第7話:あるいは昔話と、寂しがりな少女が踏み出す新たな一歩①
お久しぶりです
何もない真っ暗な空間から、自我が生まれたかのように。
浮遊感にも似た意識の覚醒を自覚しながら、セルフィーネは瞼を持ち上げた。
「ここ、は……」
見開いたばかりの瞳に、飛び込んでくる無機質な白が嫌に眩しく映る。
数度瞬いたあと、それが天井であることを認識した。そして体を起こそうとして、
「……っ」
眩暈と頭痛が襲い、再びその身をベッドに委ねた。
「……確か、ひどい二日酔いに似てるんでしたっけ。こんな状態になるのに、大人はなんでお酒を飲むのでしょうか……」
入学してから初めての感覚に、悪態を吐きそうになるのを堪えてセルフィーネは呟く。
セルフィーネが身を横たえるベッドの隣に、蒼い燐光が散る。すぐに蒼銀の角を携えた、一頭の駿馬が顕現した。
「エーデルブラウ……」
普段よりも力のない呼び声に、一角獣は物憂げに瞳を閉じて鼻先を主へと近づけて応える。近づいたその頬に、少女はゆっくりと手を運んで触れる。
「今日は……いえ、違いますね。今日も。いつもありがとうございます。そしてごめんなさい。あなたという最高のパートナーが居ながら……」
か細くなる少女の言葉に抵抗するように、エーデルブラウは小さく頭を振って嘶く。
「あなたが謝る必要なんてないですよ。あなたがくれる力は、私の誇りです。これまでも、これからも」
確かな思いが込められた声に、精霊の瞳が開かれる。青く深い輝きを持った視線は、それだけで精霊の思いを雄弁に少女へと伝えた。
その視線を受けたセルフィーネは小さく溜息をついて、
「……敗けちゃいましたね」
小さく、困ったように微笑むのだった。
ブゥン、という小さな機械音が部屋の空気を揺らす。間を置かず聞こえてきたのは一人分の足音。
「っと、起きたかシュテルンノーツ。……すまない。邪魔したかな?」
椿が救護室に入り、セルフィーネに声をかける。
「桜咲先生……」
セルフィーネは自身の精霊に目配せをする。エーデルブラウは主の思いを瞬時に悟り、瞳を閉じたあと、蒼い燐光を散らして姿を消した。
それを見届けたあと、セルフィーネは再び上体を起こし始める。
「無理するな。まだ解纏酔いも辛いだろう?」
「へ、平気です、このくらい……」
辛そうに表情を強張らせて言い、起き上がるのに苦戦する姿に、椿は思わずといった風で笑みを零す。そしてすぐにセルフィーネのベッドの横へ近づいて、
「動かすぞ」
「え? ……わ、わ」
ベッドに備え付けられているリモコンを操作し、ベッドのリクライニングを動かす。突然のことに、セルフィーネの口から戸惑いの声が漏れる。
「よし。こんなものでいいか?」
「……ありがとう、ございます」
「ああ。それから、これも」
上体を起こしたセルフィーネに、椿が水の入ったペットボトルを突き出す。
「……ありがとうございます。いただきます」
「いいさこれくらい。隣、失礼するよ」
セルフィーネの了承も得ぬまま、近くにあった椅子を適当に取り出し座る。そしてどこからかもう一本、セルフィーネに渡したものと同じペットボトルを取り出し、無造作にキャップを空けて飲み始める。 どうということのない所作のはずであるにも関わらず、セルフィーネは椿から目線が離せなかった。
「……どうした? 飲まないのか?」
見つめられていることに気付いた椿がセルフィーネに声をかける。
「え? ああいえ、いただきます」
理由の分からない気恥ずかしさを隠すように、少々慌てた様子でセルフィーネはペットボトルに手を付け始める。
それを見た椿は「そうか」と対して気にも留めていない口調で、再びペットボトルへ口を付けた。
「で、だ。どうだった? うちのハルは」
口に含んでいた水を吹き出す醜態を辛うじて堪え、しかしながら勢いのついた水分を上手く飲み下すことができずにセルフィーネは咳き込んだ。
「おいおい、大丈夫か? そんなにがっついて飲まなくても」
「ケホっ、んん、すいませ……じゃなくて!」
労わる姿勢に思わず謝罪の言葉を紡ぎかけたセルフィーネだったが、すぐに狼狽した様子で椿に相対する。
「普通聞きますか? 敗けた相手に、その……」
ともすれば不躾とも無神経とも取れる椿の言葉。
口調は丁寧であっても、視線に目一杯の戸惑いと一抹の不信感を宿して、セルフィーネは問い返す。それに対し椿は飄々とした態度で、
「聞くさ。大事なことだからな。ハルにとっても、私にとっても。そして、君にとっても」
「私にも、ですか……?」
単に考えなしに放たれた問いであったなら、セルフィーネは口を閉ざしただろう。けれど軽い調子で答える椿の言葉には、興味本位ではない、真摯な響きが宿っていた。
「そうだ。まあ、別に答えたくないならそれでも構わない。だからもう一度聞く。ハルはどうだった?」
穏やかな声音に、圧力や重圧など微塵もない。だからこそ椿の問いは、緊張も負担も強いずにセルフィーネの心に届けられた。
「……強かったです。本当に、強かった」
噛みしめるように紡がれた言葉は、紛れもなくセルフィーネ自身の本心による称賛だった。
「そうか。君からそんな風に言われたって知ったら、ハルも喜ぶと思うよ」
セルフィーネの言葉に満足したように、椿は微笑み、ペットボトルを口に運んだ。
「……苗字で、呼ばないんですね」
「ん? ああいや、もう勤務時間外だからな。つい気が緩んでしまっていた。気を悪くしたのなら謝るよ」
「いえ、謝る必要なんてないです。……桜咲先生、あの……」
いくらか視線を泳がせるセルフィーネに、椿は言葉を急かすようなことをせず、静かに少女を待ち続けた。
「少しその……お話を聞いてもらっても、いいですか?」
おずおずと選ぶように紡がれた言葉に、
「いいとも。教師が教え子の相談を受けるのは当然の義務だからな」
椿は柔らかな表情で、生徒に向き合う姿勢を示した。
セルフィーネは安心したような、そして微かに戸惑いを孕んだような複雑な表情で言葉を紡いでいく。
「桜咲先生は私の事情、どこまで把握されていますか?」
「……ある程度。ある程度、深いところまでは知っているつもりだよ。君がこれまで、そこまで頑なに誰かと関わろうとせずにいた理由を、察することができるくらいには」
「そうですか……」
椿の答えに、セルフィーネは視線を落として息を漏らす。懐に落とした目線の先に両手を組み、椿を見ることなく思いを重ねていく。
「私は誰よりも強い騎士にならなければいけない。母のために――あの家での母の立場を、少しでも改善させるために。私自身の手で、母を守れるように。
だから、殿堂騎士を目指そうって思ったんです」
少女らしく丸みと柔らかさの伴う手に、ギュッと力が込められる。
「殿堂入りを目指すからには、せめてこの学校で一番にならなきゃって。先生方や先輩方にはともかく、同年代の子たちに後れを取るような人間が、殿堂騎士になれるわけないって。そんな風に思って、今まで槍も魔法も磨いてきました」
部屋を満たす小さな声には、隠し切れないほど彼女の強い思いが滲んでいた。
「もしこんなに打ち込んできた技が通用しなくて、誰かに敗けたらって考えたら、どうしようもなく怖くなるんです。敗ければ、今までが全部無駄だったって、突きつけられる気がして。だからこれまで試合を挑まれる度に怖かったんです。敗けることが、すごく、怖かった……」
その声の痛々しさに耐え切れなくなったかのように。
椿がセルフィーネの両手にそっと、左手を乗せる。突然に与えられた温もりに驚き、セルフィーネは目を見開いて椿を見る。
無言で見つめ続ける椿の黒い瞳が揺るぎなく、少女の青い視線を受け止めていた。
「あ……す、すいませ――」
「いいよ。気にするな。それで、君は今日。精霊騎士として試合に臨み、初めて敗北したわけだが。自分の中で何か思うことはあったか?」
笑みを湛え、椿はセルフィーネへと声をかける。その問いに、少女は再び視線を落とす。
「悔しいって言葉じゃ片付けられないくらい、今すごくグチャグチャしてます。敗けることで、こんなにも最悪な気分になるだなんて初めて知りました。けど……!」
そこで一度言葉を切り、椿の反応を見る。その怜悧な美貌に変わらず微笑みが浮かんでいるのを見て、セルフィーネは全てを吐き出すように思いを表した。
「けどそれ以上に、桜咲さんのせいで混乱しているんです……!」
「……ハルのせい?」
驚いた様子で目を丸くする椿に、少女は大きく頷いて、
「桜咲さんの体捌き、観察眼に胆力、何よりあの剣技。霊装を交わして、その一つ一つがどれだけ洗練された業なのか、そこに至るまでにどれだけ血の滲むような鍛錬を経てきたのか、私でも分かりました。きっと剣の道に捧げてきた信念も、時間も、相当なものだったはずなんです!」
「でも彼は、彼の霊装は、刀の形を捨てました! 『もう刃は要らない』って! どうしてあそこまでの力を手にしながら、あっさりとその全てを捨てられるんですか!? 私には、理解できないです! 私はここまで身を費やしてきた槍を捨ててしまうなんて、絶対にできない……!」
椿の手を置き去りにして、セルフィーネは自身の体を抱きしめる。
「どうしてあの剣技を捨てきれるんだろうって! 捨てた後でも、どうしてあんなに強いんだろうって! 桜咲さんの強さの理由が知りたい。でもそれが単なる才能の差なんだって知ったら、私は……!」
感情を吐露し続ける少女の体は、寒さに打ちひしがれているかのように震えていた。
俯き、固く瞳を閉じるセルフィーネに、
「少し落ち着け」
「あ、え……」
椿は身を乗り出し、セルフィーネを抱きしめていた。全身を包む温もりと、椿の突然の行動に驚き、少女の身が縮こまる。だが確かに、その身の震えは収まっていた。
「色々言いたいことはあるが、そうだな……」
セルフィーネの恐慌が収まったのを確認し、椿は身を離す。椅子に戻るのではなく、椿はセルフィーネが身を預けるベッドに腰を下ろし、先ほどよりも近しい距離でセルフィーネへと向き合っていた。
そして。
「まず一つ。甘えるなシュテルンノーツ」
「甘え――私が……!?」
声音は穏やかであるものの、その表情と言葉の内容はいくらか厳しさを伴っていた。椿が口にした内容が全く予想していなかったものだったのか、セルフィーネは表情を硬くする。
「そう。君が、だ。たった一度の敗北で、君が積み上げ歩み続けた全てが無駄になるだと?
馬鹿か君は。世界に散らばる精霊騎士は、ときに騎士同士の試合に敗れ、ときに厄霊との戦いに身を引き裂かれても、その一つ一つを経験にして次に繋げようと。国や愛する者、名前も知らない誰かを守ろうと必死に足掻いている。
たかだか学生風情のいざこざに敗けたからといって、何をそんなにグダグダ言っているのか。私にはそれこそ理解に苦しむよ」
「貴女にそんなこと言われたくない!」
容赦ない言葉を浴びせてくる椿に、セルフィーネは悲鳴に近い硬質な声を上げる。激情の灯った青い瞳に、椿はどこ吹く風と冷めた視線を返す。
その反応に焚きつけられたか、セルフィーネはソプラノの可憐な声を、さらに怒りで穢した。
「日本国立精霊騎士学校始まって以来の天才! 最強の騎士!
学生の身分でありながら数多くの厄霊討伐を果たし、公式戦のみならず模擬戦を含めて常勝無敗!
史上初、唯一の日本人殿堂入り、序列四位でありながらその実力は、一位の『聖天竜』に並ぶと称される『煌翼の姫武者』!
栄光の道を歩み続ける貴女に! 自分の無力さに絶望なんてしたことのないような貴女に! 私の気持ちなんて――」
堰が切れたかのように吐き出され続けるそれは、しかし。
「私が敗北の味も、絶望も知らないと?」
淡々とした声音に、口を噤まされた。怒りに浮かされた感情が少し冷めたのか、セルフィーネはようやく、椿の美貌に浮かぶ悲しげな笑みに気付いた。
「試合だけなら、公式記録上は400近く勝ってるか? 学生時代に馬鹿拗らせていたときの模擬戦なんかも含めたらもっとか。
でもそんな数字が霞むくらいに、数えるのが馬鹿らしくなるくらい何度もこっ酷く敗けている。あの人には、今だって勝てる気が全然しないさ」
「そんな……ありえない、貴女を超える騎士なんて……」
自嘲するように嘯く椿に、先ほどまでの怒りを忘れ、知らずに否定の言葉を漏らす。そんな少女に軽く頭を振った椿は、
「騎士ではないよ。私の師匠だ。まあ世界は広いんだってくらいに思っておけばいい。それから、私は自分のこと強いだなんて思っていない。大事なものを守れず、一生残る傷を背負わせた。今でも自分の無力さを呪い続けている」
掠れ声のそれは、最早セルフィーネに聞かせる言葉ではなく、自身へと突き刺すかのような重いナイフとなっていた。桜咲椿にあるまじき弱々しい姿を、セルフィーネは途方に暮れたように見続けることしかできなかった。
椿の瞳が輝きを取り戻す。遠い記憶を浚っていた視線は、今は確かな決意を伴っていた。気迫すら感じられる静かな表情に、少女は身を強張らせた。
「ハルは――本当は、刀を握ることすらままならないんだ」
「なんじゃぁ、それで祝勝会を断ったのか? かーっ! クソ真面目だな相変わらず! そんな小娘なんか気にかけることなくパーっと打ちあがればよかろうに!」
「いや、流石にまずいでしょ。どっちも同じクラスなのに俺だけ祝勝会とか苛めですって」
学生寮の部屋で、春翔はヴィジホンのディスプレイに呆れた表情を向けていた。
画面に映し出されているのは燈華。相も変わらず着崩した和装に、行儀や羞恥など捨ててきたと言わんばかりの際どい姿勢。周りには、空け散らかした酒瓶がいくつも転がっていた。
「そんなことが苛めになるのか? あーあ、これだから軟弱な現代っ子は。此度のような大金星を挙げた者にはそれだけ祝われる権利があるのじゃ、当たり前であろうが。
そうじゃ。なら褒美に、儂のこの極上の女体でも見せてやろうか?」
からかうような笑みを浮かべ、胸元に落ちた布を片手でずらす。ただでさえ紙一重であるのに、このままでは豊満な胸の頂が顕に――
「だぁああああああ! バカバカやめろ! 酔ってんのかこの痴女は!?」
一瞬で顔を真っ赤にして、必死に顔を背ける青少年一人。
「アハハハ! 初い反応じゃのう! やはり色気使ってからかうと面白いのう、お前は!」
悪戯が成功した子どものように無邪気に笑いながら服を戻す銀髪の美鬼。
「……このクソ鬼ババア」
「あ? なんか言うたか?」
「俺のような矮小な人間に貴女様の体を見ることなど畏れ多くて身が滅びますどうかご容赦を……」
ボソッと吐かれた悪態。それに対し一気に絶対零度にまで下がった声の温度に、春翔は成す術なく命乞いを捲し立てた。
「フン、まあ聞き間違いということにしておいてやるかの」
尊大な態度でふんぞり返る燈華に、春翔は曖昧な表情を浮かべることしかできなかった。
「……のう、ハル」
落ち着きを戻したトーン。そこに込められた燈華の意図を読み取り、春翔は姿勢を正す。
「儂は、お前の戦い続けるという選択肢も、お前が優華との約束を果たそうと騎士になったことも、この先認めることはないじゃろう」
紡がれ続ける言葉は幼いころから何度も突きつけられてきたものだ。
(やっぱりどうあっても、無理かな……)
沈みかける春翔の心を、次に紡がれた言葉が変えた。
「それでも己が信念を曲げず己を偽らず、ここまでよくぞ歩み通してきた。まあ愚直過ぎるというか諦めが悪いというかなんというか……」
「……え?」
「……これまでよく頑張ったなと言いたいんじゃ! そのぐらい察しろこの馬鹿弟子が……」
子どものようにそっぽを向くその顔は、誰から見ても明らかなくらい朱が差していた。
「……ありがとう、ございます」
頭を下げる春翔は、詰まり気味の声で燈華に言った。そしてそれを聞いた燈華は頭を掻いて、照れくさそうにはにかんだ。
「……ああもう、慣れないことは言うもんじゃないのう。調子が狂うわ。
あとは、お前の精霊に会わせてくれ。お前のこれから先の相棒、今一度見ておきたい」
「は、はい。……えっと、澄桜?」
戸惑い気味の声で春翔が呼べば。
春翔の目の前に白い燐光が散り、銀髪の少女が主の膝に鎮座した。
「会うのはこれで二度目くらいかの? 最初のときにも言うたが、今一度頼む。
ハルをよろしく頼む。そいつは儂の大事な家族なんじゃ。これから先もきっと無茶やらかしまくるじゃろう。それでも最後まで、どうかハルにとっての良き相棒であってくれ」
頭を下げる燈華に、微笑みながら澄桜は大きく頷いた。
そして見上げるように振り返り、春翔と視線を交わらせる。
「よろしくな、澄桜」
そう告げた春翔の言葉に満足したように、同じように微笑みを浮かべて頷いた。
そして再び燐光を散らし、その姿は見えなくなった。
「いやあ、最初に会ったときよりも良い笑顔を見せるようになったのう。そして可愛らしい、流石は鬼に連なる者。……間違っても変な気は起こすでないぞ?」
「起こすか! 自分の弟子をどういう風に見てるんだあんたは!」
「あそこまで可愛らしいとのう、お前が幼女性愛者に目覚めるのじゃないかと心配で心配で」
先ほどと同じように人の悪い笑みでからかってくる燈華に、春翔は顔を引きつらせながら睨む。
「おうそうじゃ。そういえばお前と今日戦ったセル……アストロノーツじゃったか? そやつもやはり別嬪じゃったか?」
「シュテルンノーツです。……まあ、今まで出会った女の子の中でも断トツで――」
「かーっ! 金髪碧眼の外人娘に靡くとかガキの癖にマセおってからに!」
「さっきから面倒くさいな本当に! あんた本当に酔ってんじゃないだろうな!?」
そうして楽しげに(?)言い合いをしているところに。
春翔の部屋に、来客を告げるブザーが鳴る。同じ男子寮内の者ではなく、寮外の者が訪ねたことを告げる音だった。
「え、こんな時間に? すみません燈華さん。誰か来たみたいなんで今日はこの辺で。また連絡します」
「うわー、どうせそのセルフィーネとかいう小娘が訪ねてきて逢瀬を重ねるんじゃろうなー。そうやってお前も女遊びを覚えていくんじゃろうなー。桜咲の男は大抵そんな色好きの変態助平が多かったからのー。ハルの癖に生意気じゃぞ!?」
「溺死するくらい水飲んで寝てろ!」
絶叫と共に、春翔は通話を無理矢理終了させた。
「ったく、珍しくマジで酔ってたな燈華さん。あの鬼が酔うとかどんだけ飲んでんだよ。
椿さん然り、桜咲の女は酔っぱらうと面倒くさすぎる。もしかしたら母さんもこんな感じだったのか……?」
疲れたように吐き出す春翔。そしてそんな彼を急かすように、再びブザーが鳴り響く。
「はいはい。誰だろ、奏か……?」
そうして腕時計端末を起動させ、来客者を確認する。
ディスプレイに映っていたのは。
「……マジ?」
制服姿のセルフィーネが、忙しなく辺りへと視線を走らせている姿だった。
遅れて申し訳ないです。感想アドバイス、よろしくお願いします。