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49. 舞い散る紙片

 住宅街のとある一戸建ての部屋で、異変はおきていた。

 何もない空間から、はらりはらりと小さな紙片が舞い降りていた。

 部屋にしかれたオレンジ色のカーペットの上に音もなく着地したソレを、小さな手が拾いあげた。

 部屋の主である少女は、拾った紙をみて困惑した表情を浮かべていた。


「うーん、またか。ほんと、なんなんだろう?」


 少女は拾った紙をゴミ箱に投げ込もうとしたところで動きを止め、何かを思いついたようにポケットに押し込んだ。



 朝の4年2組の教室では、登校してきた生徒たちの声であふれていた。

 もうすぐやってくるクリスマスのことでどんなプレゼントをサンタにお願いしたのかを話すものや、気の早いものは正月にもらえるお年玉のことを話題にしているものもいた。

 そんな中で、貝塚が一枚のよれよれの紙を高坂に見せていた。


「これがこの前話してた謎の紙なんだけどさ」


「しわくちゃじゃないの」


 高坂が紙を手にとってあまり興味がない様子でながめていた。


「それは気にしないで、わたしが丸めて持ってきたせいだから。それよりも、見てほしいのはそこの紙に書かれた文字っぽいやつだよ」


 高坂がしわを伸ばすと、紙の上には見たことのない文字のような模様が書かれていた。


「高坂って塾で英語もならってるんだよね。読めたりしない?」


「いや、これアルファベットじゃないし、ただの落書きじゃないの」


「そっかー、うーん、なんか意味ありげなんだけどなぁ」


 貝塚があきらめきれない様子で紙をかざしてながめていると、いつのまにか横にいたユキが声をかけてきた。


「貝塚様、それを少々見せていただけないでしょうか」


「ん? うん、いいよ」


 ぽんと手渡された紙片をユキはじっと見つめていた。


「そんなに見たってしょうがないでしょ。どうせ意味のあることなんて書かれてないわよ」


「でも、都築さんって海外にいたんだから、もしかしたら読めたりするかもよ」


 呆れた顔をする高坂と期待のまなざしを向ける貝塚に向けて、ユキがぽつりとつぶやいた。


「……もうすぐ行く。クレアより」


「え?」


「この紙にはそう書かれています」


「あんた、それ読めるの?」


 突然ユキが口にした言葉に貝塚と高坂は驚いた顔をしていた。


「はい、これはわたくしの国の言葉です」


「ほえ~、そうなんだ。でも、それってどういう意味なんだろ」


「知らないわよ、ていうかクレアって誰よ」


 首をひねる貝塚と高坂を尻目に、ユキはひとり考え込んでいた。


「貝塚様、これをいただいてもよろしいでしょうか?」


「別にいいけど、どうするの、それ?」


「特に何かに使うというわけではないのですが、もしかしたらと思いまして」


 ユキの答えに二人は首をひねったが、まあいいかと流すことにした。


 

 貝塚が学校で授業を受けている頃、部屋の中では異変は進行していた。

 はらりはらりと紙片はつぎつぎと現れては宙に舞い、部屋には大量の紙片が床を埋め尽くすほどのあふれていた。


 そして、紙の山の中央に唐突におおきなものが現れて、床の上にドシンと落下した。


「いったた……、転送は成功したのか?」


 紙の山にまみれながら、若い女がうちつけた腰をさすっていた。

 女は黒いローブ姿で、頭にはフードをかぶっていた。しかし、フードは奇妙な盛り上がりを見せ、輪郭が通常の人間とは異なっていた。


「ふむ、ここは民家か? 住人に見つからないうちに出るとしようか」 


 部屋の中をキョロキョロと見回すと、あたりに散らばった紙の山を踏みしめながら窓に近づいた。

 そして、窓枠に足をかけると2階の高さにも構わず飛び出した。そのまま軽やかに着地すると走り出し、道の先に姿を消していった。



 授業が終わり、貝塚が帰ってきた。


「ただいま~」


 階段を上り自分の部屋のドアを開けた。


 目に入ってくるのは紙、紙、紙の山。


「……」


 立ち尽くす貝塚、そしてその口から出たのは


「なんじゃこりゃあ~~~!!」


 その声を聞いた貝塚の母親が部屋の様子を見に来た。


「なに散らかしてるの。さっさと片付けなさい」


「いや、これわたしのせいじゃ……」


「いいから、夜までに片付けなかったらごはん抜きだからね」


 その後、理不尽だとつぶやきながらゴミ袋に紙を詰め込む貝塚の姿があった。

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