4. 神社にいるネコミミ(2)
次の日もユキは境内の掃除をしていた。
だが、その表情は明るいものではなくため息を吐いた。
「はぁ、やることがありません」
昨日、ゴミや落ち葉などをはきとっていたため、今日はチリを掃き取るだけですぐに終わってしまっていた。
「しかたありません、もう一度探索にいってみましょう」
ユキはため息をついた後、気乗りしない様子で林の中に分け入っていった。
探し物を楽にするために始めた掃除であったが、いつしか掃除の方がメインになっていることに本人は気づいていなかった。
しばらくすると、昨日と同様に、健二が石段を駆け上って境内に姿をあらわした。
期待に満ちた表情であたりを見回すと、賽銭箱のあたりに猫が集まっているのを見つけた。
そこは日当たりがよく、猫たちは気持ちよさそうに丸くなっていて、健二もゆっくりと近づいていこうとした。
「っ!?」
突然、横合いの茂みが揺れ何かがでてくるのに気づき、健二は顔をこわばらせて身構えた。
「なんだ、おまえかよ」
茂みから出てきたのが、メイド服姿のユキであるのをみて、健二はホッと胸をなでおろした。
「杉沢様、失礼いたしました」
「おまえ、林になんか入って何してんだよ?」
健二はビックリさせられたことで、不機嫌そうな声をだした。
「林の中で探し物をしておりました」
「なにか落し物か? どんなものだよ」
「一言でいうならば、故郷に戻るためのものです」
「もしかして、パスポートとか、飛行機のチケットか?」
健二は外国人のような外見をしたユキから落し物の推測を立て、大事なものならば探すのを手伝おうかという気になっていた。
「ぱすぽーと? 聞きなれぬ名前ですが、おそらく違うと思います」
「ちがうのか、どんなものなんだよ」
「はあ、それがわたくしにも見当がつかないものでして」
「なんだそりゃ、自分でもわからないものを探すってどういうことだよ」
健二はユキの要領を得ない返答に呆れた顔をした。同時に、目の前の少女が一体何者であるかということが気になってきた。
「ところで、おまえなんでそんな格好してるんだ?」
健二がユキの服を指差すと、ユキは当然といった調子で答えた。
「メイドだからですよ。これがわたくしの仕事着となっております故」
「おまえみたいな子供がメイドねぇ……。どこかの金持ちの家にでも行ってるのか?」
「はい、われわれメイドギルドのメンバーは請われれば、王城から一般家庭までどこにでも参ります。現在はとある方のお屋敷に勤めております」
「王城だぁ?」
健二はユキがファンタジーの世界にあるような白亜の城で働いている姿を想像した。
「なんというか、不思議としっくりくるな」
「おほめに預かり光栄です」
「いや、ほめてねぇから……」
健二は、ずれた返事をしてくるユキに疲れた顔をした。そこで、境内が昨日とよりもきれいになっていることに気がついた。
「そういや、なんか神社がきれいになってるけど、おまえがやったの?」
「はい、探し物のついでにと思い、片付けさせていただきました」
「へぇ~。あ、もしかして、おまえここの神社の神主のとこに住んでるのか?」
健二は今度こそ正解だろうと期待したながら聞いた。
「ちがいます」
「なんで、ここまで掃除してるんだよ」
健二はチリ一つ落ちていない境内を見ながら、即答したユキに質問した。
「掃除は完璧にやる。それがメイドとしてのモットーでございます」
「あ、そう……」
表情を動かさず、どこか誇らしげな様子で答えるユキに、健二は投げやりに返事をした。
「おっと、本日はこのへんで失礼いたします」
「ああ、じゃーなー」
今日も林の中に入っていくユキの背中を健二は見送った。