アイテムコレクターのルウとウルの双子の兄妹の物語
10歳の少年少女がダンジョンを探索してた。
少年は好奇心旺盛で伝説の勇者に憧れる、ダンジョン大好きなアイテムコレクターである。
まだまだ、あどけなさの残る亜麻色髪の少年の背には、究極のレア武器で魔剣と誉れ高い『魂喰い』が背負われている。
一方、少女はこれといって何の変哲もない。ただの村娘。
ちょっと天然だが笑うと笑窪と八重歯が可愛らしい、兄のルウと同様、亜麻色髪の少女である。
少年の名はルウ。少女の名はウル。双子の兄妹である。
ウルは兄のルウが得意げにしゃべる傍らで、やんわりとした笑みを浮かべ見守っている。
「ルウくん何してるの?」
「ダンジョンの宝箱の中身って回収しても、また復活してるだろ? ぼく思ったんだ。宝箱って中身より箱の方が価値があるんじゃないかって!」
「ふ~ん」
「だから、箱を持ち帰りたいんだけど……う~ん、何だこれ、ボンドで接着でもしてるのか? まったく動かねぇじゃん……」
ルウとウルがいるダンジョンは、この世界最大級のダンジョンで最下層には、かつて魔王が君臨していた。
しかし100年ほど前に魔王は勇者に滅ぼされ、アイテムも根こそぎ数多の冒険者が持ち去り、今では誰も寄りつかない、寂れたダンジョンの代名詞となってる。
少女ウルは顔を充血させてる少年ルウをぼーっと眺めていた。
暇な少女ウルはルウより先に忍びよる魔の手にいち早く気が付いたようだ。
「ねえ、ルウくん、あっちからゴブリンが……」
「今、それどころじゃねぇんだ……悪りぃ……任せるよ」
少女ウルもゴブリン一匹程度なら腰にある細身の剣で一突きだ。
「う~ん、……あたし死ぬかもよ?」
「たかが、ゴブリンだろ?」
「そうだけど100匹以上いそうだよ?」
「え!? なんだって?」
「だ・か・ら、100匹以上は絶対いるんだって!」
少女ウルは少しだけ声を張り上げた。
「バッカじゃねーの? そんなん……いるわけ…………って嘘、だろ!」
ルウも振り向いた。
アリの群れのように蠢くゴブリンの集団が、有無言わず差し迫ってくるのが見てとれる。
「ガグルルルルルルルルルゥ」
醜悪なゴブリンが牙を剥きだし、ルウとウルをワラワラと、とり囲んだ。
「ねえ、ルウくん、どうするの?」
「死ぬしかねぇだろ?」
「イヤだよ……あたし、まだ死にたくないよ!」
「だったらウル、この宝箱に入って隠れとけ! バレないかもしれないぞ?」
「見られてるのに?」
「知能がミジンコレベルかもしれないじゃん」
「じゃあルウくんも一緒に入ってよ?」
「その宝箱、二人も入れないだろ? いいからさっさと入れよ!」
「う、うん。わかった!」
ウルがルウを見つめる。
「な、なんだよ?」
「死なないでね」
「お、おう!」
宝箱の中にウルが身を隠すのを見届けた少年ルウは、ゴブリンに対して強気に叫んだ。
「腐れ外道ども! この宝箱をくれてやるから、さあ、ぼくを見逃せ!」
「ねぇ……ルウくん……」
「お、おま! 何っ! 顔出してんだよ! 見つかるだろ!」
「だって……ルウくん……あたしを見捨てようとしてない?」
「バ、バッキャロー!!! ぼくがそんなことする訳ないだろ!」
「ほ、ほんと?」
「ああ、ほんとだ! 安心して中に入ってろ!」
「う、うん」
少年ルウには隠し玉があった。
ただこれ……スーパーウルトラレアアイテムなんだよな……。
売れば100万ゴールドはくだらない伝説級のアイテムだ。
使うのがもったいねぇなあ……。
「おい、ウル!」
「なーに? ルウくん」
「転送石、使うからやっぱ箱からでてこい!」
ゴブリン達は優しさなのか二人の行動が不可解で困惑してたのか、しばし様子を窺っているようだった。
ウルが宝箱からでてくるとゴブリンの集団は眼光を血走らせ有無言わず地面を蹴り、一斉に二人に襲いかかった。
ルウはウルの手をとると「パルス」と叫んだ。
二人の身体は淡い光に包まれ瞬時にテレポートした。
テレポートしたもののダンジョンの中だった。
ウルはちょっぴり不安げにルウに尋ねた。
「ルウくん……ここ、どこなのかな?」
「ちょっと空気が薄いな……更に下の階層に飛んだのかもしれないな」
「大丈夫なの?」
「うーん、どうだろ?」
ルウはダンジョンの周囲を観察した。
「わかったぜ? ウル」
「ほんと?」
「ああ、ここは、かつて魔王がいた最下層の魔王の部屋だよ」
「魔王の部屋?」
「ダンジョンの中というより部屋ぽいだろ?」
その部屋は荒み汚れきっているものの、かつての魔王の存在を匂わすには十分な魔素がたちこめていた。
またしてもウルは得意げにダンジョンについて夢中で語りだす。
兄のルウよりも先に、またしても少女ウルは今にも動き出そうな影に気が付いた。
「ルウくん、あれ何かな?」
「あ、あれか? あれはかつて勇者に滅ぼされた……って魔王にそっくりだな。魔王って100年周期で復活するらしいから魔王かもしれないな」
「ま、魔王って……ど、ど、どうしよう……ルウ……くん」
「何? ビビってんだよ、ウル? 先制攻撃で倒せばいいじゃん」
少女ウルは決しの表情で床に転がってる石コロを拾い上げ、今まさに復活しようとしてる魔王に石を投げつけた。
「見て! ルウくん! 当たったよ!」
石コロは魔王の漆黒のマントに直撃した。
牡牛のような角のある魔王は眠りを妨げられ不機嫌そうに振り返る。
肌は青白く栄養失調気味だと二人は思った。
「我が魔王と知っての狼藉か?」
「なんだ……随分と弱そうだな」
ルウは不敵な笑みを浮かべ貧乏そうな魔王を鼻で笑った。
「貴様、命が惜しくないのか」
魔王が両腕をクロスさせ手のひらを正面に突き出し翳した。
翳した中心にエネルギーが集束するのをルウとウルは肌身で感じとった。
ルウはバカにして後悔した。
ウルは石を投げたことを後悔した。
栄養失調気味でほっといてもぶっ倒れるとルウは踏んでいた。
「ま、魔王様!!!」
ルウが叫んだ。
「この後に及んで命乞いか?」
「はい、命乞いです!」
「正直な奴だな……」
「魔王様に、この魔剣を献上します!」
「……ぬ? 魔剣?」
「はい、これは誉れ高い伝説の魔剣『魂喰い』です!」
ルウは背負ってた魔剣を魔王に差し出すように跪いた。
「ほほう……見事な鞘だな」
天然なウルでも思った。兄のルウは魔王を油断させ接近したところを一刀両断にするつもりだと。
ところがルウは鞘から剣を抜くそぶりなど見せず、そのまま魔王に献上した。
「健勝なことだ。人間の子よ、我に石を投げつけ我を嘲笑ったこと、赦してつかわす」
少女ウルは涙がでるほど安堵した。
その途端、兄のルウは気が触れたのか狂ったように魔王に罵倒を浴びせる。
「バーカ、バーカ!!! ぼくが尊敬してるのは勇者様だぜ! 魔王なんかお尻ぺんぺ~ん!」
少女ウルは開いた口が塞がらない。
恐怖のあまりルウの頭のネジが飛んだのだと思った。
「殺れるもんなら殺ってみな。その剣は伝説の勇者様の魔剣だ! お前なんかに扱えるとは到底、思えないけどな!」
「ルウ……何言ってるの! あたし……まだ死にたくないよ! 意味分かんないよ!」
少女ウルは困惑した。
魔王の表情が刻一刻と変化する。
魔王の怒りは頂点に達したようだ。
青筋が沸々を浮かび上がり鋭い眼光が二人を刺し貫く。
ところが、ルウはトドメと言わんばかりにズボンを下ろし生ケツを魔王に向け叫んだ。
「お前の腕じゃこの割れたケツすら割れないぜ!」
少女ウルはもうダメだと思った。
兄ルウの奇行を垣間見て、違う意味で死にたいと思った。
「よかろう。この魔剣の錆にしてくれよう」
魔王が魔剣を鞘から抜いた。
その刹那。
魔王は突如、狂ったように悶え苦しみだした。
「る、ルウ……」
「ゴブリン以下の知能だな。魔王って!」
「き、貴様、な、何をしたー!」
「それは、呪われた魔剣なの。わ・か・る?」
魔王は断末魔をあげ消滅した。
ルウは魔剣の刀身にも柄にも触れないように鞘に収めた。
「ルウくん……一体、何が起こったの?」
「ウルは知らなかったっけ? この魔剣『魂喰い』ってんだ?」
「魂喰い?」
「鞘から剣を抜いたら最後、瞬時に剣に魂が喰われる呪われた魔剣さ。呪われたアイテムも使い方、次第なんだぜ!」
ダンジョン大好きな少年と天然少女によって魔王復活が囁かれる間もないまま、魔王は滅ぼされた。
この日、魔王を退治する予定の勇者が神託を受け誕生したことは二人に知る由はない。
魔王の部屋の机には一冊の本があった。
ルウはパラパラとページをめくる。
「うん、この本は凄いぞウル! 魔物の作り方が書いてある!」
ルウは大喜びでアイテムコレクションに加えた。
「よかったね! ルウくん!」
「うん、こりゃ売るのはもったいねぇかも」
「村に戻ったらスライムでも作ってみっか?」
「うん」
ウルはルウににっこり微笑んだ。
ルウは笑顔でウルに微笑み返した。
おわり。
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最後まで読んで頂いて、ありがとうございます!
二人は最後、部屋にある1階層に飛べるポールに触れ、無事に村へと帰りつきます。