12. 空想少女とネコミミ
わたしは内向的で他人としゃべるのがあまり得意ではなかった。
何を話せばいいかわからず内容を頭でまとめようとまごまごしている間に、相手はイラつき始めるのを感じ余計に焦るが、何も思いつかず頭は真っ白になっていくばかりだった。
それでもなんとか自分の頭のなかを吐き出すが、その内容はわかりづらく、両親からもお前の話すことは良く分からないといられていた。
その言葉が頭の中に残り、他人と話そうとすると萎縮してしまい舌が痙攣するようにつっかえ、話すという行為自体が拷問のように感じるようになるのに時間はかからなかった。
やがて、ひととなるべく話すのを避けるために、猫背で隅っこの方で小さく縮こまるようにして過ごすようにした。
そうすると、周囲の人間はまるでわたしのことを気にしなくなり、放っておかれるようになった。
だけど、わたしにとっては、ようやく手に入れた平穏であった。他の人にとっても、わたしにとってもこれが一番よい距離感なのだと思うようになった。
他人との関わりをもたなくなったわたしの楽しみは、アニメやゲーム、小説など架空の世界に没入することであった。閉じた世界の中で登場人物たちは活き活きと動き回りながら軽快な言葉の応酬を交わし、傍観者として眺めるのが心地よかった。
いつか、自分もこんな風に他人と話せたらいいのにと思うこともあったが、その気持ちは心の奥底にしまいこんでフタをした。
そんな日々を過ごしていると、ソレは唐突にわたしの前に現れた。
ファンタジー世界でみるようなメイド服に身を包み、さらに頭にネコミミをはやした少女が転入生としてやってきた。
先生の横に立って自己紹介をするその子から、わたしは目が離せなくなった。
空想だとおもっていたものが、現実では手が届かないと諦めていたものが目の前に現れ、わたしの胸の内にあの子と話してみたいという願望が生まれたのを感じた。
◇
教壇に教師である安田が立ち授業を進める中、黒川は左ななめ前の窓際の席にいるユキに、チラリと視線を向けた。
ユキは背筋をピンと伸ばしながら黒板の文字を必死で追い、ときおり悩むように鉛筆で手遊びしていた。
授業は算数で、黒川にとってはどうということのない内容だった。
授業の終了を告げるチャイムがなったが、ユキはいまだに悩んでいるようだった。
黒川はチャンスだと思った。
ここで、『都築さん、わからないところがあったなら、よかったら教えようか』と話しかけようか悩んでいるうちに、ユキが席から立ち上がった。
黒川が目で追っているうちに、ユキは教卓の前に残っていた安田に質問しに向かった。
安田と話すユキを見ながら、自らがチャンスを逃してしまったことに黒川はそっとため息をはいた。
さらに次の時間が体育の時間であることを思い出し、さらに憂鬱になっていた。
運動が苦手な黒川にとって体育はあまり好きになれない授業だった。




