13. 体操服をきたネコミミ
授業が終わり休み時間に入る前に、安田は教室の生徒たちに声をかけた。
「次は体育の時間だから、みんな着替えて体育館に来てね~」
授業の準備のために安田は教室を出て行き、男女に分かれて着替えるために男子も教室からぞろぞろと出て行った。
「ほら、男子は早く一組の教室にいきなさいよ。このスケベ」
「うっせぇな、だれがおまえのハダカなんか見たがるかよ」
健二は高坂に悪態をついていたが、何人かの男子は顔を赤らめながらチラチラと女子を見ながら教室から出て行った。
それから、女子は男子を教室から追い出した後ドアをきっちり閉めると、体操服に着替え始めた。
その中で、ユキは体操服を手に持ってじっと見つめたまま固まっていた。
「何してるのよ、アンタも早く着替えなさいよ」
「ず、ずいぶんと大胆な格好をなさるのですね」
「普通でしょ。都築さん、早くしないと授業に間に合わないよ?」
女子たちが半そで短パンの体操服に着替えて体育館に向かっていく中、ユキはメイド服姿のままであった。
「さ、先にいってらしてください。着替えたら参りますので」
「そう? じゃあ、先にいくよ」
ユキの態度に疑問を抱きながらも、女子たちは一緒に体育館に向かっていった。
教室の中にはユキだけが取り残されていた。
ゴクリとつばを飲み込み、意を決したように、メイド服を脱いで体操服に着替え始めた。
「あれ? 都築さんはまだかしら」
体育館には既に生徒たちが集まっており、安田は生徒が全員いるか確認している中で、ユキの姿がないことに気づいた。
「お、おくれて申し訳ありません」
そこに体育館の入口から顔だけをひょこっとのぞかせているユキの姿があった。
「どうしたの? そんなところにいないで早くきなさいな」
ためらうように入ってこないユキにむかって、安田が手招きした。
「は、はい、あの、いえ……」
おずおずと入ってきたユキは、学校指定の半そで短パンの白い体操服を着ていた。
いつもならばくるぶしまで伸びた紺のスカートで隠れていた足が露わになっており、そして腰の付け根から生えた真っ白な尻尾がせわしなく動いていた。
「うう……」
ユキは表情を隠すようにうつむき、その頬は恥ずかしさによって真っ赤に染まっていた。
内股になりながらもじもじと歩く姿は、普段の毅然とした態度とはまるで違い、そのギャップに自然と注目が集まっていた。
「しっぽだ。すげー、うごいてる」
「都築さんだよね? なんかかわいい」
ざわざわと生徒たちが感想を口々に声に出している中、ユキの前にゆっくりと近づいていく女子が一人いた。
「あ、あの……」
その女子とは黒川春奈であり、無言で前に立つ姿にユキは不安を感じた。
「カワイイッ!!」
「ひぃぇっ!? 黒川様!?」
突然両手をがばっと開いて抱きついてこようとした黒川から、ユキはとっさに後ろに飛びのいた。
及び腰になるユキに、ジリジリと近づいていき、長めにのびている前髪からのぞく目には妖しい光が宿っていた。
ユキは恐怖を感じて、しっぽの毛を逆立てさせてふくらませていた。
「すっげぇ、ふくらんだ!?」
「ちょ、黒川。おまえキャラちがいすぎだろ!!」
黒川の暴走によって体育館の中はカオスと化していた。
逃げるユキを追いかける黒川と、普段とは違う態度のユキと黒川に驚く生徒たち。
そして、なによりも一番混乱しているのは教師である安田であった。
「え、しっぽ、動いてる? 黒川さんもどうしちゃったの?」
それから、立ち直った安田によって黒川が止められて、他の生徒と一緒に座らせた。
「みんなちょっと待っててね」
安田は普段とはちがうユキから話を聞くために、体育館の外に連れて行った。
「都築さんどうしたの? なんだかいつもと雰囲気ちがうけど」
「あの、実はこの体操服なのですが……」
「うん、どうしたの?」
口ごもるユキを安田は優しい口調で促した。
「は、恥ずかしいのです」
「恥ずかしい?」
「こんな足がむき出しになっているなんて、はしたないです。淑女であるならば肌は見せないというのがメイドの教えでございます。それだというのに、みなさままったく気にしてらっしゃらない様子でして、わたくしにはどうしたらいいか」
ユキは頬を赤くしながら、一気にまくし立てるように話した。
話している間、ユキの気持ちを表すように尻尾は地面をたしーんたしーんと叩いていた。
「そ、そうなのね」
安田はユキの話も聞いていたが、それ以上に動き回る尻尾にも目線が向いていた。
「申し訳ありません。わたくしの身勝手だというのは重々承知しているのですが、どうしても羞恥心をおさえきれず」
「いいのよ。みんな一緒である必要なんてないんだから。でも、そうなるとどうしましょうねぇ」
安田は腕を組み首をひねりながら悩み始めた。
「とりあえず、私服で構わないから着替えていらっしゃい」
ユキはよほど恥ずかしかったのか、礼もそこそこにすぐに着替えに戻っていった。
安田が体育館にもどると、生徒たちはさっきみたことで盛り上がっていた。
「ぜってーあれホンモノだろ」
「いや、あんな尻尾が人間にはえてるわけないでしょ。アクセサリーよ」
「いや、だってぶわっと膨らんだぜ」
「というか黒川おまえどうしたんだよ、いきなり」
「え、あ、あの、都築さんがかわいくて、つい」
「わかるわかる、なんなのアレ反則でしょ。普段とのギャップありすぎで、なんかもう抱きしめたくなるかわいさだったよ」
普段、一人でポツンと人の輪から離れている黒川も、このときは生徒たちに混じれていた。
そんな黒川の変化をみて安田は驚きながらも、手を叩いて音をたてて注目を集めた。
「え~、いま、都築さんは着替えに戻ってもらっています。都築さんにとってはなれない服装だったらしく、しばらくの間私服で授業をうけてもらうことになりました」
「先生、それってひいきじゃないですか?」
高坂が声高に主張してきた。
「これはひいきではありません。区別です。高坂さん、あなたも着替えのときは男子と別々にするでしょう。ひとによって事情はちがってくることもあるのですから、ときにはこうやって分ける必要もあるのですよ」
「はーい、わかりました……」
高坂は不承不承うなずいた。そして、口元でこっそりと「もっと見たかったのに」とつぶやいたのは誰にも聞こえなかった。
「ただいま戻りました」
戻ってきたユキはメイドキャップの変わりに紅白帽子をかぶったいつものメイド服姿だった。
それをみた安田は、メイド服とのミスマッチ加減に内心で苦笑をもらした。




