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41. 林間学校・三日目 寄り添う二人

 林間学校3日目、朝食をすませた生徒たちは最後の仕事として宿泊所の掃除をしていた。

 他の生徒たちに混じって黙々と掃除を続けるユキを、高坂が横目でチラリと見てはすぐに目線をはずすということを続けていた。

 そこに横でふざけていた男子がぶつかってきた。


「ちょっと、なにすんのよ!! ちゃんと掃除しなさいよ!!」


「うわっ、高坂が怒ったぞ。にげろ~」


 高坂が怒鳴ると、男子は一目散に逃げていった。

 そして、また高坂がユキのほうに目を向けると、昨日行方不明になった健二を含めた男子たちがユキと話してかけていた。


「昨日はありがとな、探しにきてくれて」


「びっくりしたよ、急に道の先から都築がでてきたときは」


「捜索の方たちの元につれていっただけですから、お気になさらずに」


 男子たちと話しているユキを見て、またも話しかける機会を逃したと知った高坂はイラ立ちをぶつけるように、力をいれて掃除を始めた。


「ああっ、もう!!」


 その様子を見ていた貝塚が話しかけた。


「高坂~、もしかして都築さんとなにか話したいとか?」


「……別に、なにもないよ」


「ふうん。あ~、そうだ。わたしまたバスで車酔いするといけないから都築さんと席交代してもらっておくね~」


 貝塚は意味ありげな視線をおくり、高坂は口元をもごもごとさせたあと、『わかった』とだけ返事をした。


 午前10時過ぎ、生徒たちは荷物をもって広場の前に整列していた。


「ありがとうございました~」


 生徒たちは、口をそろえて管理人の飯島にお礼をいうと、飯島は笑顔で生徒たちを見送った。

 全員が乗り終えバスが出発すると、3日ぶりに帰る家のことを考えて生徒たちはそわそわしていた。


 しかし、しばらくすると疲れがでたのか、大半の生徒がバスのシートの上で寝ていた。

 そんな中で、高坂は周りのクラスメイトたちが寝息をたてているのを確認すると、隣に座るユキに小声で話しかけた。


「ねえ、ちょっと」


「はい、いかがいたしましたか?」


「あの、昨日のことなんだけどさ……。その、あ、あ、ありがとう」


 高坂は言いにくそうにつっかえながらなんとか礼を口にした。


「お役にたてて幸いでございます」


 ようやく伝えたかったことが言えた高坂は胸の使えがとれて、すっきりした顔をしていた。


「そういえば、林間学校に行くときあんたなにか目標があるっていってたけど、それは達成できたの?」


「いいえ、まだまだわたしの力不足のようです」


「……難しそうだったら、その、て、手伝おうか?」


 おずおずといった様子で高坂がいうと、ユキは考え込むようにだまった。


「勘違いしないでよ、昨日のことがあるから、その借りを返すためだからね。別に断ったっていいんだから」


 慌てたようにしゃべる高坂に向かって、ユキはすこし困ったような顔をした。


「いえ、この件に関しましては、高坂様からは既に十分すぎるほど手伝っていただいております故、むしろ、わたくしの方が高坂様から借りをつくっていると思った次第でございます」


「そ、そうなんだ。それでその目標ってなんなの?」


「夏のあの公園で高坂様から指摘された、笑顔になるということです。わたくしは笑えているでしょうか?」


「え? あ~、そんなこといったような気がするけど。う~ん……」


 高坂は林間学校でのユキのことを思い出したが、たいてい無表情であった。


「夏休みの間は黒川様にお付き合いしていただきましたが、なかなか達成できておりません」


「なんていうか、やっぱりあんたは変なヤツね。まあいいや、あんたが笑えるようなことをさせてあげるから。それでいいでしょ」


 真顔で話すユキを見て、高坂は肩の力を抜いた後おかしそうに笑った。


 

 それから、規則正しいエンジン音と振動に揺られていくうちに、高坂のまぶたは知らないうちに落ちていった。

 眠りに落ちた高坂の頭がずれて、ユキの肩の上に乗った。

 ユキは自分の肩の上に感じる重さと、スウスウという寝息を聞きながら、自らも目を閉じた。



 運転席の後ろに座っている安田は、トラブルはあったが無事に林間学校を終えたことに安堵を感じていた。

 後は学校に帰るだけだったが、生徒たちの暇つぶし用にいくつか映画のDVDを持ってきたことを思い出していた。

 

 そして、生徒たちの様子を見ようと後ろを振り返ると、生徒たち全員が静かに寝息を立てていた。


「あらあら、みんな疲れちゃったか」


 その中には、お互いに寄り添い合う高坂とユキの姿もあった。

 高坂の黒い髪と、ユキの銀髪が絡み合う様子を見ながら、安田は微笑ましいものを見たように口元を緩めた。

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