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語り部屋  作者: こせ よしこ
1/3

前編 美味しいコーヒーは如何ですか?

セリフが多いです。

それが嫌なら回れ右でお帰り下さい。

前編となっていますが、後から読んでも構いません。

「美味しいコーヒーは如何ですか?」

男はそう言い、目の前に座る女性に話しかけた。

「それよりもここ、何処ですか?」

女性は周りをキョロキョロ見回して聞く。

しかし、男は微動だにせず、

「美味しいコーヒーは如何ですか?」

と先程と同じセリフを言う。

「さっきまで家に居たのに・・・」

オロオロする女性に男はやはり微動だにせず、

「美味しいコーヒーは如何ですか?」

と聞く。

「それに、貴方は誰ですか?」

その言葉にも無反応なまま男はもう1度同じ事を聞く。

「美味しいコーヒーは如何ですか?」

女性は、溜め息と共に、

「コーヒー貰います」

と言う。すると、男は口元だけを動かして微笑み、

「どうぞ、召し上がれ」

と2人の間にあるテーブルにコーヒーカップを置いた。

コーヒーのいいにおいがする。

女性は、恐る恐るコーヒーカップを持ち一口飲んでみる。

美味しい。

思いながら飲んでいると、男は組んでいる長い足を組みかえて、

「ようこそ語りの部屋へ」

と言った。

「語りの部屋?」

女性はコーヒーカップを置いて、男を観察する。

男は見た目20代位で、黒い(つや)やかな髪に黒い瞳、色白な肌の整った顔に銀縁の眼鏡を掛けている。

服装は黒のスーツで、周りが暗いせいでよく見えない位深く黒かった。

女性の方はというと、外出着というより部屋着という格好をしている。

「ここは、お呼びしたお客様の悩み等を聞く所でございます」

男はそう言うと、

「そして、私めがその語りを聞く者でございます。名前は、お好きな様にお呼びください」

と口元だけで微笑んだ。

「好きな様にって言われても・・・困ります」

と言う女性に、オヤツを差し出しながら男は、

「好きな人の名前でもなんでも構いません。ポチでも神様でもなんでも・・・」

と言う。

女性は、差し出されたオヤツからポッキーを選んで食べ、

「うーん・・・それじゃあ、セバスチャンで!」

と閃いたという顔をした。

「承知致しました。今から私めはセバスチャンでございます」

セバスチャンは(うやうや)しく頭を下げた。

「それで、セバスチャンさん、悩みとかを聞くって言ったけどどういう事ですか?」

「そのままの意味でございます。今、抱えている悩みや相談事等を私めがお聞きするのが私めの仕事、でございます」

そう言うとセバスチャンは組んでいる長い足を再び組みかえた。

「私、早く帰って仕事しないと駄目なんです。私、どうしてこんな所に居るんですか?」

周りは真っ暗で、セバスチャンと女性の間の天井?からの明かりしか光が無い。部屋だとしてもその広さは全く分からない。

「お客様がどうやってここに来たのかは企業秘密でございますが、何故ここに居るかはお教え出来ます。貴女は選ばれたのです。語り人として」

セバスチャンはいつの間にか持っていたコーヒーカップでコーヒーを飲み、

「さぁ、お好きな様にお語り下さい」

と微笑んだ。


「私の名前は・・・」

「言わなくて結構です。名前も年齢も性別も何も必要ございません。必要なのは語りでございます」

「・・・私は小説を書いているのだけれど、なかなか良いアイデアが浮かばなかったりするの。で、さっきまで良いアイデアが無いかな?って思いながらゴロ寝してたら、ここに来てしまったの。何でかしら?」

「・・・」

「企業秘密・・・ね」

「はい」

「で、私は小説が書けないと色々困るのよ。だから、アイデアをくれない?」

「私めの役目は聞く事です語り手は貴女様でございます」

「ケチね」

「そう決められております(ゆえ)

恭しく頭を下げるセバスチャン。

コーヒーを飲んだり、ポッキーやポテトチップスを食べながら話しを続ける女性。

「話しをしてたら思いつくかもね、アイデア。それも悪くないわね。」

真剣な顔をする女性。

「私は、小説家を生業(なりわい)にしてるのだけれど、本当に素人からまだ抜け出せなくて、締め切り前とか凄く大変なの。書ける時は一気に書いてしまえるんだけど、書けない時は全く書けないの。私だけがそうか?と言えば、そうとは言えないのかもしれないけど、物書きとしては失格な気がするのよ私としては」

「・・・」

「だからといって他に出来る事も無いからなんとかやっているのだけれど。物を生み出すって大変なのね。子供を産む苦しみから比べたら私の悩みなんて大した事は無いのだろうけど。神様が世界を作ったのよりは難しい気がするわ」

「・・・」

「神様を信じてるわけでも、誰かを崇めてるわけでもないけど。私は神様や仏様でなくて、ご先祖様のおかげで居ると思ってるしね。ご先祖様が居なければ、何が居ても私は居ないわけだから」

「・・・」

「勿論、父や母も居なければ私は居ないわよ?だから、感謝はしてるわよ。孝行者かって聞かれたら、そうだ!とは言えないけど。散々迷惑とか掛けたりしてるから。不幸者ではあるわね。残念ながら。これからは孝行者になれる様にしないとね。今更な気もしなくはないけれど」

「・・・」

「その点、妹は孝行者だから羨ましいわね。しっかりしてるし、ちゃんと生活してるみたいだし。私は家事全般出来ないから、もう毎日四苦八苦よ。ある意味ネタの宝庫とも言えるかもしれないけれど、それをネタに書く程の腕は持ってないのよ。残念だけどね」

「・・・」

「エッセイとか自叙伝とかどう書くのよ?って感じよ。それらしいのを書いてみたりもしたけど、上手く書けなかったし。向いてないのかもねこの仕事」

「・・・」

「でも、本当に何も出来ないのよ。嫌な位に何も。いつも思うわ。私はどうして生きてるんだろうって。・・・あぁ、自殺願望者じゃないから気にしないでね」

「・・・」

「気にするわけも無いか」

「・・・」

「で、私は考えたのよ。ゴロ寝しながら。アイデアが浮かぶ様にして欲しいって。そうしたら、ここに居たわけだけど・・・ここって私の夢の中なの?」

「それは企業秘密でございます」

「やっぱり」

女性は腕組みをして考え込みながら、口はオヤツを食べるのに忙しそうだ。

「締め切りもうすぐなのよね。だから、ここでこんな事してる場合じゃないのよ本当はね」

「・・・」

「何か、今なら書ける気がするわ!早く家に戻して頂戴。アイデアが消えてしまわない内に!」

(かしこ)まりました」

そうセバスチャンが言うのと同時に女性の姿は忽然(こつぜん)と消え去った。


新たに現れた影に男は問いかける。

「美味しいココアは如何ですか?」

はじめましての方もそうでない方も、読んで下さりありがとうございます。

不思議な感じの小説に仕上がりました。

では、また次の作品でお会い?しましょう。

ここまで読んで下さりありがとうございましたm(_ _)m

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