこれは、真実だったのでありました。
「コンチキショウ、せっかく私が黄金の盾を貸してやったのに」
知恵のアテナは、ペルセウスの頭に悪知恵を吹き込んでやりました。
「まあ、こんなんでうまくいくでしょう」
「ねえ、クジャクさん」
「ああ?」
「僕は決めたよ。クジャクさんに味方して、一緒にヘルメっちをやっつける」
「おう、そうかって、なんでやねんっ」
「前々から嫌な奴だなあって思ってたんだよ、あいつのこと」
「……」
「あいつが飛んでいったのって、西の果てでしょう。クジャクさんが追っかけていくのなら、僕も背中に乗せてってよ。お団子、あげるからさ」
こう言ってペルセウスは、アンドロメダ手製のお団子が二個残っているのを確認すると、そのうち一個を半分に割ってアルゴスへと差し出しました。
哀れアルゴス、後に主から毒液責めのオシオキを受けるとも知らず、
「ありがとう、ペルセウス」
「へへっ、お伴します」
まんまとペルセウスの、いいえ、アテナ女神の策略に嵌められてしまったのでございました。
さて次回、ええと、これは……、まあ、それなりの方向へ、お話は進んでまいりましょう。お楽しみに。
「しくしく、誰が猿なんだよーう……、予想通りって言うなよーう……」