表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/22

第5話 ようやく冒険開始です

「♪大空けるヘルメース〜……。あー、お歌がうまかった頃が懐かしいなーあ。お歌の才能は、昔、アポロンにあげちゃったんだよう」





(今回はまた、拡大スペシャルです。)


「ふむふむ、僕のヘルメス・ポスティング・システムによると、どうやら桃の実は、ドンブラコッコ、スッコッコといいながら、もとの場所へと戻っていったらしいね」



 前書き・後書きのみならず、第4話の本文冒頭までもかっさらっていったヘルメスは、得意になって今回もまた、冒頭をかっさらってゆくのでありました。



「え、ヘルメっち、もとの場所って?」

「あー、言ってなかったかあ。内緒だよ、あれは黄昏系女子ヘスペリデスの園特産の桃で、ヘラ女神の持ち物なんだ」

「ヘスペリデス?」

「そう。黄昏系女子ヘスペリデスの園」



 黄昏系女子ヘスペリデスの園というのは、世界の西の果て、海の彼方にあるという楽園で、そこにはヘラ女神の桃の木があるのでした。

 女神はこの木をたいそう大事にしており、アテナがオリーブの実をくれたときにさえ、お返しに桃の実を差し出すことは決してありませんでした。


 そして、黄昏系女子ヘスペリデスというのは、この園に住まう三人のニュンフェのことなのですが、あるときゼウスがこの三人をそそのかし、ヘラの桃の実を取って来させたことがあったため、ヘラはラドンという名の竜を番人としておき、可愛らしいニュンフェの近づかないようにしたのでございました。


「ちなみに、黄昏系女子ヘスペリデスの園の先端でお空を支えているのが、僕のおっさんのパパ、つまり、おじいちゃんなんだ」


 天球を支えているアトラスしんは、昔ゼウスに対抗して敗れた巨神族ティタン一神いっしんで、世界の果てで天球を支えるという罰を受けているのでありました。



「ともかく僕は、ヘラ女神から拝借した桃を段ボール箱の代わりにしたってわけなんだけど、どうやらそれがまずかったらしいね」

「その……、拝借ってもしかしてーー」

「その通り。僕にかかれば朝飯前だよ。じゃあ、早速行こっか。僕の背中に乗っかって」



 物分かりの良いペルセウスは、コクリとひとつうなずくと、ヘルメスの背中にぶさりました。


「いっくよーう」






  大空けるヘルメース 羽の帽子ぼうしとサンダルで

  背中に負ぶさるペルセウス 桃を目指してひとっ飛び

  ララララララララ ルララララ

  ルララルルルララ レラルレラ〜、レロ〜


「レディースエーンジェントルメーン、お空の旅はどうですかーあ?」

「サイッコウだよ。へっへーい」


  大空翔けるヘルメース 羽の帽子と ーー

  ーー さるペ…… ーーとっとっとびーい……



  ……ヘル……ち……、ってる場合……ないって……


  あーれーえ……






 二人は突風に巻き込まれ、地面へと真っ逆さま。

 ヘルメスが先に地面へ落ち、ペルセウスがその上へ落っこちたから良かったものの、人間のペルセウスが先であれば、彼の命はありませんでした。


「ふーう、危なかったー。もしもそんなことになったら、あの乱暴アールしてい女神に食われちまうところだったよう」



 次の瞬間ーー。



「ぐひょえ……」



 ヘルメスは、空から投げ落とされた黄金の盾の下敷きになっていたのでありました。


「ヘルメっち、これはもしや、アテナ女神の?」

「……そ……らし……ね……」






「あのー……」

「うわ、誰かいるっ」


 声を聴いてペルセウスが顔を上げますと、目の前に、巨大な尾羽おばねを持った鳥が立っておりました。


「気づくの遅いわっ」

「これは失礼、クジャクさん」



「君はもしかして……、アルゴス?」


 早くも起きあがっていたヘルメスが、クジャクに言いました。



「よくわかったな、アルゴス殺しアルゲイフォンテス、ヘルメスさんよ」

「お久しぶり。元気してたあ?」



 その昔、ヘルメスはアルゴスという名の怪物を殺したことがございました。


 このアルゴスというのは、ペルセウスの抜け出してきたアルゴス王国のことではなく、たまたま同じ名前を持った怪物なのでしたが、これはヘラの育てた巨大な怪物で、身体中たくさんの目玉で覆われており、とても恐ろしいなりをしていたのでした。


 ところがあるとき、いたずら好きのヘルメスしんがこの怪物にちょっかいを出そうと企んで、頭の上から毒液どくえきをふりかけたところ、怒った怪物が思いのほか激しく襲いかかってきたもので、慌てたヘルメスは剣を取り、ついつい殺してしまったのでした。



「あのときは災難だったね」

「ああ災難だったよ、ってテメエっ」

「ところで、どうしたのさ、そのコスプレ?」



 アルゴスを可愛がっていたヘラは、ゼウスにヘルメスの悪行を訴えましたが、むしろゼウスはこれを笑ってゆるし、「人間の家畜を監禁していた悪い怪物を退治した」という根も葉もない武勇伝をこしらえることまでしてくれたのでございました。


「いやあね、これにはもちろん裏があってね、実は僕、このとき美の女神のアフロディテとよろしくやっていたものだから、りなしを頼んだんだよ。ヘラ女神に肩入れしていたアテナ女神はこのことに気づいてたみたいだったけど、僕の有能さにれ込んじゃったこともあって、黙っていてくれたんだ」



 後にヘルメス神は、このことを得意げにペルセウスに話したのでした。




「おう。そろそろハロウィーンだからコステューム・プレイを、ってちげえよっ」

「うん、だろうね」



 実はこの怪物、ヘルメス神に殺された後、悲しみ嘆くヘラ女神がその目玉をひとつひとつ切り取って、クジャクの尾羽にくっつけたのでございました。すると、麗しい目玉模様を与えられたそのクジャクは、死んだはずのアルゴスの心を引き継いで、女神に忠誠を誓ったのでした。



「へーえ、それは良かったね」

「おう、良かったよ。なにせ、ようやくにっくきアルゴス殺しアルゲイフォンテスを叩きのめすチャンスが巡ってきたんだからなあっ」



 そう言ってアルゴスは、ヘルメス向かって襲いかかってゆきました。


「へへっ、そうくると思ったよーう」






 さて次回、アルゴス(怪鳥フォルム)・ヴァーサス・アルゲイフォンテス・ヘルメス、お楽しみに。





「次回、あんまり期待しないでね。僕にかかれば、きっと瞬殺だろうから。あはは」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ