ヒットする作品
男は小説のアイデアを頭の中で整理していた。アイデアは次から次と無尽蔵に溢れ、男の脳が休まる事はなかった。
仮に、そんなアイデアを元にした作品が世に出た場合、男には必ずヒットするであろうという確固たる自信があった。事実、男の作品はどこを切り取っても面白く、年齢層を問わず読者の心を掴んで離さない素晴らしい作品であった。
「最後に何か言い残す事はあるか?」
顔に覆われた布で視界は奪われていたが、刑務官の声ははっきりと聞こえた。
しばらくした後、死刑囚である男の立つ床板が割れ、男は自身の体の落下で重力を感じつつ、この素晴らしい作品が世の人々に知られずに消えるという未練を抱きながら意識を失った…。