ディス・ユートピア(This utopia)
第130回フリーワンライ
お題:
勤務中はお静かに
例え人間でも、例え妖怪でも
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
管理の行き届いた通りに、整然と街路樹が並んでいた。嘘みたいな眩い緑色が真っ白いストリートによく映える。
時間はランチタイムまっただ中。人々は口々に食事を運び、会話を楽しんでいる。ここにはもめごともなく、平穏な時間だけがあった。
まさに理想的な社会。
辺りの喧噪は混じり合い、一つのうねりと化した。
『昨日の話だけどフットボールの決勝点で緑色した新作の服がまた来週あの場所へそろそろ考え直した方がまた今度みんなで楽しみに惜しかった』
時計が午後一時まで五分を刻んだ頃、誰からともなく席を立ち、彼らは各々の職場へと戻っていく。
午後の就業開始と同時に街は静まりかえった。
オフィスでは画面に向かう大勢の者たちがいるが、誰一人咳一つしない。黙然と機械的に仕事をこなす。飲食店は軒並み準備中の札を出し、商店はシャッターを下ろした。オートメーション化の進んだ官公庁には、事務作業は存在せず、そもそも窓口がなかった。
常に変わらないのは工場くらいで、いつまでも動き続ける機械に対して、時折保守点検の手が入る。
行き交う影の消え去ったストリートは、ゴーストタウンさながらだった。そしてまた、終業すれば街は再び活気づく。動と静がきっちり区切られ繰り返されるルーチン。
『勤務中はお静かに』
職場のそこかしこに掲げられたその張り紙が、まるで呪縛をかけてでもいるかのようだった。
事実、ある種の呪縛ではある。
能率的に効率的に生産的に直接的に行動せよ。現行社会ではそのような教育が組まれていた。
理想的な管理社会。
そこに、人間は必要ない。
『ディス・ユートピア(Dis-utopia)』
二つ目のお題「例え人間でも、例え妖怪でも」は「人間じゃなくてもいい」ぐらいの意味で。
しかし、二周続けて破滅的な話というのは流石にどうか。