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1. 駅前で拾われたネコミミ

 駅前は平日の昼間だというのに、今日も人々でごった返していた。

 ここ桜ヶ丘市は都会まで電車一本でいけるため、ベッドタウンとしてそれなりの人口を抱えていた。

 人がふえればそれだけいろんな人間がいるようになるため、駅前は警察の巡回コースとなっていた。


 線路の走る高架橋の下をくぐり駅前を通るという定時巡回コースを、自転車にのって回る警官の姿があった。

 年の頃は40後半に入り、白髪が混じり始めていたが、がっちりした体型をして頼もしさを感じさせた。

 制帽の下からのぞく眼はするどく、道行く人々をしっかりと見回し、異常がないか確認していった。


 そんな中、彼の目を引く人物がいた。

 小学生ぐらいの小柄な体型の少女で、銀色の髪をたらし、その肌は日本人とは違った陶磁器のような白さを有していた。


 ただの外人といえないのは、その格好であった。

 薄紫をベースとして白いレースをあしらったメイド服をきており、頭にはメイドキャップをつけていた。


 警官は自転車を止めて、その少女の様子をみていた。

 少女はキョロキョロとまるで見慣れない風景に困惑するように見回していた。

 警戒するように建物の陰から通りの様子をうかがい、道路を走る自動車にびっくりしたように飛びのいていた。


 警官は腰に装着している無線マイクを手にもち、口元にもっていった。


「こちら都築、駅前にて外国人と思われる少女を発見。これより職務質問にうつる」


『了解、引き続きお願いします』


 自らを都築といった警官は、無線でのやりとりを終えると、自転車を手で押しながら少女の下にゆっくり歩いていった。


「もしもし、そこのお嬢ちゃん、ちょっといいかな?」


「っ!?」


 都築が声をかけると、少女はびっくりしたように振り向いた。


「あー、日本語わかりますか?」


「**************(衛兵の方ですか?)」


 しかし、少女が口にした言語は日本語とも英語とも違うものであった。


「まいったな、う~む」


 都築は首筋に手をあてて悩むと


「あー、わたしは、警察です。これから、あなたを、保護します」


「**************(申し訳ありません、ギルド証の不具合によって、言葉が通じていないようです)」


「えーと、交番まで、ついてきてください」


 都築は一語一語区切るように話し、自分の勤務する交番の方向を指差した。


「*************(……承知いたしました。貴方におまかせいたします)」


 少女は都築の顔をじっと見て迷う素振りをしたあと、うなずいた。

 自転車を押しながら歩く都築の後ろに、少女はついていった。

 

 交番内には実用的な飾り気のないスチールの机が2つ置かれ、そのうちの一つに若い男の警官が座っていた。


「お疲れ様です。都築さん」


 男は交番に入ってきた都築に気づき声をかけてきた。

「佐藤、異常はなかったか?」


「はい、それで道で見かけた女の子というのは、そこの子ですか?」


 佐藤と呼ばれた男は都築の後ろにいた少女に気づき目を向けた。

 すると、少女は男の前にきて丁寧にお辞儀をしてきた。


「************(はじめまして、お手数をおかけして申し訳ありません)」


「おっと、これはどうもご丁寧に」


 男はおどろきつつも、頭を下げて挨拶を返した。


「都築さん、この子、外国人でしょうかねぇ?」


「まあ、そうだな、言葉がさっぱりわからん。佐藤、お前大学でドイツ語習ったって言ってたよな。どうだわかるか?」


「いやぁ、さっぱりです」


 佐藤はハハハと開き直るように笑った。


「どうします、都築さん? 本部に連絡して保護してもらいますか。そうすれば、どこの国出身かわかるかもしれませんよ」


「まあ、そうだな。オレたちの手に余りそうだしな」


 二人は少女の様子を見ながら相談を始めたが、しかし、少女の身なりからして不法入国者といった感じはしなく、なにかしら訳ありといったのを感じていた。

 そんな男たちの様子を少女は黙ってじっと見たあと、鎖を首にとおして胸元にぶらさげていた小粒な赤いクリスタルをいじりながら、少し焦ったような表情をしていた。


「とりあえず、署に報告しておくか」


 都築は机の上におかれた電話の受話器を持ち上げて、市の警察署に連絡を取り始めた。


「言葉の通じない十代前半と思わしき少女を保護したので、対処をお願いします」


 少女は電話で話す都築を不思議そうにみていたが、急に都築は声を大きくした。


「え、は? ちょっと待ってください。本部に連絡がつくまでこちらで預かっていろって、ちょっと待ってください」


 通話が一方的に切られ都築はイラ立ちをぶつけるように、乱暴に受話器を置いた。


「都築さん、どうしたんですか?」


「あんのハゲ課長、本部が回答を返してくるまで保護対象をこっちで預かっていろとかぬかしやがった」


「あー、厄介ごとこっちに押し付けてきたんでしょうねぇ」


 佐藤は諦めた口調で返事をしたあとにため息をついた。


「どうする? この交番に寝泊りさせるわけにはいかんしなぁ」


「いや、うちなんて六畳一間のアパートですよ。壁もうすいし、隣のひとに文句いわれますよ」


「となると、うちにつれていくしかないのか……」


「こんなときに奥さんがいてくれたら、っと、すいません」


「いやいい、家内が死んでもう大分たつんだ。もう気にしてねえよ」


 済まなそうな顔をする佐藤に、都築は首を振った。


「えっとな、お嬢ちゃん、今日はオレの家に、とまってもらいます」


「**********(えっと、わたくしの身の振り方についてでしょうか?)」


「うちに、くる、オッケー?」


 都築は身振りでなんとか意思疎通しようと、自分を指差した。


「ウチ、クル? ************(もしや、わたくしをメイドとして雇っていただけるのでしょうか?)」


 すると少女はカタコトで都築の言葉を真似るようにしゃべった。初めて言葉が通じたと思い都築はうれしくなり笑顔でうなずいた。


「おお!! そうそう」


「************(ありがとうございます。未熟者ですが精一杯努めさせていただきます)」


 そんな都築にたいして、少女は両手を腰の前に重ねながらゆっくりと深くお辞儀をした。


「なんとなく通じたっぽいですね。すごいじゃないですか」


「あー、まあな。この調子でがんばってみるよ」




 やがて、夕方になり交代のためのやってきた同僚と引継ぎをすませると、都築は少女を伴って家に向かった。

 到着すると家は、木造の平屋で一般的な一軒家であった。

 都築はかばんから鍵を取り出し玄関扉に差込むと、ガチャリと音をたてて開錠された。


「ここが、オレの家だ」


 振り返りながら少女の様子をみると、少女は目を丸くしながら家と都築を交互に見ていた。


「なんだ、そんな変わった家じゃないだろ。ほら、あがってくれ」


「***************(このような立派な屋敷に住んでいるとは、衛兵殿は、もしや騎士か貴族に準ずる方なでしょうか?)」


「なかなかさっきのようには通じないか。おっと、靴は脱いでくれよ、って、なんだもう脱いでたのか」


 都築は外国人と思われる少女に注意しようとしたが、すでにローファーのような茶色の革靴を脱ぎ、きっちり揃えていた。

 玄関から居間に入ると、少女に声をかけた。


「まあ、くつろいでくれ。いきなり知らん人間のところで戸惑うだろうけど適当にしててくれ」


「**********(わたくしはここで何をすればよいのでしょうか、なんなりと命じください)」


 畳がしかれ中央にちゃぶ台が置かれていた部屋のなかで、メイド服姿の少女は背筋をピンと伸ばし都築を見ていた。


「まいったな、う~ん」


 一向に緊張を解こうとしない少女の様子を見て、都築は困惑したように頭をボリボリかいていた。


「まあ、飯でも食わせて風呂にいれればいいか」


 あきらめたように風呂場に向かっていった。

 風呂場にはいると、スポンジをもって湯船を洗おうとしたところで、少女が慌てたように声をかけてきた。


「*************(ご主人様、そのようなことはメイドであるわたくしに命じくださいませ)」


「ん? 風呂掃除やってくれるのか、じゃあ頼むよ」


 都築は少女のやる気にみちた表情を見て察したのか、スポンジを手渡した。


「*******(おまかせください)」


「オレは飯つくってるからな」


 少女に後をまかせると、都築は台所にむかった。


「え~っと、ろくなもんがねえな」


 台所をあさるが、一人暮らしを続けていた台所にはまともな食材はなく箱買いしたカップ麺だけが残っていた。

 しょうがなく、ヤカンに水をいれてガス台の上において火をつけて温め始めた。


「どれ、あの子の様子でもみてくるか」


 ヤカンの中のお湯が沸騰し、カップ麺にお湯をそそいでフタをすると、風呂場に向かい中をのぞいた。


「こりゃあ、すごいな」


 風呂桶はもちろん、風呂場の隅々までピカピカにみがかれ光沢を放っていた。


「**********(風呂場の清掃、完了いたしました)」


「ご苦労さん。それじゃあお湯を張っておくか」


 都築は少女の肩を労うようにポンとたたいた後、お湯の蛇口をひねった。


「**************(大量のお湯がこんな簡単にでてくるなんて、ご主人様は魔法使いなのでしょうか!?)」


「なんだ、風呂がめずらしいのか? でも風呂場の掃除の仕方をしってるんだよな」


 驚いた様子の少女をみながら、都築はどうして驚いているのかわからず首をひねった。

 台所に戻ると2つのカップ麺を居間のちゃぶ台の上に運んだ。


「ほら、できたぞ。こんなもんしかなくてすまないな」


 しかし、少女は部屋の隅で目立たないように立って見ているだけであった。


「おいおい、そんなとこに突っ立てると食えないだろ。ほら、こっち来て座りな」


「*************(わたくしのようなものと同じ食卓を囲むなど、ご容赦ください)」


 都築は困惑する様子の少女の背中を優しくおして、ちゃぶ台の前までつれてくると隣に座らせた。

 少女の前には、湯気をたてながら香辛料をよくきかせたスープのにおいをただよわせるカップ麺があった。

 おもわずそのにおいに刺激されたのか、クゥ~という腹の虫が少女から聞こえてきた。


「**********(も、申し訳ありません。わたくしには過ぎたものですが、いただきます)」


 少女は赤面しながら置かれていたフォークを手に持って、麺をくるくると巻き取りながら音を立てずに上品に食べ始めた。

 そんな少女の様子をちらりと横目でみながら、都築はずるずると音をたてて麺をすすっていた。


「さて、飯もくったし。風呂もそろそろ一杯になっているだろう」


 都築が風呂場にむかうと湯船のなかにはお湯がたっぷりとたまっており、蛇口を閉じてお湯を止めた。

 居間に戻ると、カップ麺を食べ終わり幸せそうな顔をしている少女にむかって、声をかけた。


「お嬢ちゃん、風呂にはいってきな」


 声をかけられた少女は取り繕うように表情を引き締めた後、返事をした。


「********(はい!! とても美味でございました。このようなものをいただくなど、身に余る幸せです)」


「あー、こっちきて」


 どうやら通じていいないとおもった都築は、少女の手をひっぱり風呂場まで先導した。


「風呂、入る、オッケー?」


「フロ? ***********(まさか、風呂にはいって湯浴みをしてもよいと? しかし、ご主人様の前に入りお湯を汚すわけにはいきません)」


「あー、そうフロね。フロ、はいる。ほらほらはいったはいった」


 再び拒否するような態度をする少女の背中を押して、脱衣所の扉を閉めた。


「やれやれ、言葉がつうじないとめんどうだな」


 都築は疲れたようにつぶやくと、風呂場から離れていった。

 少女は脱衣所で本当に風呂にはいっていいものか、悩んでいた。


「*********(ご主人様が入れとおっしゃっているのですから、しょうがないですよね)」


 服を脱いでキレイにたたんでから脱衣かごにいれ、裸になると風呂場に入っていった。


「******(これは!? なんという気持ちよさなのでしょうか)」


 風呂桶を使ってお湯をすくい体の汚れを落としてから、湯船のなかに身を沈めた。

 普段の少女はタライにはった水とぼろきれで体をぬぐって、寒い中体を清めていたため、その暖かさに思わず表情をヘニョリと緩めた。

 

 少女が風呂にはいっている間、都築は新聞を両手で広げて読んでいた。

 そこに、居間の扉が静かにあけられて少女が入ってきた。


「**********(ただいま、あがりました。お気遣いいただき感謝の極みです)」


 少女は湯上りで、白かった頬は赤みがさし、頭につけていたメイドキャップがはずされまだ湿っている銀色の髪が肩口まで垂れていた。


「おお、あがったか、風呂は気に入ってもらえたようだな」


 都築が新聞から顔を上げて、少女の方をむいた。


「ん? んん?」


 都築は目をこらすように少女をみていた。


「****************(あの、なにか粗相をいたしたのでしょうか?)」


「その、頭のものは?」


 そんな都築の様子に少女は不安そうにしていて、都築の目線は少女の頭頂部に生えていた“あるもの”に注がれていた。

 

 

―――少女の頭にはネコミミが生えていた

 


とある少女の日常を書いたどこにでもあるような平凡な物語です。

不定期更新となりますが、どうぞよろしくお願いします。

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